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現地社員の心をつかんだ、ある駐在員の行動

現地社員の心をつかんだ、ある駐在員の行動
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「『あの事実』が有ると無いとでは、ぜんぜん違う。後に身をもって、そう実感したんです」

先日、中国に5年間駐在されていた方に、ある印象的なお話を聞きました。

自らとバックグラウンドの異なる現地社員たちを、いかに「その気」にさせ、チームに一体感を持たせることができるか?

海外拠点の駐在員が、リーダーとして常に問われるテーマです。

「私は仕事を通して自分の成長を実感している」
「私はこの会社を成長させたい」

現地社員にこう思わせることができる駐在員と、そうでない駐在員がいるとしたら、一体その「差」はどこからくるのでしょうか。

データに見る、現地社員の「やりがい」を引き出す駐在員リーダーたちの行動

弊社のコーチング研究所では、日本人海外駐在員の「リーダーシップ」と、「職場の活性度」に関するリサーチを行っています。

そこから見える現地社員の「やりがい」を引き出す駐在員リーダーたちの行動とは、どのようなものなのでしょうか。日本人駐在員145名とその部下1,390名へのリサーチ結果をご紹介します(※1)。

「職場の活性度」と「駐在員の行動」の相関 トップ3

※( ):相関係数

1位 駐在員リーダーは、赴任期間中の自身のミッションを部下に伝えている(0.64)
駐在員リーダーは、異なる考え方や価値観を尊重している(0.64)
3位 駐在員リーダーの言動を通して、本社トップの考えるビジョンやコア・バリューが伝わってくる(0.63)

「ミッション」「ビジョン」といった「大きな方向性」をいかに示しているかが、「職場の活性度」に強く関係していることが分かります。

一方で、現地社員の「職場の活性度」に相関係数の順位が低い行動はどうでしょうか。

「職場の活性度」と「駐在員の行動」の相関 ワースト3

※( ):相関係数

1位 駐在員リーダーは、現地社員が話していることを通訳を介さず理解できる(0.23)
2位 駐在員リーダーは、この国の地域社会での活動に参加している(0.50)
3位 駐在員リーダーは、相手と考え方や価値観が異なっても、主張すべきは主張している(0.53)
駐在員リーダーは、この国の商習慣の違いを理解し、それに適応している(0.53)

海外で仕事をするというとき、「現地の言葉を話せるかどうか」を懸念される方が多いと思います。ですが、言語の問題は、現地社員の「職場の活性度」との相関が一番低いものとなっています。

続いて、駐在員リーダー間でのスコアのバラツキ(標準偏差)を見てみましょう。バラツキが大きいということは、「できている人と、できていない人の差が大きい」ということです。

バラツキが大きかった3項目 -7段階評価-

※( ):標準偏差

1位 駐在員リーダーは、現地社員が話していることを通訳を介さず理解できる(1.26)
2位 駐在員リーダーは、赴任期間中の自身のミッションを部下に伝えている(0.87)
3位 駐在員リーダーは、この国の商習慣の違いを理解し、それに適応している(0.82)

注目したいのは、2番目の「ミッション」に関する項目です。

「駐在員リーダーは、赴任期間中の自身のミッションを私に伝えている」は、「職場の活性度」との関係が最も強い項目でもありました。

つまり、現地社員は海外からやってきたリーダーから

「あなたは、何をしにこの国にきたのか?」

を聞きたがっているのです。

一方で、それを「伝えているかどうか」は駐在員間でのバラツキが大きく、そこに「差」が生まれている、と言えそうです。

そして、その「伝えている」は、「現地の言葉を話せる」ということではないのでしょう。

では、現地社員が伝えてほしい「ミッション」とは、一体何をさすのでしょうか。

現地社員たちは、何を知りたいのか?

「ミッション」とは、任務や役割という狭義の意味もありますが、人の目指す目標やあるべき姿といった、より大きな意味を持つこともあります。

おそらく、現地社員たちは、本社からの任務指示や、TODOリストを見たいわけではないでしょう。

彼らが求める「ミッション」とは、目の前に現れた駐在員その人自身の、現地ビジネスに対する価値観やスタンスといった「意図」を知りたいということではないでしょうか。

ここで、別の文献から興味深いデータをご紹介します。

企業の「ミッション」を表現する「理念」について、日本企業とアメリカ企業を比較したデータです。(※2)

それぞれの企業で「理念」に使われているキーワードを大別して分析してみると、そこには明らかな違いが存在します。

アメリカの理念は、顧客や株主といった社外に向けた理念が72%、社内(従業員)に向けた理念が28%と、はっきりと大別されます。

一方で、日本企業の理念には、社外に向けたものが45%、社内に向けたものが41%に加え、そのどちらとも判別がつかない表現が14%を占めます。

それは、「良識」「絆」「公明正大」といった日本文化の美徳とされる非常に抽象度の高い表現です。

つまり、日本企業の掲げる「理念」や「方向性」は、たとえ現地の言語に翻訳されたとしても、現地社員にとっては実感をもって捉えにくい、抽象的なものであることが多いのです。

だからこそ、日本企業で働く現地社員たちは、リーダーである日本人駐在員が「なぜ、自分はここにきたのか」を自分の言葉で語ることや、会社が示す抽象的な「理念」や「方向性」を共に解釈してくれるサポートを必要としているのではないでしょうか。

海外現地社員の信頼を得た、到着当日の行動とは?

冒頭で紹介した中国に5年間駐在されていた方のお話の続きはこうです。

赴任日初日、夜遅いフライトで現地に降り立った彼は、その足でホテルではなく、新しい上司に天安門広場に連れて行かれたそうです。

「これからこの土地でお世話になるのだから、きちんと挨拶を」

上司は、その意図をそう伝えました。

彼が到着当日に天安門広場を訪れたことは、彼がはじめて出社した時には、すでに社員の多くが知ることとなっていたそうです。

「この事実があることで、現地社員の反応が全然違ったことを今でもよく覚えている」そうお話されていました。

その会社、その方自身の、現地の人やビジネスに対する「意図」が、言葉以上に伝わったことを感じました。

世界各地で活躍されている日本人駐在員の方のお話を伺っていると、日本人同士であれば感覚的に理解し、共有できる「ミッション」を、言葉や行動を尽くして異国の相手に伝わるように、日々心を砕いていることに気づかされます。年末・年始を控えた今、さまざまなイベントがある会社も多いのではないでしょうか。

私たちリーダーとしては、「ミッション」を表現する絶好の季節とも言えそうです。

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※1 株式会社コーチ・エィ コーチング研究所調査
調査期間:2013年1月~2017年3月
対象者数:日本人駐在員145名の部下1,390名
駐在地域:中国、香港、アジア、北米、欧州
調査内容:Leadership Assessment for Expats 駐在員アセスメント
     ①駐在員のリーダーシップ 14項目
     ②職場の活性度 17項目
     7段階評価(1.全くあてはまらないー7.とてもよくあてはまる)

※2 太田 正孝、『異文化マネジメントの理論と実践』、同文舘出版、2016年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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