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物語の交差点 ~トランジションを迎えるあなたへ~

人にはそれぞれの物語がある
みなさんは、没入型演劇を体験されたことはありますか?
私は今、上海に住んでいます。
上海には「不眠之夜(Sleep No More)」という没入型演劇があり、友人に誘われて観に行きました。
「不眠之夜」は、4階建ての建物全体が舞台となります。観客が物語の世界に入り込み、自由に探索しながら体験する没入型演劇です。通常の舞台のように客席で鑑賞するのではなく、観客自身が会場内を歩き回りながら、登場人物の行動を間近で観察したり、物語の断片を拾い集めたりすることができます。入場時に白いマスクが配られ、観客は全員これを着用します。マスクをつけることで、観客は「匿名の存在」として、物語の一部になることができます。観客は一切話すことができませんし、演者たちに触れることも禁止されています。
3時間半の公演のうち、最初の3時間は1時間の物語が3回繰り返されます。つまり、同じ物語が3度上演されます。鑑賞方法に決まりはなく、観客は好きなように行動できます。例えば、ある観客は1人の演者の足跡を追いかけるかもしれませんし、別の観客は一つの部屋にとどまり、そこに訪れる人物たちのやりとりを見つめるかもしれません。自らの選択次第です。鑑賞法が無限にあると言っても過言ではないでしょう。また、建物全体の至る所で、物語が同時進行しているので、一度の観劇では全貌を把握しきれないという特徴があります。
私は最初、赤いドレスを着た女性の演者を追いかけました。彼女はさまざまな人物と出会い、物語が展開していきます。次に、彼女の物語に大きな影響を与えていた黒いスーツを着た男性演者を追いました。すると、先ほど赤いドレスの女性の物語の視点で観た場面を、今度は黒いスーツを着た男性の物語の視点で観ることができたのです。
「なぜこの場面で二人は出会ったのか?」
「なぜ赤いドレスの女性の物語に影響を与えたのか?」
異なる視点を得ることで、一つの物語がより立体的に、豊かに感じられる――その体験は新鮮で、感動的でした。
この演劇を通じて「人にはそれぞれの物語がある」ことを改めて実感しました。
Lead-selfをしている人同士の交差点
私の好きなリーダーシップの書籍のひとつに『リーダーシップの旅』があります。この本では、リーダーシップを「Lead-self」「Lead-people」「Lead-society」という三段階で捉えています。まず自らを導き(Lead-self)、次に仲間やチームを導き(Lead-people)、最終的には社会全体に影響を与える(Lead-society)。
リーダーシップは、多くの場合リーダーの視点で語られます。 しかし「人にはそれぞれの物語がある」という視点に立つと、Lead-peopleの"people"もまた、自らの物語を生き、Lead-selfをしていることに気づきます。「不眠之夜」の登場人物がそれぞれの意図を持って動いていたように、組織のメンバーもまた、目的を持ち、意思を持って動いています。
この観点に立つと、リーダーシップとは、一方的に導くものではなく、Lead-selfをしている人同士の交差点で生まれるコラボレーションと言えるかもしれません。
リーダーは周囲の人々の物語に耳を傾ける
まもなく4月。トランジションを迎える方も多いでしょう。
そこには、多くの新しい出会いが訪れることと思います。 そのとき「あなたはどこに行こうとしているのですか?」と尋ねてみてはいかがでしょうか。
この問いかけが、互いの物語を理解し合う第一歩になるはずです。 そして、単なる業務の枠を超えた、新しい物語が生まれるかもしれません。
誰もがLead-selfをしている存在で、それぞれの物語を生きています。
リーダーとしてのトランジションは、自分自身の物語を見直すだけでなく、周囲の人々の物語に耳を傾ける貴重な機会です。その交差点で、どんな物語が生まれるのか――それを楽しみに歩き出してみませんか。
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