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人はなぜ弱さを隠すのか
![人はなぜ弱さを隠すのか](https://coach.co.jp/view/img/img_20250212.jpg)
フィードバックで知った自分の弱さ
昨年末、社内で360度アセスメントやフィードバックを受ける機会がありました。上司や部下に加え、プロジェクトを共にしている様々な人からフィードバックをもらいました。
フィードバックをもらえること自体はとても嬉しく、ありがたいことなのですが「え、そんなふうに思われていたの?」という想定外の内容もありました。コーチとしてフィードバックをもらうこと、扱うことに慣れているつもりでしたが、思いがけず大きなショックを受けました。
― 自分はこのままで大丈夫だろうか?
― もしかしたら周りから期待されているほど、力がないのかもしれない。
― このままでは周りからの期待に応えられないのではないか?
自分の弱さ・能力不足が露呈することを恐れる感情も湧き起こりました。不安を感じることで、さらに自信を失う感覚もありました。自信喪失の状態です。
実は、前職時代にも同じような経験をしたことがあります。コーチとして仕事を始め、変化したつもりになっていましたが「また同じパターンに陥ってしまうのか」という恐怖を感じました。
自分が陥りやすいパターンが見えてきた
ただ、以前と違うのは、社内にコーチがいることです。コーチに、今回のフィードバックによって感じたショックや不安、弱音を正直に吐露しました。
コーチングを受ける中で言語化できたのは「失敗したくない、だめな奴だと思われたくない」という気持ちが強くなると、以下のような負のスパイラルを自分でつくりあげるパターンに陥りやすいことです。
失敗したくない、だめな奴だと思われたくない
⇒ 弱さや能力不足をばれないようにしようと隠したくなる
⇒ 逃げのマインドになり、行動しなくなる、ますます自信がなくなっていく
また、実は自分の実態そのものではなく、自分の中で湧き起こる不安や恐れの感情が問題なのだと気がつきました。
コーチングのおかげで、一歩引いて自分の感情に向き合い「自分の弱さ」を受け入れることで、負のスパイラルから抜け出せた感覚がありました。同時に、自分の弱さをコーチ以外の同僚にも正直に話すことで、相手との距離が縮まる体験もありました。
コーチがいたことで、フィードバックの受け止め方が変化し、成長への意欲が増すことを実感した体験となり、改めてコーチングの価値を認識しました。
人は自分の弱さを隠すことに大きなエネルギーをつかっている
ロバート・キーガンらの『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(※1)によると「組織のほとんどの人が、本来の仕事とは別の『もう一つの仕事』に精を出している。大半の人が自分の弱さを隠すことに多大な時間とエネルギーをつかっている」ようです。
この本にはまた「人が能力を開花させるためには、その妨げになっている固定観念と自己防衛本能を白日のもとにひっぱりだし、それと向き合い、最終的にのりこえなくてはならない」とも書かれています。
組織において、弱さを隠すことに多くの労力が割かれているとしたら大いなる損失です。それこそが、人や組織の成長を阻む大きな要因になっているのではないでしょうか?
私が負のスパイラルに陥るパターンは「失敗への恐れ」、さらには「失敗したことによって周囲から思われているほど優れていない自分がばれてしまうこと」への恐れからきていました。
私に限らず「失敗したくない」「できない奴だと思われたくない」人は多いのではないでしょうか?
しかし、そもそも失敗とは何でしょうか?
どうなると失敗だと思っているのでしょうか?
いったい何を恐れているのでしょうか?
何を失敗ととらえるのか
エグゼクティブ・コーチングのクライアントであるAさんは「失敗だと思うことがない」とおっしゃいます。
どういうことか尋ねると、
「社長になってから、長期的な視点で物事をみることを意識している。短期的に成果が出なくても、長期的に見れば次につながる学びになるので、失敗だとはとらえていない」
という答えが返ってきました。そう語るAさんからは、本当にそのように考えていらっしゃるのだろうということが伝わってきましたし、こういったスタンスが社員のチャレンジを促進しているのだろうと思いました。
キャロル・S・ドゥエックの『MINDSET 「やればできる!」の研究』(※2)は、失敗について以下のような考え方を紹介しています。
「能力を固定的に考える世界では、つまずいたらそれでもう失敗。落第点を取る、試合に負ける、会社をクビになる、人から拒絶されるーーそうしたことはすべて、頭が悪くて才能がない証拠だ。それに対して、能力を伸ばせると考える世界では、成長できなければ失敗。自分が大切だと思うものを追求しないこと、可能性が十分に発揮できないことこそが失敗となる」
「失敗を恐れずにチャレンジする組織文化をつくりたい」というのは多くの企業様からよくご相談いただくテーマですが、そもそも何を失敗だととらえているのかは、人によって違う可能性があるわけです。まずは「失敗とは何か」について対話し、新たな解釈をつくることが重要なのかもしれません。
弱さを見せあえる組織になるために必要なこと
では、弱さを見せあえる組織になるためには何が必要なのでしょうか?
私自身の体験から、そのカギは「周囲との関わりによって、自分の弱さがもたらす負の感情から抜け出すことのできた成功体験」にあるのではないかと思っています。
失敗を恐れ、不安な感情から負のスパイラルに陥っていた私でしたが、おそらく一人でそこから抜け出すことは難しかったと思います。また、できたとしても非常に長い時間がかかったでしょう。
・安心安全な場で、まず自分の感情や気持ちをコーチに聞いてもらえたこと
・コーチングにより、冷静に自分のパターンを認識できたこと
・弱さをみせても、むしろ距離が近くなり、大丈夫なんだと思えたこと
こうしたことが積み重なり、周囲との関わりの中で、負の感情から抜け出せたことで「たとえ今後同じようなことが起きたとしても、きっと大丈夫」と思える自信につながりました。
環境が大きく変化するVUCAの時代の中で、人・組織が成長し続けることは必要不可欠となっています。弱さを「隠す」のではなく、オープンに共有し、それを克服するプロセスを通じて、組織全体の力を高めていくことができるのではないか? 今回の体験を経て、その想いが強くなりました。
あなたは、知らず知らず、自分の弱さを隠そうとしていないでしょうか?
そもそも何を失敗だと思っているでしょうか?
どんな成長にチャレンジしたいでしょうか?
そのことを誰と話せるとよいでしょうか?
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【参考文献】
※1 ロバート・キーガン(著)、リサ・ラスコウ・レイヒー(著)、 中土井僚(監訳)、 池村千秋(訳)、『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』、英治出版、2017年
※2 キャロル・S・ドゥエック(著)、今西康子(訳)、『MINDSET 「やればできる!」の研究』、草思社、2016年
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