コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


私からあなたへ、50代のエレジー

私からあなたへ、50代のエレジー
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ポスト・コロナで、働き方がガラッと変わりました。日々の仕事も、技術の進化によってますます便利になっています。組織では、Z世代と呼ばれる20代が入社するようになり、30代のX、Y世代が中核を担うようになってきています。

そんな中、経営者や人事統括役員とお会いすると、

「うちの50代は粘土層だよ。上から水を撒いても、一向に下に届かない」
「うちなんか、岩盤層ですよ!」

といった声を聞かされます。50代の私はそのたびに、笑えない気持ちのまま作り笑いを返し、「50代は変わらない」「もはやオワコン」という通念が広まっていることに、哀しく残念な気持ちになります。

こうした問題意識を抱えている私の前に、一人のクライアントAさんが現れました。

彼は、ある大手商社傘下の専門商社に新卒で入社、現在は事業統括役員をされています。自社の商材と取引先企業について誰よりも知識・経験があることに自負もあり、周囲からは尊敬の声も聞こえてきますが、一方、モノを言いづらいと思わせる存在でもあるようでした。

初めてのセッションでAさんは、定年まであと2年であることを真っ先に共有してくださいました。

「最終日までに、これだけは実現しておきたいことは何ですか?」

と問うと、統括領域の展望、戦略などについて、専門用語も織り交ぜて雄弁に語られたあとに

「定年までに自分の後任を創ること」

と、歯切れ悪く、つぶやくように仰いました。続けて、

「ただね、社長に言われたからやることにしただけで、相手ももう50代でしょ。変わらないよ。手遅れ、手遅れ」

と、本音なのか、牽制なのかわからない一言を残して、初回セッションは終わりました。私は「また50代の諦めか!」と重い気持ちになりました。

部下は機能なのか、「人」なのか

私は、初回にAさんの口からこぼれた「50代の部下は変わらない、手遅れだ」という言葉が気になり、次のセッションからは、Aさんが部下をどう捉えているのかについて、「成長」という観点から解き明かしていくことにしました。

  • あなたは、人はどのように成長すると思ってきたのか?
  • あなたの、人の成長に関する前提は何か?
  • あなたは、何をもって「部下が成長した」と認めてきたのか?
  • あなたは、部下をどのように成長させてきたのか?
  • あなたは、何をみて50代の部下の成長を諦めるようになったのか?
  • あなた自身は、諦めることで何を得ているのか?
  • 「50代は成長させられない」というのは、あなたの能力不足を認めているようにも聞こえるが、それでもいいのか?
  • 誰がその部下の成長に責任を持つのか?

50代である私自身の意地もあいまって、問いかけは厳しくなっていたかもしれません。それでもAさんは、一つひとつの問いに答えてくださいました。

「できないことは、経験させる。それでだめなら『外す』『配置を変える』。そしてどうしようもなければ、仕方なく、その人のできる仕事をアサインする」

「部下には、自分が考えたことを実行できるようにやり方を教える。自分で教える時間がなければ、誰かやり方を教えられる人をつける」

Aさんにとっての部下の存在は、まるで取り換え可能な機械の部品のようだなと感じた私は、思い切ってそのことをAさんにフィードバックしました。

「Aさんは人をスペックや機能のように表現する傾向があるように聞こえるのですが、ご自身ではどう思われますか?」

しばらく黙り込んだ後、Aさんの口からは思いがけない言葉が漏れてきました。

「あ~、息子に対しても、そんなふうに接してきたかもしれない」

そして、今は疎遠になっている息子さんについての話を聞かせてくれました。

Aさんは、息子さんの進学や入社する会社について、自分の経験からよかれと思ってさまざまな助言をしてきたといいます。社会で活躍するためにはどんな能力が必要か、そのためにはどんな大学に行き、何を勉強すればよいか、さらに、どんな会社に入って、どんな仕事をすると出世の道が開かれるか。そうしてきたのは、 自分の経験に基づくアドバイスは、息子にとって役立つだろうと考えたからです。その背景には、自分よりももっとずっと社会で活躍してほしいというAさんの思いがありました。

しかし、振り返れば、息子さん自身は何をやりたいと思っているのかについては、一切聞いたことがないといいます。

「ただ、自分の考えを押しつけてきただけだと思う」

そうAさんは言いました。

「今、息子さんに会ったら、何を聞きたいですか?」

と尋ねると、

「あのとき、本当は何をしたかったのか、ちゃんと聞いていればよかった」

という答えが返ってきました。

あなたの関わりが、相手の可能性を開く

部下は自分の思い通りに動いてもらうための「スペック」や「機能」ではない。意志を持ったひとりの人間である。

このときのセッションを機会に、Aさんの「部下」に対する意味づけに変化が起こったようです。

Aさんは部下に「君は、この会社をどうしたいのか?」と問うようになり、また、Aさん自身も「自分はどういう会社にしたいと思って、これまで頑張ってきたのか?」を熱く語るようになりました。

私とのセッションでも、「50代は変わらないよ、手遅れ手遅れ」と話していたのがまるで嘘のように、Aさんと部下の関係が「上下関係」から「同士」のような関係になっていくエピソードをたくさんお聞きするようになりました。

「定年したあとも、部下たちから飲みに誘われるような関係でいたいな」Aさんはこの体験を通して、「自分の関わり方次第でいくつになっても相手は成長できる」ことを実感されたのだと思います。

Aさんの体験から見えてくるのは、相手が何歳であったとしても、相手に興味を持ち、相手を主体に考えれば、新たな可能性が見えてくるということなのではないでしょうか。

さて、50代の私たちは、50代を成長させることを諦めますか? それとも?

50代の私たちは、自分の成長を諦めますか?それとも?

負けるな、怠けるな、同士の50代!

着想:ケツメイシ「海外駐在員への唄」ミュージックビデオ

日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て転載)


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