Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
リーダーが足りないのか、それとも見えていないだけなのか?
コピーしました コピーに失敗しました現代のビジネス環境は、急速に変化し続ける不確実な時代に突入しています。企業がこのような環境で持続的に成長するためには、優れたリーダーシップをもつリーダーの存在が不可欠です。しかし、多くの企業が「リーダーの不足」という深刻な問題に直面しています。
2020年にDeloitteが発表した「Global Human Capital Trends 2020」(※1)では、約80%の経営者がリーダーの数が足りないと感じており、次世代リーダー開発が急務であると指摘されています。
果たして、本当にリーダーは不足しているのでしょうか?
「もっと人が必要だ」
私は、現地事業の責任者として2022年に中国・上海に赴任しました。日本企業の現地リーダーたちが進める組織変革を、コーチ・エィのシステミック・コーチングによって支援することが第一のミッションです。上海というダイナミックな市場に触れ、そしてリーダーたちの話を聞き、私は期待に胸を膨らませました。同時に私の頭に浮かんでいたのは「ここには可能性がある。成功のためには、もっと人材が必要だ」ということでした。
そこで、日本本社に人材の派遣を要請しました。そのときの私の頭の中には、どんなスキルや経験を持った人材が必要か、誰が適任か、といった具体的なイメージがすでに描かれていました。
しかし、日本から返ってきた答えは、私の予想を覆すものでした。本社から挙がった候補者は、私の想定より経験が浅いAさん。私が思い描いていた人物像とはかけ離れていたのです。
それは誰の問題なのか?
その名前を聞いて、瞬間的に「Aさんでは無理だ」という思いが頭をよぎりました。
私の中で「どうすればAさんの赴任を断れるか」という声が強くなり、その後は、Aさんではダメな理由を探すことに集中していました。Aさんではうまくいかないシナリオを描くことで、自分の考えを正当化しようとしていたのです。しかし、ふと、ダメな理由を探し続けている自分に、どこか居心地の悪さがあることを感じました。その瞬間、
「これって、本当にAさんの問題なのだろうか?」
という問いが頭に浮かんできたのです。同時に頭に浮かんだ映像は、Aさんの姿です。そこに私の姿はない。Aさんのことをただ外から眺めているだけの自分を発見しました。
「実は、Aさんでは難しい、Aさんではダメだと思っている自分の問題ではないのか?」
成功するかどうかは、Aさん自身の問題というより、私がAさんをどう開発し、いかにAさんと一緒にやるのか次第なのではないか。そう思い始めたのです。
「何が足りないのか?」から「どんな強みがあるのか?」へ
翌朝、私は考えを整理し、本社に連絡を取りました。
「Aさんをぜひ送ってください。私が責任を持って彼を開発します」
そう伝えた瞬間は、自分の役割を再認識した瞬間でした。
私の頭に浮かぶAさんについての問いは、昨晩までの「何が足りないのか?」という否定的な問いから、180度変化しました。
「Aさんにはどんな強みがあるのか?」
「Aさんには何をやってもらうのか?」
「Aさんが来ることでチームにどんなプラスがもたらされるのか?」
といった前向きな問いへとシフトしたのです。
最終的に、さまざまな事情でAさんは上海に赴任することができませんでしたが、この経験は、私にとって非常に大きな学びとなりました。リーダーの開発とは、相手がどうかではなく、自分の考え方次第である、ということを強く認識させられたのです。
さらには、現地のメンバーと一緒にできることがもっとあることにも気づき、最終的には、日本から人を送ってもらうという選択肢を選ばないことに決めました。
現在の上海のメンバーと一緒にやると決められたのも、この体験によるものでした。
リーダーを創るのは誰か
さて、ここで最初の問いに戻ります。
世の中では、 本当にリーダーが不足しているのでしょうか?
もし、あなたが今「リーダーの不足」に直面していると感じているのならば、少しだけ視点を変えてみてください。「あなたが」そう思っているだけということはないでしょうか?
もちろん、すべての状況においてこの考え方が適用できるわけではありません。しかし、一度「リーダーの不足」という課題を自分の問題としてとらえ直すことができれば、周囲にいる人材の見え方が変わり、彼らの可能性に気づくことができるかもしれません。
次世代リーダーの開発は、あなたの手の中にあります。
もし、部下のリーダーシップに不足を感じるのであれば、まずはあなた自身がコーチとなって、彼らの成長をサポートする手段を考えてはいかがでしょうか?
次のリーダーの未来は、あなた次第かもしれません。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考資料】
※1 2020 Global Human Capital Trends Report
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。