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人間の成長に向けたAI

先日、「CoachAmit Day ‘25」なるイベントを開催しました。
「CoachAmit(コーチアミット)」は、人の成長を支援するAIコーチです。イベントでは、CoachAmitによるAIコーチングを導入してくださっている企業のトップやユーザーの方が、活用事例をご紹介くださいました。
そんな中、あるハウスメーカーのユーザーの女性の方が話されたことが、とても印象に残っています。
「CoachAmitとやりとりをする中で、毎回、自分と小さな約束をしました。そして、小さな行動を起こしました。その積み重ねが自分を成長させてくれました」
新しい行動を起こす鍵
米国に次のような研究があります。
糖尿病の患者が、看護師コーチと毎週10分話をします。「こういう運動をする」「こういう食事の仕方をする」というように、患者は、セッションの終わりに、毎回コーチに対して行動を約束します。そして1週間後、2人で実施の度合いについて振り返ります。とてもシンプルですが、これによって、患者の生活習慣は大いに改善され、血糖値、コレステロール値ともに低下したと報告されています。(※)
糖尿病の患者だけでなく、誰にとっても、目的のために新しい行動を起こすことは重要です。そして、新しい行動を起こすためのひとつの鍵は「宣言」することです。
自分で何をするのが大事なのかを論理立てて考え、宣言する。心理学ではこれを「宣言効果」と呼んでいますが、実際に言葉にして宣言すると、宣言した行動が実施される確率は高まると言われています。
自分の内側で思うだけではだめで、外側の誰かに宣言する。コーチというのはある意味、人の行動宣言を受け止める役割を担っているわけです。ですが、それができる人間のコーチの数は、世の中圧倒的に少ない。しかも、人のコーチを「雇う」のはコストもかかる。
であれば、AIをコーチにしようではないか、と考えました。AIであれば、数は無限だし、コストも安く済む。人間の行動宣言を受け止め、それを実行するのを支援するAI。それが「AIコーチCoachAmit」です。
答えるAI/問いかけるAI
私は、毎日ChatGPTを使っていますが、必要な回答を短い時間で手にするためには、本当に便利なツールです。
ですが、ChatGPTによって新しい行動が起きるかというと疑問です。ちょっとした知識を得るためのツールとしてはいいですが、新しい行動を起こしたいときに、そのための情報を得たからといって、行動が起きるわけではありません。
行動が起きるためには、前述の様に、その必要性が自分の中で論理立てて構築され、外側に向かって宣言することがキーとなります。つまり、相手が必要です。
AIコーチCoachAmitは、ChatGPTとは違い、人間に「問いかけ」ます。情報提供したり、アドバイスをしたりはしません。
CoachAmitは、生成AIに対して、少し比喩的に言えば、
「いいかAIくん、考えるのは人間だからね。あなたの役割は人間に考えさせて、宣言させて、そしてその成長を支援すること。あなたがすごいということを示すことではないからね。良いコーチのように良い問いを投げかけてよ」
というプロンプトを入れています。
我々コーチのミッションは、「人の可能性をひらく」こと。ですから、AIにも人が自分の内なる可能性をひらくための仕事をさせたかったわけです。
AIで人の可能性をひらく
そんな取り組みを日々している中、今回のイベントで、壇上に登ったユーザーの女性の方が、背筋を伸ばして、凛とした表情で、でもどこか穏やかな口元で、毅然と言い放ったのです。
「自分を成長させてくれました」と。
彼女は、AIを「使って」自分の成長を成し遂げた。だから、とても嬉しかったわけです。
聞けば、日に何度もCoachAmitを使ってくださっているといいます。朝に、昼に、夕に。問われ、考え、宣言し、実行し…このサイクルを何度も何度も回していたら、間違いなく成長は加速するでしょう。
「どこまでAIは人の仕事を奪うのか」という論調のニュースもよく目にする中、彼女はAIを、自分の可能性をひらくためのツールとして活用してくださったわけです。
何かができるようになった、やれる範囲が広がったというのは、何にも代えがたい人にとっての喜びです。AIの登場で、人間が自分の役割を侵食されたと恐れるのではなく、もっと多くのことができるようになったと思える、そんなムーブメントを起こしていきたいと思っています。
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《参考文献》
※ Ruth Q. Wolever et al, “Integrative Health Coaching for Patients With Type 2 Diabetes A Randomized Clinical Trial”, The Diabetes Educator, Volume 36, No.4, July/August 2010
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