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組織を活性化し、エンゲージメントを高める方法とは

2019年11月に NewsPicksに掲載された記事を許可を得て転載しています。

組織を活性化し、エンゲージメントを高める方法とは
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組織開発において経営者やリーダー層から注目されているエグゼクティブ・コーチング。これまで人材開発のアプローチとして広まってきたコーチングだが、なぜ組織開発に有効なのか? 日本のコーチング界をリードしてきたコーチ・エィ代表取締役社長の鈴木義幸氏に「良質な問い」や「関係性の開発」が組織のエンゲージメント・創造性・生産性を向上させ、組織を大きくドライブさせる理由を伺った。

慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒業。株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現・株式会社マッキャンエリクソン)勤務後に渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了し、帰国後、コーチ・トゥエンティワンの設立に携わる。2001年コーチ・エィ設立に伴い、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長就任を経て現職。著書に『新版 コーチングの基本』『コーチングが人を活かす』など。

コーチングは組織の「人と人の関わり」を再構築する

「コーチング」はスポーツの世界でよく聞くワードですが、ビジネスにおいては昨今「エグゼクティブ・コーチング」の需要が高まっています。コーチングという言葉の定義について改めて教えてください。

鈴木 私たちは、コーチングを「目標達成に必要な知識、スキル、ツールが何であるかを棚卸しし、それをテーラーメイド(個別対応)で備えさせるプロセス」と定義してきました。

それをもっとシンプルに言い換えると、コーチとクライアントの「一対一」のコミュニケーションを通して、2人の間に新しい解釈や選択肢が生まれ、それがクライアントの新たな行動につながっていくプロセスだと言えるでしょう。

「エグゼクティブ・コーチング」というと、リーダー個人の人材開発にフォーカスしたものと考えられがちです。

コーチ・エィでは人材開発に加え、企業のトップがコーチングを受けることによって、トップが自分と周囲の人との関わり方を見直し、組織全体を開発するアプローチを「エグゼクティブ・コーチング」と呼んでいます。

コーチ・エィのエグゼクティブコーチがやっていることは、企業トップに自分や組織の状態を「止まって観る」ことを促すことです。なぜならそれが、企業トップとして、成功に向けた行動を起こしていくために必要なプロセスだからです。

たとえば、「自分と周りの関わり方は組織としていいパフォーマンスを生むものなのか」、「社員のエンゲージメントを高める要素は何なのか」といった「問い」をコーチとの間に立てる。そして、最善策を発見するための対話を重ねていくのがエグゼクティブ・コーチングです。

エグゼクティブコーチの役割とは、いわば特急列車に乗って高速で走っている企業トップに、「一度降りてみましょうか」と声をかけ、プラットフォームに誘うようなものです。

「列車からの景色はどんなふうに見えますか」「社内の居心地はどうですか」「この列車が向かっている方向は」と問いかける。そしてまた、列車に乗り直してもらうという繰り返しだと思っています。

ギャラップによる調査では、「日本の会社員の94%が会社にエンゲージしていない」ということですが、この事実をどう思われますか。

ここで言うエンゲージメントとは、企業と従業員との信頼関係を指す言葉ですが、低くなる理由はいろいろあります。

ある海外文献によると、直属の上司との関係性がよくないと、会社に対するエンゲージメントが下がる大きな要因になるようです。これは、上司と部下との間に信頼関係があれば、会社へのエンゲージメントはもっと上がるはずということです。

日本の会社では94%と、ほぼ大部分の会社員がエンゲージしていない点が指摘されていますが、高いとされるアメリカのエンゲージ率も30%に過ぎず、エンゲージメントの低さはもはやビジネス現場における世界的課題と言っていいでしょう。

そうした現在の日本の組織において、組織のリーダーを取り巻く環境はどう変わっているのでしょうか。

リーダーにとってもっとも大きな変化のひとつは「多様性」に直面していることでしょう。

性別や国籍、いろんな雇用形態が組織の中にあって、あらゆる価値観を持った人たちがリーダーの周囲にいる。そうなると、ひとまとめにこうだと言えることが組織の中ではもうあり得ないわけです。

多様性のあるチームや組織では、メンバー同士の協働を促すのも一筋縄ではいきません。そんな中、リーダー層、いわゆる"エグゼクティブ"にとってコーチングはどんな役割を果たすのでしょうか。

コーチングのソリューションをシンプルに言うと、「とにかく、しゃべろうよ」ということです。

例えば、社長と副社長の間で「話した方がいいのに話していないことは何か」というような問いをコーチが立てる。こうした肝心なことを話すのは実は簡単なことではないのですが、そこに挑戦してもらう。

人は知らず知らずのうちに、上司はこう振る舞うべきだとか、部下がこう言ってきたら論理で圧倒するとか、パターン化したコミュニケーションをとっていることがあります。それは無意識で行われているので、自分で認識するのが難しい。

そこで、「パターン化されている関わり方を、企業のパフォーマンスに結びつくものに変えるには」という問いを立てて考えてもらうこともあります。

日本人は、役割をまとっていればコミュニケーションを取りやすいのだと思います。一方で、役割が希薄なときは途端に寡黙になってしまう。組織の中でも、縦は役割がはっきりしているので、部長という肩書があれば課長に話せる。

ところが、部長同士、執行役員同士などは、役割が縦の関係ほど明確ではないためにお互いに話がしづらくなってしまうのです。日本の企業は異なる部署間での「横のイノベーション」が苦手ともいえるでしょう。

組織としてリーダーにコーチングを導入していただく際は、単に上司が部下に対してコーチングするだけではなく、部長が隣の部長といった横の関係に対するコーチングを実践してもらうこともあります。

そうすると、「コーチとコーチングを受けるステークホルダー」という新たな関係性/役割ができるので、日本の組織のなかではコミュニケーションがとりやすくなるという側面があると思います。

これをきっかけに組織全体に関わりを広げていくことが可能になります。

エグゼクティブ・コーチングによる「関係性の開発」とは

コーチングが企業トップ個人の人材開発ではなく、周囲との関係性の開発だというのはそういうことなんですね。

組織や企業は、お客様にとっての価値を生み出し、それを提供することによって収益を上げるという活動をしています。この企業活動が何をベースに生まれているかというと「社内のコミュニケーション」です。

これを虫の目で寄ってみると、結局、誰かと誰かとのコミュニケーションに帰結するのです。

人間の最小単位というのは1人ではなく2人であって、組織の中に無数にある2人の間の関わり方が変わっていくことが、私たちの考える「組織開発」です。その中で何かが創造されたり、エンゲージメントやモチベーションが高まったりするのです。

組織開発の構造は「個人の開発」と「関係性の開発」の掛け合わせ。トップに対するエグゼクティブ・コーチングはトップだけにとどまるのではなく、周囲の人たちを巻き込む形で縦横に展開していきます。

社長が副社長とどう関わるか。部長が課長とあるいは隣の部長とどう関わるか。こういうものが集積されていって、組織のパフォーマンスが作られていくと思っています。

100人規模のスタートアップであれ、3万人規模の会社であれ、組織の至るところで新しい関わり合いが発生することにより、エンゲージメントや創造性、生産性に直接変化をもたらすと思っています。

こうした活動もトップ次第であり、トップがどういう組織にしたいかということが非常に影響してきます。

企業活動にスピード感が求められる中、コーチングにも即効性が要求されるような気もします。実際の現場ではいかがですか?

経営者は常日頃、心配や悩みを持ち続けながら前進しているわけですが、コーチがつくということは、気になっていることを非常に早い段階で俎上に載せ、乗り越えるための打ち手を考えるプロセスに進むことができるということです。

ソリューションを経営者自らが作って実行することで、軌道修正をかけるサイクルが高速で回るようになっていきます。

自分は経営者としてどうなのかとか、周囲との関係性はどうだろうかという振り返りをするため、経営者は定期的に立ち止まって観る必要があるのです。

私は売り上げ5000億円の企業トップのエグゼクティブ・コーチングを2~3年ほど続けていますが、その方は「コーチングを受けながらやっていると経営が楽しい」とおっしゃいます。

経営という荷の重い仕事を進める上で、その方は3週間に1回のコーチングに価値を見いだされていると思うのです。

スポーツの世界では、10年くらい同じコーチと歩むのは特に変わったことではありません。経営者もある意味でビジネスアスリートですから、スポーツアスリートにコーチがつくように、私たちもずっと伴走したい気持ちを持っています。

エグゼクティブ・コーチングがリーダーを変え、組織を変える

企業トップと周囲の関わり方の変化によって組織開発が進んだという具体的な事例を教えていただけますか。

3万人規模のある会社での話です。経営トップの時間の約6割が報告中心の定例ミーティングで占められていました。

コーチングの中で、「過去に起こったことをミーティングの場で聞くのは大事だが、それが6割というのは変化の時代にふさわしくない」という話になり、その方は定例ミーティングを全部取りやめて、その時間をそっくり執行役員との1on1に変える決断をしました。

戸惑った執行役員からは、「何を持っていけばいいか、何をしゃべったらいいか」と質問が飛んできます。しかしその方は「何もいらないので、まずは私と一対一で話してみましょう」とだけ伝えました。

やがて、この会社では未来についての対話が始まりました。トップは執行役員との間で対話できるようになってから、会社の雰囲気や経営会議の内容が劇的に変わったことを喜んでいました。

周囲の人たちの意識が変化したわけですね。リーダー本人が変わるきっかけはどのような瞬間に訪れますか?

自分自身の視点が変わらないと、人の行動は変わりません。赤字でどん底の状態から社長がコーチングを受け始めた会社があります。何が転機だったのかを社長に聞くと、エグゼクティブ・コーチングを受ける中で、自分の中の「問い」が変わっていったというのです。

どういうことかというと、苦しいときは、「なぜお客さんはうちに来てくれないんだろう」と思っていた。しかしエグゼクティブ・コーチングを受ける中で、収益が落ちているけれど、相変わらずうちに来て買ってくれているお客様がいることに気がついた。

「そのお客様は、なんでうちを選んでくれているんだろう」という問いが生まれ、「うちの強みは何だ。うちが一番大事にしてきたこと、したいことは何なんだ」というふうに問いが変わっていった。この会社はそこから7年間、増収増益を続けています。

エグゼクティブ・コーチングを受けると、普段自分の中にない問いを外から問われるために、自分の中の問いが変わり、行動そのものが変わっていきます

例えばビジョンについて話すときは、そのビジョンの実現のためには、誰の協力が必要かとか、あるいは社内で誰ともっと話す必要があるかといった、新しい関わりの幅や可能性を広げるような問いかけをしていきます。

そうすると、今まで話さなかった人と、話さなかった内容を話すことによって視界が開けていくのです。

コーチとの対話は、その人を取り巻く関わりの中のほんの一部に過ぎません。社内外を問わずいかにいろんな人と新しく関わり、可能性を広げていくかということの方が実ははるかに大きいのです。

(執筆:柴山幸夫 編集:奈良岡崇子 撮影:矢野拓実 デザイン:月森恭助)


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