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視座は、崩してこそ上がるもの

4月から、ひとつ上のポジションに昇進したり、新たな環境でのタフアサインメントにチャレンジしたりと、キャリアにおける成長の機会を手にした方も多いのではないでしょうか。この時期にスタートするコーチングでよくあるのが「視座を上げる」という目標設定です。
視座が上がったかどうかは目に見えるものではありませんが、コーチとしてクライアントとセッションを重ねていくと、その発言の変化に「あ、これが視座が上がったということかも」と、明らかに感じる瞬間が訪れます。
視座が上がると、いったいどんな変化が起きるのでしょうか。
視座が上がると発言が変化する
視座が上がるとは、シンプルに言えば今よりも上の立ち位置で物事を見られるようになること。文字の印象からは縦軸の高さを連想しますが、私がクライアントに対して「視座が上がった」と感じるときには、他にも「視野の広がり」や「多様な視点」を手に入れて、それらが三次元に拡大し大きな立体になっているイメージを持ちます。
実際にコーチング期間中に、クライアントの発言にどんな変化があるのかを振り返ってみました。
「あなたはこの会社をどうしていきたいですか」
クライアントのビジョンを問う質問です。
コーチング開始時には、自身が持っている情報をもとに、目の前の事象の変化が会社の成長にどのように影響を与えるかという視点で語られる傾向があります。
- この会社の成長を加速させるために、基幹事業の競争力を高め、売上・利益の最大化を目指したい
- 部門間連携を強化し、最大のシナジーを生み出せる組織を作りたい
クライアントが多様な視点を取り入れ、より高い視座を持つようになると「この会社が社会でどうあるべきか」という視点にシフトし、会社の存在意義や提供価値の観点で発言されるように感じます。
- この会社が社会にどんな価値を提供できるのかを、従業員やお客様と共に考えながら成長させていきたい
- 競争だけでなく、業界や社会と共に発展できるようなエコシステムを構築していきたい
視座が高まることで、人材育成や次世代リーダー開発に関する考え方や発言も大きな変化が見られるようになります。
新たなポジションに着任したばかりの頃は 「今いる人材をどう成長させるか」という視点が中心で、事業の成長に直結するリーダーを早期に育成することを重視される傾向がありますが、経営者としての意識の深まりとともに、組織全体の成長にむけて「組織文化の醸成」「長期的なリーダー開発」「社会に求められるリーダー像」を考えるようになります。
このように、
- 俯瞰して全体最適で判断する
- 一つの事象を何層にもわたって深く解釈する
- 長期的に及ぼす影響も考慮して決断するようになる
- 多くのステークホルダー(従業員・顧客・株主・パートナー・社会など)を考慮にいれて、複数の観点から問題に取り組む
といった意識の変化が、視座の高まりとして発言に現れ、やがて目に見える行動として実現されていくのです。
ただ、一見「視座が上がった風」の発言は、少し考えれば簡単にできそうな気がしませんか?
「視座が上がった風」なのか、「本当に視座が上がった」のか、その違いは、自分の前提や深く根付いた思い込みを認識し、それに本気で「挑戦」しているかどうか、この一点に表れているように感じます。
では、この違いは何によってもたらされるのでしょうか。
ブレークダウンが視座を上げる
その根幹には「ブレークダウン」という体験が存在します。
ブレークダウンとは、これまで当たり前と思っていた前提が通用しなくなる瞬間です。今まで大切にしてきたもの、信じてきたルール、頑張って築いた自分像が、通用しなくなったり崩れたりする。意図せぬ環境変化や大きな失敗、他者からの容赦ないフィードバックなどをきっかけに、それは突然やってきます。
そうした瞬間、私たちは一度「止まってみる」ことを余儀なくされ「どうしてこうなったのか?」「自分はなぜこのように考えてきたのか?」と問い直す"間"が生まれます。この"間"こそが、挑戦への入口です。
ブレークダウンは意図的に引き起こすこともできます。それが「問い」の力です。
問いには、現在の前提を揺さぶり、見えなかったものを照らし出す力があります。
- 本当にそうなのですか
- なぜそれを「しなければいけない」と思っているのですか
- その正しさは誰のためのものですか
コーチングでは、コーチがこのような問いを投げかけ、クライアントが自分の思い込みや前提に向き合い、答えが出なくても問い続けるというプロセスに伴走していきます。居心地が悪く、ときに苦痛や不安を伴うけれど、あえてそこに挑戦する。だからこそ深い自己理解や変容につながる重要なポイントです。
視座というのは、緩やかに変化していくものではなく、激しいブレークダウンによって今まで土台としてきたものがバラバラと崩れて、それが再構築されるたびに高さも広さも奥行きも一気に広がっていくように感じます。自分の当たり前や前提を見直し、思考の枠が壊れたときに、違いを認める素直さ、自分のこだわりを脇における潔さ、そして視座も視野も視点も自在に動かせるような柔軟性を手に入れるのではないでしょうか。
本当に視座が上がった人の言葉には、何度か傷ついても起き上がってきた強さと覚悟が感じられます。一人の人間としてブレークスルーを起こしたとき、そこから見える景色はきっと今までとは全く違うものになっているのでしょう。
崩れたその瞬間から、本当の成長は始まる。視座の変化は、その痛みの中に宿っているのかもしれません。
あなたも、自分の当たり前を超えて、1年後、見たことのない景色を見てみませんか。
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