Coach's VIEW

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あなたの「沈黙」は、あなたが思っている以上に影響を与えている

「君が何も言わないということは、組織文化の再生産に加担しているということだ」
以前、私は上司からこのようなフィードバックをもらいました。

このフィードバックを私なりに解釈するとこうなります。

自分たちが目指す組織文化を誰かが棄損する行為を目の当たりにしながら、何も言わないということは、現状の組織文化を認め、その文化を再生産することに力を貸している。

この場合の「沈黙」が意味するもの。
それは「容認」、ということです。

「沈黙」に、こんなにも強い意味があるとは、そのときまで深く考えたことがありませんでした。
そして私は、強い衝撃を受けました。

以前私が書いたコラム「あなたの言葉はあなたが思っている以上に影響を与えている」(※)では、言葉の力について触れました。リーダーの何気ない一言が、相手を勇気づけることもあれば、委縮させてしまうこともある。だからこそリーダーは、自らの言葉に自覚的である必要がある――そんなメッセージをお伝えしました。今回はその続編です。テーマは「言葉」ではなく「沈黙」。つまり、「言わないことを選ぶ」「黙る」という行為が、どのように周囲に影響を与えるのかを考察します。

沈黙が与える多面的な影響

日本には「沈黙は金、雄弁は銀」「言わぬが花」といった、沈黙を美徳とすることわざがあります。多くを語らず、控えめに振る舞うことを尊ぶ文化が、私たちには深く根付いています。そうした文化的な背景は、リーダーの沈黙に一層重みを与え、周囲に強い影響をもたらします。

沈黙には少なくとも三つの側面があります。

1. 余白としての沈黙
リーダーがあえて言葉を差し挟まないことで、相手は考え、語り、考えやアイディアを広げる余地が生まれます。問いを投げかけた後に沈黙を置くと、相手は「もっと考えてみよう」と思い、会話が深まる。コーチングでは沈黙を「意図して使うスキル」と捉えます。沈黙が内省の促進剤となり、相手の思考を深めるのです。

2. 合図としての沈黙
時に沈黙は承認や黙認のサインと受け止められる場合があります。会議でリーダーがコメントを控えたとき、メンバーは「支持された」と感じて突き進むかもしれません。もし方向性が誤っていれば、その沈黙は誤解を助長する危険をはらみます。

3. 感情表現としての沈黙
沈黙は、場の空気や人の感情を強く映し出すことがあります。安心感を与える沈黙もあれば、逆にプレッシャーや不安を高める沈黙もある。私自身、上司から何も言われなかったことで「信頼されている」と感じた経験もあれば、「見捨てられたのかもしれない」と不安を覚えた経験もあります。沈黙は、その場の関係性や信頼残高を映す鏡でもあるのです。

なぜ「沈黙」を選ぶのか?

私は人と関わるとき、相手に対して、またその場に対して、率直で正直でありたいと思います。そのため、思っていることはできるだけその場で伝えることを心がけています。

私の発言によって、場の雰囲気が一変したり、決まりかけていたことが崩れたり、ときに相手が傷ついたりすることもあります。でも私は、正直でありたいと思います。

そんな私が、「沈黙」を選ぶ理由を考えると、いくつかあるうちの代表的なものは以下の二つです。

一つは、コーチとして、リーダーとして、あえて「沈黙」し、相手から言葉が紡がれてくるのを待つためです。「あなたなら、きっと答えを出せるよ」という相手への信頼です。私の体験上、多くの場合、良い結果につながる実感があります。

もう一つは、度重なる無力感の体験からくる、「あきらめ」です。何度か正直に伝えても、一向に変わらない、動きがない、進展がない。それは、「言っても意味がない」という捉え方を生み出し、ある時、「沈黙」を選ぶようになるのです。

ただ、こういうときほど、あとで大きな問題が起きてしまいます。その問題は、私の「沈黙」によって引き起こされているかもしれない、と思うのです。

リーダーに求められる二つの感覚

リーダーに必要なのは、沈黙を無意識に選ぶのではなく、意図して使うバランス感覚です。

1. 言わない勇気
自分がすぐに答えを出さず、あえて沈黙を選ぶことで、メンバーに考える機会を与える勇気です。優れたリーダーほど、問いを投げたあとに沈黙を置き、場に熟考の時間を与えています。

2. 言わなかった責任
自分が発言を控えた結果、誤った解釈や判断につながった場合、その責任を免れることはできません。沈黙が誤解を生むリスクを理解したうえで、「ここは言葉にすべきか、あえて言わないか」を選ぶ自覚が求められます。

言葉と沈黙の往復が生むリーダーシップ

リーダーにとって、言葉は方向を示す力強いツールです。しかし同時に、沈黙もまた重要なリーダーシップの表現方法です。

大切なのは、言葉と沈黙を無意識に使うのではなく、選択的に使い分けること。言葉で方向性を示し、沈黙で相手に余白を与える。沈黙で観察し、必要なときに言葉で補正する。この往復を繰り返すことで、チームの主体性と組織の一体感が育まれていきます。

・ 最近、どのような場面で「言わない」ことを選びましたか?
・ あなたの沈黙は、相手にどんな意味で受け止められているでしょうか?
・ あなたの沈黙が、何かの「容認」になっている可能性はないでしょうか?
・ その沈黙は、考える余地を与えていますか? 誤解を生んでいますか?
あるいは安心感やプレッシャーを与えていませんか?

・ 沈黙を戦略的に使うとしたら、どんな場面が考えられるでしょうか?

沈黙には力があります。
次に沈黙を選ぶとき、あなたはその意味をどのようにデザインしますか?

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【参考資料】
※ 長田祐典、「あなたの言葉はあなたが思っている以上に影響を与えている」、Coach’s VIEW、Hello, Coaching!、2022年12月14日

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