Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。
違いを力に、共に進化し続けるリーダーシップ
2025年02月05日
文化の違いを超え、未来を創るリーダーシップ
文化の多様性は、リーダーにこれまで以上に高い適応力と創造性を要求しています。文化的な違いを障害ではなく、新たな可能性の源泉として捉えて活かすリーダーは、組織により大きな価値をもたらすのではないでしょうか。
異なる文化的背景を持つ相手に深い関心を寄せ、理解し、受け入れることに努め、そのうえで内省を重ね、独自の視点やアプローチを融合させて新たな価値を生み出す。こうしたリーダーを目指す鍵となる概念として、今回は「文化的知能(CQ: Cultural Intelligence Quotient)」に注目します。
「文化の違い」を超える力: CQとは?
Cultural Intelligence Quotient(以下、CQ)とは、2000年代初頭にChristopher EarleyとSoon Angによって提唱された概念である。これは、文化的多様性を特徴とする状況において、効果的に機能する個人や組織の能力を指す(※1)。
現代のリーダーシップは、多様な価値観や文化が交錯する環境において適応力と柔軟性が求められている。リーダーはただ違いを認識するだけではなく、その違いを受け入れ、理解し、新たな価値を創出する役割を担っていかなければならない。CQはそのための指針となり得るものである。
文化的多様性を協働の基盤として活用できるリーダーは、自らを柔軟に再定義し、チームや組織を前進させることができる。文化的な違いを「違い」のままにせず、それを成長の源泉として活用する力こそが、組織の未来を切り開く。それは複雑化する現代社会において、持続可能な成長とイノベーションを実現する鍵となるのだ。現在、Harvard Business School, Google, IBMを含む多くの組織が、CQを用いて異文化管理能力やDEI(ダイバーシティー&インクルージョン)プログラムの効果を測定するなど、実務に活用している(※2)。
CQを高める4つの要素
CQは、異なる文化的環境で誰とでも効果的に関わることができる能力を測定するものであり、以下の4つのケイパビリティが相互に影響しあうことで高めることができる(※2) 。
1.CQ ドライブ(Motivational CQ)
異文化への関心と意欲。文化的違いに挑むエネルギーを生み出す。
2.CQ ナレッジ(Cognitive CQ)
異なる文化が人々の思考や行動に与える影響を理解する力。文化的背景に基づいた違いを認識すること。
3.CQ ストラテジー(Meta-cognitive CQ)
異文化間の状況を認識し、柔軟なアプローチを計画する能力。
4.CQ アクション(Behavioral CQ)
文化的多様性に適応し、状況に応じて適切に行動すること。
CQを高めるためには、まず文化的な違いに興味を持ち、理解を深めていくことが出発点となる。次に「違い」に対する理解を積み重ね、その理解をもとに適切な対応方法を考え行動に移す。CQ ドライブは文化的違いに対する意欲を引き出し、CQ ナレッジはその意欲に裏付けられた理解を深める。CQ ストラテジーは状況に応じた柔軟なアプローチを導き出し、CQ アクションはその計画を行動に変換する。
このように、4つの要素を繰り返し実践することでCQを高めていく。このサイクルは、日々の職場での経験を通じて伸ばせるものであり、決して何か特別な場面で必要となるものではない。
文化の違いは日常の中に
「異文化」というと、多くの人は「国籍」や「民族性」を思い浮かべるかもしれない。しかし、実際には「異文化」の本質はそれだけに留まらず、日常や職場といった私たちの身近にも目に見えない形で根づいている。部署や職種ごとの価値観や習慣、さらにはチームや地域特有のやり方――これらもまた「異文化」の一部である。
たとえば、こんな経験をしたことがないだろうか。自分が新しい環境に足を踏み入れたときに、物事の進め方や優先事項の違いに戸惑いを感じたこと。異業種出身のメンバーがチームに加わったときにも、同じように感じたことがあるかもしれない。あるいは、企業合併や部門横断のプロジェクトで、目標は一致しているのに、進め方や意思決定のタイミングで齟齬が生じたこと。実際、ある調査によると、57%以上のビジネスリーダーが、M&Aの失敗の主な原因として「企業文化の不適合」を挙げている(※3)。
このように「文化的な違い」は国籍や言語だけではなく、職場の環境や組織の中にも存在する。つまり、多様性のある組織で働くリーダーにとって、文化の違いを理解し適応することは、普遍的かつ重要な課題の一つであり避けて通れない課題なのである。これは他人事ではなく、私たちの組織でも日々起こっていることなのだ。自分のチームや隣の部署のメンバーも、それぞれ異なる背景から形成された価値観や信念を持っている。こうした「文化の違い」 を捉え、効果的かつ互いに機能しあえる力を身に着けることは、リーダーとしての大きな資産となる。
個々人やそれぞれの組織が持つ文化が効果的に機能すれば、そこから新たな視点や創造的なアイディアが生まれ、イノベーションの基盤となる可能性も秘めている。あなた自身はこの状況にどう向き合うだろうか。違いを「障害」にするか「可能性の源泉」にするか。どちらに転ぶかは、リーダーが違いをどのように捉え、活用するかにかかっている。
- 文化的違いに直面した際、あなたはどのような反応・行動をとっていますか?
- 文化的な違いを超え、あなたは周囲にどのような変化をもたらしたいですか?
- 誰と共に新たな価値を創造していきたいですか?
(記事執筆:コーチ・エィ 山田里紗)
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【参考文献】
※1 Ang, S. and Van Dyne, L. (2008) Conceptualization of Cultural Intelligence: Definition, Distinctiveness, and Nomological Network. In: Ang, S. and Van Dyne, L., Eds., Handbook of Cultural Intelligence: Theory, Measurement, and Applications, M.E. Sharpe, New York, 3-15.
※2 Livermore, D. (2024). Leading with cultural intelligence 3rd edition: The real secret to success. AMACOM.
※3 クロスボーダーM&Aを成功に導く、企業文化統合に向けた提言
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