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「コミュニケーション反射能力」を高めるには

弊社では昨年から公式YouTubeチャンネルを立ち上げ、コーチングにまつわる様々な発信をしています。その中に、会長の鈴木義幸が「よいコーチの条件は?」というテーマで解説している動画があります(※1)。
そこで鈴木は「コミュニケーション反射能力」という表現を使っています。それが高いことがよいコーチである条件のひとつだというのです。
私はクライアントとのコーチングの後「あの時にこの問いを投げかければよかった」「クライアントのあの発言にこう返せばよかった」と振り返ることがあります。私のコミュニケーション反射能力が高ければ、より効果的なコーチングになったのでは、と思うのです。コーチであるみなさんは、少なからずこのように思うことがあるのではないでしょうか。
では「コミュニケーション反射能力」とはいったいどういうものなのでしょうか。
前述の動画の中で、鈴木はコーチングのやり取りをボクシングにたとえ、コーチは投げかける問いを「頭で考えていては間に合わない」と言っています。鈴木は「問いかけが浮かぶに任せる」と言っていますが「浮かぶに任せる」過程では、自ら身につけた知識や培った経験をベースにした「自分」というフィルターが存在します。
つまり、クライアントの状況に対して、受け止め、自分の知識や経験を通して解釈し、判断するプロセスが、無意識のうちに瞬時に行われるのがフィルターです。この「フィルターとしての自分」に反射能力を高める鍵がありそうです。
反射能力を高めるもの
フィルターの効果を高めることとして、まず知識をつけることは言うまでもないでしょう。先ほどの自己認識についての知識をはじめ、人の認知機能、心理効果、集団や関係性に関する知見などがあることによって、相手の発話に対して反射し浮かんでくる問いのバリエーションは増えるでしょう。他の専門職と同様、コーチも学習し続けていることが求められるゆえんです。
経験もフィルターの効果に直結しています。自分自身で経験したことを元にして、私たちはよりよい選択をしていくことができますが、この経験を通じた視点が充実することで、そこから豊かな反射を起こすことができます。最近、コーチングの中に主観を持ち込むということがよく言われますが、この主観は経験をベースに生まれてくるものです。先の例で言えば、人の話を聞くことに苦労した経験や、自分の話を聞いてもらえなかった経験から主観が生まれ、それが持ち込まれることによってコーチングが豊かなものになるということです。
しかし、知識や経験以外でも、自分というフィルターの効果を高めることができるヒントをつかんだ体験がありました。それは、私自身が鈴木のコーチングを受けた時のことです(※2)。
私はまだ分かっていない
鈴木「今どういうことに向き合っているの?」
私「他者に対して怒ってしまうことを克服したいです」
鈴木「どうやって自分を怒らせているの?」
この問いは、怒りは二次感情であるという知識や、過去たくさんのクライアントとのコーチングを行った経験を通じて発せられたには違いありませんが、それだけではない要素があるように私は思いました。
怒りの感情を克服したいというテーマをクライアントが提示してきたことに対し「怒りの感情が課題なのだから、それをクライアントが克服できるようにしよう」という解釈をコーチがすることは自然に思えます。しかし、この時点でいろいろな可能性を捨ててしまっているともいえると思うのです。つまり、クライアントから発せられたままに、怒りを克服すべき対象と解釈することで、それ以外の可能性が探求されることはありません。
たとえば、
- クライアントは怒りを克服したいのではなくて本当は怒りたいのかもしれない
- 本当は怒りではなく別のことを表現したいのかもしれない
このようにクライアントが発する言葉の解釈に柔軟になることができれば、フィルターの効果は高まりそうに思えます。言い換えれば「私はまだ分かっていない」という視点を持つことが、コミュニケーションの反射能力を高めるもう一つの要素に思えます。
私たちは知識を身につけ経験値を高めることによって、それらをベースとしたコミュニケーションの反射能力を高めることができますが、それだけでは固定化した考えにつながり、逆に反射能力の限界をもたらしてしまいます。私たちはいち早く分かろうとすることによって、自らのコミュニケーションの反射能力を制限しているのかもしれません。知識や経験を持ちながらも、自分の目の前に現れるものごとに対して「私はまだ分かっていない」という視点を持つことが、その限界を超える鍵になるように思います。
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【参考資料】
※1 コーチ・エィ公式YouTube 【経営者必見】コーチ・エィ代表 鈴木義幸が考える「良いコーチ」の条件とは?【コーチング上場企業社長が解説】
※2 コーチ・エィ公式YouTube 【私を怒らせているのは部下の方だろう】感情が表に出てしまうマネージャーとのコーチングでコーチ歴25年の鈴木義幸が見せた"鋭い問い"。今までにない緊張感の20分、どうなる…?
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