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意味をめぐる旅 ー 現代のリーダーに問う

意味をめぐる旅 ー 現代のリーダーに問う
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これまでとは全く違う時代

かつてないほど終着点の見えない変化が、私たちの社会や組織に襲いかかっています。私たちがどこかで想像していた未来像を根底から塗り替えていくような変化です。

そんな中、多くのリーダー達が企業の未来を切り拓くために「意味」を問い直す"旅"の真っただ中にいます。そして、私たちが日々コーチしているリーダーたちは、次のようなジレンマに陥っていることが少なくありません。

  • 戦略はある。けれど、なぜそれを実行するのか、自分でも納得感が持てない。
  • 変化を起こすよう求められている。けれど、何を拠り所にすればよいのかわからない。
  • 更なる昇進が期待されている。けれど、それが本当に自分の望むことなのか確信が持てない。
  • 組織に向けてメッセージを発する立場にある。けれど、自分自身の言葉が定まらない。

こうしたジレンマは、個人の意志や能力の問題で発生しているわけではありません。かつては、社会の中で共有された大きな物語があり、それが私たちに何らかの「意味」を供給していました。「頑張れば報われる」「よい学校・よい会社に入れば未来は切り拓かれる」といった共通認識のおかげで「意味」について難しく考えなくてもよかったのです。しかし、今、そういった「意味の供給装置」が崩壊してしまった、そのような時代になったのです。

意味はどこから生まれてくるのか

『人類共通の目的がない時代』という対談の中で、経済評論家の波頭亮氏、及び歴史家の磯田道史氏がこのように言っていたのがとても印象に残りました。

  • 人類史の目的が定まっていたのがこれまでの200年
  • 権力構造の序列の中で行儀よく座って、素直でいるだけではもう幸せにはなれない
  • 今の時代は自分の幸福追求力が問われる
  • どうなったら自分は嬉しいのか、幸せになるのかわかる力が必要
  • これからは哲学的に生きることが求められる

つまり私たちには今「自分はどうなったら幸せであり、そして自分の生にどんな意味を与えるか?」、そういう根源的な問いが突きつけられているのです。現代のリーダーは、自らの存在に対して、自ら問い、意味づけなければならない、これまでの時代にはなかったような挑戦に直面しています。

では、意味というのはどこから生まれてくるのでしょうか。
コーチとは、まさに「意味」についてクライアントに問い、そして共に考える存在です。私自身、多くのリーダー達にコーチとして関わりながら思うのは、意味とは知識や正解ではなく「内なる物語」のようなものだということです。「自分が何のためにここにいるのか」「何に心動かされ、誰とどんな価値を分かち合いながら生きていきたいのか」、それは、頭でつくるものではなく、問いを抱え、正解のない揺らぎの中を生き、他者や世界と深く関わる中で、じわじわと立ち上がってくるものだと思います。同時に、意味は「意志」によって編まれるものでもあります。「何を大切にして生きたいのか」「どんな世界をつくりたいのか」。その問いに、自ら応答しようとする意志こそが、意味を生み出す力になるのではないでしょうか。

意味を問うための問い

「あなたはどんな未来を望んでいますか?」
そうリーダー達にお聞きすることが増えてきました。確信を持って自分の想いを話し出すリーダーは多くありません。私自身、答えにつまります。

最初は、答えにつまって天を仰ぐか、自分ではない他の誰かが望んでいることを、あたかも自分のやりたいこととして語り出すか「社員が幸せになること」など、極めて抽象度の高い、最大公約数的な話をし出すかです。
「それは本当にあなた自身が心から望む未来でしょうか?」、そう何度も聞き直します。

意味をめぐる長い対話がこうやって始まるのです。言葉にしてみて、イメージしてみて、人と共有してみて、自分の心の内側が揺れ動くような、そんな感覚が掴めるまでの長い長い旅です。

他でもないあなた自身が心から望むこと、それは何でしょうか?
あなたが自分の人生に望むこと、そこからあらゆる意味が立ち上がってくると考えています。

自分の心の声に耳をすませる

クライアントとのコーチング・セッションの中で、自分のやりたいことを、30個書き出してもらうことをよくやります。仕事のことでも、プライベートのことでも、思いつくままに書き出してくださいとお願いします。最初に出てくることは、最近やりたいと思ったことや記憶に新しいこと、またはずっとやりたいと思っていたことでしょうか。

20個も過ぎると手が止まります。そこから黙って深く考え始めます。「何があるだろうか」と脳の記憶領域にアクセスしていた意識が、段々と奥深く「私が求めていることは何か?」と、自分の心に問うようになっていく、見ていてそんな風に感じます。

「大したことではないのですが」、そんな前置きと共に、これまでとは種類の違うことが出てくるのを何度も目撃してきました。そしてそこで語られる内容は、その人が人生で成し遂げたいことや、やりたいことではなく、味わいたいと思っている感情、そのことについて語られているように思うのです。

「あなたはどんな感情を味わいたいと思っている人なのでしょうか?」

その問いを間に置いて対話を続ける中で、クライアントから出てくる言葉を要約すると、

  • 誰かに必要とされていたい、誰かとつながっていたい、誰かの役に立っていたい
  • 自分自身に肯定感を感じていたい、自分に宿る力を感じていたい、誇りに思っていたい
  • 自由を感じていたい、創造性を発揮したり、好奇心でわくわくしていたい
  • やすらぎや、穏やかさ、安心を感じていたい

表現は様々ですが、こういったことがクライアントの口から語られます。私たちの心の根底にある、静かで深い願いがここには表現されているように思うのです。そして、この心の底にある想いが自覚されると、どこかクライアントの方たちがそれまでとは違って自由に自分の未来を語りだすようにも感じています。

私たちは日々、忙しさや責任の中で埋もれがちな生活をしています。そして立ち止まることなく、そして本当は自分がどうなったら幸せになれるのか、それを考えることも追求することもなく、ひたすら前進することを自分に課しています。ただ、こういう時代になってきたからこそ「自分の心の声」に耳を澄ませ、曖昧で答えの出ない問いに正面から向き合うことも必要なのだと思います。

「対話の旅」へのお誘い

私はこういう時代に、コーチでいられることをとても幸せに思います。やりがいを心から感じます。
これから誰もが「自分が何者」で、そして「どこに向かいたいのか」、その問いに立ち止まり、真剣に向き合わざるを得ない時代が来ているからです。間違いなく、そこにコーチの役割があると信じています。

皆さんは、自分自身の未来に何をのぞみますか?
そして、そこでどんな感情を味わいたいのでしょうか?

この問いには、正解がありません。
ただ問い続けていくしかない「実存的な問い」です。
コーチとして、そんな「問い」と「対話の旅」に、皆さんをお誘いしたいと思っています。

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