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【異色対談】組織のイノベーションに効果的なのはどっち?

2019年12月に NewsPicksに掲載された記事を許可を得て転載しています。

【異色対談】組織のイノベーションに効果的なのはどっち?
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これまで真正面から比較の俎上(そじょう)に乗せられたことがなかったコーチングとコンサルティング。組織のエンゲージメントを高め、生産性や創造性を上げる有効な手法であるコーチングとよく対比されるのが組織開発コンサルティングだ。

「問い」から始めるコーチングに対して、自分自身の専門的な技術やスキルを駆使し、クライアントが抱えている課題にソリューションを提供し、問題解決を具体化する組織開発コンサルティング。

 コーチングとコンサルの違いとはいったい何か。そして、今後、組織がイノベーションを生み出すために、企業は双方のどういった優位性を取り入れていくべきなのか。

コーチ・エィ代表取締役社長の鈴木義幸氏とイノベーション関連のコンサルティングの第一人者として知られるPwCコンサルティングパートナー野口功一氏が、今までクロスされることのなかった禁断のテーマについて激論を交わす。

デジタル・ディスラプション時代における組織開発へのアプローチ方法。果たして、効果的なのはどっち⁉

コーチングとコンサルティングは組織開発にどうアプローチしているか

鈴木 イノベーションというと、一般的には技術革新や新機軸といった文脈で捉えられることが多いですが、今日は「組織開発との関係性」をコーチング、コンサルティングそれぞれの立場で話していきたいと思います。

私たちがコーチングで常に行っているのは「対話をいかに起こすか」です。

社内外の対話を牽引できるリーダーを作ることによって、イノベーションを生み出す組織の土壌に働きかけていきます。

野口 コンサルティングはもともと課題解決型。イノベーションを必要とする新規事業コンサルティングの際にはよく「過去は断ち切ってやってください」とクライアントに言いますが、我々がやっているのは"ある課題"に対する解決策を出す仕事に過ぎず、新しいものをクリエイトするわけではありません。

したがって、イノベーションを生み出す組織開発の場合は、従来のコンサルティングとは違ったアプローチが必要となります。

イノベーション戦略立案からオペレーションモデル策定まで企業におけるイノベーションプラットフォームの構築支援を行う他、PwCにおける新規事業としてソフトウェア開発などを国内外のスタートアップ企業、NPOなどと協業して実施している。主な著書『シェアリングエコノミーまるわかり』(日経文庫)。「Smart Times」(日経産業新聞)連載中。

鈴木 私たちのコーチングもコーチの側からイノベーションを促すわけではありません。ただ、クライアントからチャレンジをテーマにイノベーションを起こしたいというニーズがあれば、それを扱っていきます。

イノベーションであれ何であれ、思考というものは問いと答えの連続によって生成していると私たちは考えます。新しいものを生み出せていないとすると、それは「問いが悪い」ということになります。

私たちが経営者とシェアする考え方は、「1分考えて何も生まれなかったらそれは問いが悪い」ということや「違う問いに替えましょう」ということです。問いを豊かに創造できれば、イノベーションに結びつく可能性がかなり高まると思います。

ところで、イノベーションを起こす命題が最初から含まれているコンサルティング案件といったものはあるんでしょうか。

慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒業。株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現・株式会社マッキャンエリクソン)勤務後に渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了し、帰国後、コーチ・トゥエンティワンの設立に携わる。2001年コーチ・エィ設立に伴い、取締役副社長に就任。2007年1月取締役社長就任を経て、2018年1月から現職。著書に『コーチングが人を活かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『エグゼクティブ・コーチング入門』(日本実業出版社)など多数。

野口 例えばクライアントに「おなかがすいた」という顕在化した課題があるとします。コンサルティングの世界では「では、ご飯を食べてください」というのは解決策になりません。

「なぜおなかがすいているか?」を突き詰め、結果として「昨日ご飯を食べていない」という本当の課題がわかる。海に浮かんでいる氷山に例えると「おなかがすいた」が海の上に見えていて、海の下に隠れている「昨日ご飯を食べていない」ことを見つけてあげることが従来の我々のアプローチ。

ところがイノベーションを起こす支援をするのであれば、それだけではダメで、「氷山の氷を全部溶かしちゃいましょう」とか「海の方も一緒に凍らせましょう」というかなり極端なコンサルティングアプローチに変えないと、イノベーションを起こすのは難しいと思っています。

鈴木 企業活動を生み出す主体は企業内のコミュニケーションなわけですが、それは組織内にある無数の「1対1のコミュニケーション」に集約されます。組織にイノベーションを起こすことを考える場合も、誰かと誰かのコミュニケーションに目を向けます。

すると、例えば、経営トップが副社長や常務執行役員と面と向かって本当の意味で未来に向けた対話をしているケースは少なく、そこで自然発生的で生産性のあるコミュニケーションを起こし、同時にこれが組織のいたるところで起こることが大事だと思っています。

野口 日本の場合、失敗を許す文化がないのが致命的ですよね。

大企業の役員が「何でもいいからイノベーションを起こせ」とか、「うちの会社らしくないことをやる」と言うので、いざアイデアを持っていったら、「なぜうちの会社がこんなことやらなきゃいけないんだ!」みたいになるケースがほとんど。

一つ重要なのは「多様性」ですね。重要なのは価値観が違う人が集まることではなくて、価値観が違う人がぶつかり合って新しいものを生み出すこと。

私たちがイノベーションのためのワークショップをやるときなど、必ず「いろんな部門の人を呼んでください」と言うんです。ところがお客さんは、「若手の優秀なやつを10人集めて合宿しましょう」とすぐ言う。

それは最悪。バックオフィスの人、営業、生産、人事、総務、受付、外部の人もみんな集めてやろうと言って、ぶち壊しています。

もう一つ、仕事を進めるにあたって一番簡単なのは"ちゃぶ台を全部ひっくり返すこと"。するとみんな頭を使って考えますよね。わざとカオスを作るというのはブレイクスルーの上で非常に有効です。

鈴木 その視点は本当にコーチングでも同じだと思います。

ある金融関連企業で、情報が上に上がるナレッジの仕組みをものすごくお金をかけて作ったんです。でも上司の役員に全然情報が上がってこなかった。

たまたまその役員がうちのエグゼクティブ・コーチングを受けたことによって、話を聞く態勢が生まれ、社員にとっても風通しのいい体制に変わりました。それからは情報がよく上がるようになり、決裁スピードが3倍速くなったそうです。

カオスは経営者に対して起こしたいと思っていて、例えば、ビジョンを考えていただくとき、こちらもリスクを取って意を決して「面白くないですね」と正直に言うことがあります。

経営者はそんなことを言われた経験がないから、「え?」っとなる。そこにカオスが生成されるのです。

野口さんは経営者に対して、イノベーションを促すためにどんな発言をされていますか?

経営者にイノベーションを促すキラーワードとは

野口 私のキラーワードは「コンサルは頼まない方がいい」です。結局、コンサルが偉そうに新規事業開発のプロセスをやったとしても、そもそもビジネス経験のないやつが事業開発なんてできるはずがありません。

私のところに話が来るのも、コンサルの新しいアプローチ以外に新規事業をやっているから。失敗もたくさんしているので、お客さんの信頼も⾼まるわけです。

よく聞かれるのが、「イノベーションを起こせるのはどんな会社ですか?」という質問。

これに対するいつもの答えは「あなたの会社が一度潰れそうになるのが一番いい」です。新規事業の開発プロセスは多くの大企業で失敗するものの、ある企業ではうまくいく。

それはブランドが失墜し、潰れそうになった経験があるからです。お金が余っているからやるとか、世の中の流行に乗ってスタートアップにつなげようと始めてもうまくいくものではありません。

PwCの例で言えば、我々は会計士、税理士、コンサルなどのプロフェッショナルサービスをビジネスとしてやっていますが、昨今の論調でいくとこれらの職業はAIに代表されるテクノロジーによって、かなりの仕事が奪われるという事になっています。

そういった危機感が人のサービスだけでなく、ソフトウェアなどを自分たちで開発し、新しい売上モデルを作るという新規事業開発につながっています。

このように、今はよくても将来ダメ......というストーリーを明確に作ることも、イノベーションを起こす土壌の第一歩となります。

鈴木さんのキラーワードは何ですか?

鈴木 必ず聞くのは「そのことについて誰と話すのがいいでしょうか?」です。新しいことを発想したり実践するとき、本来話すべき人と話していないということがよくあるんです。

ある大手メーカーで、対話と挑戦をテーマに5年間やったコーチングプロジェクトがあり、社内コーチを5年間で数百人作ることになりました。

半年くらいかけて社内コーチになった人が、コーチする対象を自分で5人選びます。その際に、5人のうち半数以上は部下以外、部署や時には国を越えて選ばなくてはならない仕組みにしたんです。

違う組織の人と対話をするということで、する側にもされる側にもこれまでにない新しい情報が入ることになります。話しているうちに新しい発想が生まれる、まさにクロスボーダーの状態になりました。

結果的に、その後の社内ビジネスコンテストでは数千件もの新規ビジネス提案が生まれました。横につなげたことが大きな効果を上げた実例です。

組織が変わるには、スピンアウトとコンフリクトが必要

野口 コンサルティングはプロジェクト単位で動きます。例えば、新規事業のアイデアを出し、事業化して販売サポートするというのはあります。

お客さんは喜んで「これ絶対にやろう」と盛り上がるんです。でも僕らが離れた後、塩漬けになってしまっているアイデアは多いですね。

役員主導でイノベーション推進本部を作り、「好きなことをやっていい」という会社でも、評価システムを本体のビジネスに合わせてやっているから、新規事業の人は遊んでいるみたいに見られてしまう。

結論から言うと、組織から完全に独立したチームを作ったりして、もうスピンアウトするしかないのです。評価システムも予算も全部違い、そこだけが治外法権になって好きなことをやっているようなところがうまくいっています。

鈴木 確かに既存枠の中で新しいことを発想しようとしてもうまくいきませんよね。例えば、米企業への投資のために日本人を現地に行かせ、情報交換してほしいと思っても、日本人がアメリカ人としゃべらないというのが実態です。

ニューヨークの錦糸町みたいな場所に行って日本人だけで飲んでいるというので、アメリカ人としゃべれるようにしてくれというオーダーが来たりします(笑)。

野口 うちの社員も海外のカンファレンスに行くと、日本人同士おとなしく固まってしまうのをよく見かけます。だから少なくとも新規事業チームに関しては強制的に3割のノンジャパニーズを入れている。それくらいやらないと全然ダメです。

鈴木さんのところも国籍混在でコーチングチームを動かすようなことはありますか?

鈴木 例えば、企業から役員10人にコーチをつけたいというオファーが来ます。どの役員にどのコーチをつけるかが大事なんですが、お互いの相性がいい人をつける場合と、いい意味でのコンフリクトが起こるのを予測したアサインの両方があるんですね。

うちにはエグゼクティブ・コーチングのできる社員だけで40人くらいいます。若手のスタッフからシニアまで、男性も女性も、もちろん外国人も在籍しています。英語や中国語でコーチングを受けたいというニーズもあるので、そういった場合は外国人を起用します。

野口 例えば、大手自動車メーカーの研究所がやっているのは今やエンジンだけでなく、歩行型のロボットやAIやブロックチェーンの研究です。一方で大手IT企業が自動運転の技術を開発し、新しいモビリティ社会を作ろうとしている。

これだけ産業がシームレスな時代に、うちが産業別のコンサルティングだけで物事が解決していけるかというと、多様性の意味でもすでに難しいのです。

イノベーションなくして生き残れない時代とはよく言われますが、フェーズが違っていて、ひと言では言いきれないと思います。

今イノベーションを起こさなきゃいけない会社と、今はいいけど将来起こさなきゃいけない会社、しばらく起こさなくていい会社がある。イノベーションの種類にも、既存の延長線上にあるものと丸ごとひっくり返すものがあると思います。

コーチングvsコンサルティング、最終結論

鈴木 経営者の方を見ていると、同じ業界の人との付き合いが比較的多くて、何か発想を広げるようなネットワークがあったらいいのにと思うことがよくあります。

サラリーマン経営者とオーナー経営者は、時間の使い方がまるで違って見えるんです。サラリーマン経営者は秘書がスケジュール管理をしていて、定例ミーティングで6割くらい時間が埋まっているようなこともあります。

一方、オーナー経営者は自分で予定を作り、自分でどこへでも会いたい人に会いに行く。オーナー経営者がイノベーションを起こしている状況をよく目にするかもしれません。

野口 オーナー経営者がイノベーターになるのはいいですよね。組織としてイノベーションを起こす枠組みや文化というのは必要だと思いますが、本当に優秀なイノベーターは会社を辞めて自分で起業しますよね。

鈴木 帝京大学の外科の先生が起業した会社があって、その先生の講演を聞いたんです。

例えば肝臓がんの患者さんが手術台に寝ているとすると、動脈や肝臓がリアルな3Dのホログラムで浮かび上がる。それを医者同士で動かしながら手術をすることで、手術時間が2分の1以下に短縮されたというんです。

私は、これと同じように、会社組織のネットワークが可視化できたらといいと思っています。この会社ではこの人がハブでこういうネットワークがあるといった話ができる。

アメリカではそんなツールが生まれつつあり、これが進歩していくと組織やコミュニケーションが見える化され、コーチングにも大きな変化が訪れるはずです。

コンサルティングではいかがですか?

野口 重要なのは、お客さんを変える前に私たちが変わること。そのためにはまず、全く違うビジネスを私たちがやる。

もう一つはコンサルティングそのものの概念を変えるということです。すでに世の中はデザインシンキングとか、プロトタイピングしながらブラッシュアップしていくやり方が主流です。

そこで私たちはビジネスとテクノロジーのスキルに加え、顧客体験を創出しながら物事を考えるため、エクスペリエンスのXを加えた「BXT(Business eXperience Technology)」とし、このブランディングを世界中のPwCで推進しています。

最初に自分たちが変革することを、マーケットに対してメッセージしているのです。

鈴木 私たちの大企業のお客様でコンサルティングサービスを入れていないところはほとんどありません。

コンサルの方からの情報提供をもとに私たちコーチが問いかけやフィードバックをすることで、クライアントの変化のスピードが速まるようなことはあります。

そういう意味では、コンサルティングと間接的にコラボしている部分もありますし、変革の時代の中ではさらにその可能性も広がりそうですね。

野口 もともと可能性はたくさんあると思っていました。先ほども申しましたが、私の持論は「コンサルは頼まない方がいい」なので、コーチングを優先してもらった方がいいでしょうね(笑)。

お客さん側からすると、何となくすみ分けをして発注していると思いますが、私は領域を分けずにお互いのコラボでやった方がもっと効果が出ると思っています。

(構成:柴山幸夫 編集:奈良岡崇子 写真:大畑陽子 デザイン:月森恭助)


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