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自分だけのテーマを探究し、持ち込んでもらう

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コーチングの企業活用の1つの形態として、上司と部下が定期的に1on1の面談を実施する制度を設ける企業が増えています。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査では、何らかの形で1on1の制度を導入している企業は6割を超えているようです(※1)。今後もこの傾向は続いていくでしょう。

「1on1で何を話せばいいのかわからない」という悩み

先日、1on1制度を導入している大手企業の人事部の方とお話しする機会がありました。その企業では、部下満足度の高い1on1を実施している部署はエンゲージメントスコアが高く、部下満足度の低い部署では、逆にエンゲージメントスコアが低い、さらに、1on1実施率が低い部署ではエンゲージメントスコアがその中間という関係性が発見できたというのです。

つまり、質の高い1on1は組織への好影響が期待できる一方で、質の低い1on1をやるくらいならむしろ何もやらないほうがよいということがわかります。この事例は、形だけの1on1制度を導入するリスクを教えてくれます。

実際に、1on1面談で相談の多い悩みの1つは「1on1で何をテーマにして話せばいいのかがわからない」というものです。せっかく時間を設けても、上司も部下も何を話してよいのかわからないので、無言になってしまう。それだと気まずいので、仕事のタスクや問題解決の話をするものの、それでは日常業務のコミュニケーションと特に違いが感じられないといいます。試しに「1on1、話すテーマ」というキーワードでインターネット検索をしてみると、様々な記事がヒットします。多くの管理職が悩んでいることの証左といえるでしょう。

検索結果に表示される記事を読めば、具体的で実践的なTipsを得ることができます。それらの情報は、たしかに1on1の基盤を整えたり軌道にのせたりするヒントになるでしょう。しかし「それだけではなんだか物足りない」と感じる方や、忙しい中で1on1に時間を投下する価値を感じないという方に向けて、テーマ設定についての1つの提案をしたいと思います。

1on1のテーマは「問い」の形式で設定する

テーマ設定のコツの一つは、テーマを「問い」の形式で設定することです。

たとえば、部下が1on1で「営業センスを磨く」というテーマを設定したとします。このテーマそのものに問題はありませんが、このテーマを見るだけでは脳が動き始める感覚はありません。

このテーマを「問い」の形式で設定してみるとどうでしょうか?

「営業のセンスとは一体何なのか?」
「営業にセンスは本当に必要なのか?」
「営業センスは何によって磨かれるのか?」

先ほどと違って、問いに対して答えを出そうと、脳が思考を始めるような感覚になった方も多いのではないでしょうか。さらに、この問い(テーマ)について考えたり話したりしてみたいかどうかを、直観的に感じることができるのではないかと思います。よい問いというものは、それを聞いた瞬間に考えてみたいというワクワクする感じや、顔をそむけずに向き合う必要があるなという "刺さる"感じがするものです。

ここで1つ注意しなくてはならないことがあります。「問い」の形式でテーマを持ち込んでみてほしいとリクエストすると、しばしば

「営業センスを磨くにはどうすればいいですか?」

という、上司に対する質問の形になることがあります。当然ですが、これでは部下が探索的に思考する時間になりません。1on1のテーマとして置く問いは部下自身に向けられていることが大切です。部下が「自分がわからないことについて上司から正解を教えてもらう」というスタンスでテーマを持ち込まないようにすることに気をつけてください。

答えてみたい問いが必要

ピーター・ドラッカーの有名な話があります。

「私が13歳のとき、宗教の先生が、何によって憶えられたいかねと聞いた。誰も答えられなかった。すると、今答えられると思って聞いたわけではない。でも50になっても答えられなければ、人生を無駄に過ごしたことになるよといった」

「今日でも私は、この問い、何によって憶えられたいかを自らに問いかけている。これは、自己刷新を促す問いである」(※2)

これは私の想像ですが、宗教の先生に問われたときに、ドラッカーの中で直観的に「この問いに答えたい、答えられるようになりたい、この問いの答えについて考えたい」という感情が生まれたのではないでしょうか。

もしドラッカーが上司と1on1をするならば、彼が持ち込むテーマは「何によって憶えられたいか?」という問いかもしれません。

本当に向き合うべきテーマを見つける

しかし、実はこうした自分にとって大切なテーマ、本質的なテーマを見つけることは、多くの人にとっては難しいことでもあります。先日、コーチング(定期的な1on1)の場をもつ価値についてインタビューをさせて頂いた某社の取締役は、こんなことをおっしゃっていました。

「様々な課題に向き合う日常の中で、自分が優先して取り上げ、向き合っているのは、概して自分にとって着手しやすいものだったり、前進感や達成感が得られそうなものであったりすることに気づきました。日々、そうやってやり過ごしながら、本当は向き合わなくてはいけない重要なテーマを特定することや、実際にそうしたテーマに向き合うことのプライオリティを下げているのだと思います。コーチングの時間は、自分が向き合うべき本当のテーマを、見て見ぬふりせず向き合う時間になっていて、そのことに価値を感じ始めています。ただ、自分が向き合うべきテーマはまだ特定できていません。いまもコーチと一緒に探し続けている最中です」

もしかしたらあなたも「本当に向き合うべきテーマは何か?」と問われて、ぱっと答えが出てこないかもしれません。だからこそ、考える価値があるともいえます。

1on1の時間は、部下が自分にとって大切なテーマを自ら見つけることを上司がサポートできる時間でもあります。

「何が話せるといいのか?」
「どういうテーマで話すことが、あなたの成長につながるか?」

なかなか答えが出てこないとしても、問い続け、考えてもらうこと自体に価値があるといえるのではないでしょうか。1on1にテーマを持ち込むことに部下に挑戦し続けてもらうことが大切なのだと思います。

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【参考資料】
※1 【調査発表】1on1ミーティング導入の実態調査
※2 P.F.ドラッカー (著)、上田惇生(訳)ドラッカー名著集4『非営利組織の経営』、ダイヤモンド社、2007年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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