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あなたの言葉はあなたが思っている以上に影響を与えている

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私たちは、毎日、他者と多くのコミュニケーションをとっています。そこでは、多くの言葉が行き交います。

みなさんは、日々、どのくらい自分の使う言葉に意識を向けているでしょうか。また、その言葉が、相手にどのような感情をつくり出しているかに意識を向けたことはあるでしょうか。

「アドバイスしてもいいかな?」という一言が与える影響

「アドバイスしてもいいかな?(Can I give you an advice?)」というフレーズだけで、人は、防衛体制に入る。なぜなら、彼らの脳は、アドバイスする側が「私の方が偉い」と、自分の優位性を主張しているとみなすからである。これは、暗闇で足音が聞こえたときと同等のコルチゾールを分泌する」(筆者訳)

これは、「ニューロリーダーシップ」という言葉をつくり、脳科学研究を用いて個人や組織のパフォーマンス向上に取り組んでいるDavid Rock博士による文献の一説です。(※)

コルチゾールとはホルモンの一種で、人がストレスを受けたときに分泌が増えることから「ストレスホルモン」とも呼ばれます。過剰なストレスを受け続けると、コルチゾールの分泌が慢性的に高くなり、これがうつ病、不眠症などの精神疾患、生活習慣病などのストレス関連疾患の一因となるようです。

「アドバイスしてもいいかな?」というありふれた何気ない一言は、相手のためを思っての発言なのかもしれません。しかし脳科学的観点からは、相手に「恐怖」や「不安」に似た感情を引き起こすというのです。

あなたの思いは、相手に伝わっているか

自分の使う言葉が、思ってもいない感情を相手に引き起こしているとしたら、それを見過ごすことはできません。自分がどんな言葉を使っているか、そしてそれが相手にどんな影響を与えているかについて考えることは、意味がありそうです。

以下に紹介するのは、私の知るいくつかの例です。

あるリーダーは、社員と危機感を共有したいと思い、「生き残り」という言葉を頻繁に使っていた。その度に、社員たちは、「自分の会社は、そんなに危ないのか?」という不安を感じていた。

ある海外拠点のリーダーは、「私もあと半年か一年で帰任なので」という枕詞をつけて、コミュニケーションを交わしていた。それを聞いていた現地のスタッフたちは、「どうせまた方針が変わるだろうから、次の人が来るまで何もしないでいよう」という気持ちになっていた。

あるリーダーは、わかりやすいようにと、会議の場であえて、「出向社員が...」「プロパー社員が...」と区別してコミュニケーションをするようにしていた。社員たちには、「わかってはいるけど、超えられない壁があるんだな」というあきらめを感じていた。

あるリーダーは、部下に会社方針の意味を質問され、部下と同じ目線であることを伝えたいという思いから、「俺もわからん」と笑いながら答えた。それを聞いた部下たちは、「上司もわからないなら、まだ自分もわからなくていいか」と、それ以上会社方針を理解しようとすることをやめていた。

あるリーダーは、社長の方針発表を受け、「社長は、ああいうけど、実際は難しいよね」と、部下の気持ちをおもんばかり、ねぎらうつもりで声をかけていた。それを聞いた部下たちは、「上司もそう思っているなら、難しいから仕方がないか」と、安心してしまった。

あるリーダーは、よい解決策が浮かばず、頭を悩ましている部下に、よかれと思って、「前の会社では...」「前の部署では...」と事例を紹介していた。それを聞いた部下たちが、「じゃあ、前の会社、前の部署に戻れば?」と、不信感を募らせていた。

あるリーダーは、部下に期待していること、相手を買っていることを伝えようと、「この仕事は君しか担当できない。今、君に異動されたら困るから、希望部署からのオファーがあったけど、異動は待ってほしい」と伝えた。部下は、「自分の人生はこの人に握られているんだ」と不自由さを感じ、退職を決意した。

あるリーダーは、期初の方針説明会で、「もっと変化を起こしてほしい、チャレンジしてほしい」と期待を伝えた。それを聞いていた社員たちは、「あなたはどうなのか? あなたは何にチャレンジしているのか?」と白けていた。

どれも何気ない一言だったり、良かれと思っての一言だったり。しかし、確かなのは、リーダーの思いとは裏腹な感情を部下に生み出しているということです。

一方で、こんなケースもあります。

あるリーダーは、どんな時も「私たちは」という主語で話していた。それを聞き続けた社員たちには「私たちは仲間なんだ」という実感が生まれた。

あるリーダーは、自身のビジョンを語ったのち、「一緒にやろう」と、社員を誘った。

それを聞いた社員たちは、どれほど嬉しかったか。

自分の言葉にどこまで責任をもつか

私たちは、人前で話す機会には、どんな言葉でどのように伝えるか、じっくり考えることが多いでしょう。確かに、一度のコミュニケ―ションが相手に大きなインパクトを与えることもあります。しかし、同時に、日々のちょっとしたやりとりで使っている言葉が与える影響も侮ることはできません。自分の使う言葉が相手にどう影響しているかは、実際に聞いてみないとわからないものですが、繰り返し使われる言葉の蓄積は、私たちが想像するよりもずっと大きいものです。

さて、今日、あなたは、どのような言葉を使ったでしょうか?
その時、相手の中にはどのような感情が生まれていたでしょうか。

私たちは、どうしても、「いかに伝えるか?」に意識が向きがちです。しかし、人/組織のパフォーマンスを考える時には、相手の中に「どのような感情が生まれているのか?」まで責任を負っているといえるのではないでしょうか。

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【参考資料】
※ David Rock, “Managing with the Brain in Mind”, Strategy+Business: a pwc publication, August 27, 2009 / Autumn 2009 / Issue 56 (originally published by Booz & Company)

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