コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
いま求められるリーダーシップとは
コピーしました コピーに失敗しました求められるリーダーシップは時代と共に移り変わるものです。しかし、最近お客様と話をしていて、業界や業種を問わず、言葉は違えども似たようなリーダーへの期待を耳にします。それは、新しい価値を共創できるリーダーシップです。
コーチングはこの時代におけるリーダーシップに、どのような貢献ができるのでしょうか?
現在求められているリーダーに必要なこと
コーチ・エィのコーチングの考え方に「人は関わりの中に生きている」という前提があります。これは、社会構成主義とも深く関係する考え方です。その社会構成主義の第一人者であるケネス・J・ガーゲン博士は、「リレーショナルリーディング」という概念を提唱しています。リレーショナルリーディングとは、『関係の中』で『未来』へ関わり合いながら効果的に動いていける人々の能力を指します。私は、新しい時代のリーダーシップはこの「リレーショナルリーディング」にヒントがあるのではないかと考えています。
冒頭で述べた新しい価値を共創できるリーダーは、この「リレーショナルリーディング」を備えた人ともいえます。リーダー一人が突出した能力を発揮し、周囲を導くことで新しい価値が生み出されることはもちろんあるでしょう。しかし、先行き不透明な中で、より迅速かつ大きな成果を生み出すためには、リーダーが自分の枠(前提、思い込み、事業領域、ネットワーク)を越え、より広い範囲で、周囲を巻き込んで多様な力を活用することが必要です。そのためにも、複雑な関係性を厭わず、異なる価値観をもつ人や利害関係が一致しない人たちとの対立も乗り越えて、コラボレートしていく能力が求められます。
リーダーが周囲の多様性を活かし、巻き込み、コラボレートしていこうとするとき、主に3つのポイントでコーチングが役に立つのではないでしょうか。
①自分のWantをはっきりさせる
与えられたビジョンでは、障害にぶつかった時に言い訳をしてしまったり、歩みそのものが止まってしまったりすることもあります。しかし、自分のWantに基づくビジョンを持つことで、共感や納得を生み、周囲を巻き込む力も大きくなります。コーチングでは「本当は何をやりたいのか? なぜやりたいのか?」を様々な角度から問い続け、自分が何を目指し、何を成し遂げたいのかはっきりさせると共に覚悟とコミットメントを高めます。
②自分がどういう思い込み、前提の中にいるのか自覚する
コーチからの問いかけやフィードバックがあることで、自分が無意識に持っている思い込みや前提に気づき、新しい視点で物事や関係性を見ることが可能になります。
③周囲との関係構築力、対話力を高める
コーチングは、周囲とどのような関係を構築し、自分はそのためにどう変わるのかについて問いかけます。多様性が重要視される社会において、自ら関係を構築していくためには、対話力も必要です。コーチ的な対話は、まさにその目的にもフィットします。
コーチングでリレーショナルリーディングを高める
私が、コーチングは新しいリーダーシップの創造に貢献できると考えるようになったのは、次期経営メンバーとして期待されているクライアントAさんとのコーチングがきっかけです。
コーチングの最初の段階で、Aさんに目標について尋ねると、熱意の感じられない優等生的な答えが返ってきました。Aさんが本当にやりたいことなのだろうか?と感じた私はAさんに
「なぜやりたいのか?」
「本当は何をやりたいのか?」
を問い続け、他の人とも対話するようAさんにリクエストしました。Aさんが真摯に「なぜそれをやりたいのか?」という問いと向き合い、他者と対話していくうちに、だんだんとAさんから、自分や周囲の思いがベースとなった力強く熱意のこもった目標が聞こえてくるようになりました。
また、Aさんは当時、ある部門のトップとの関係に悩んでいました。その方とは方針が異なるため「自分のやろうとすることに反対するのではないか」と気にしていたのです。しかし、目標達成のためには、避けては通れないキーパーソンでした。そこで私は、「その方とどういう関係を築きたいのか? そのためにAさん自身は何を変えるのか」と問いかけました。Aさんはこの問いに向き合い、これまでの思い込みを脇に置き、相手と対話すると決めました。いざ話し始めると、相手もAさんと話したいと思っていたことがわかり、Aさんのやりたいことに協力する関係性を築くことができました。
あるときは、目標達成のキーパーソンを考えてもらうために、Aさんのネットワークを書き出してもらいました。書き出したネットワークに対して周囲からフィードバックをもらったところ、「Aさんはある領域の人としか関わっていないように見える」という声があがり、Aさんは初めて自分のネットワークを客観的に捉えました。これまでは今のネットワークで成果もあげ、不自由ないと感じていましたが、このフィードバックを受け、Aさんは一歩自分の領域を出て、今まであまり関わっていなかった領域の人々と新たに関係を築き始めたのです。
このコーチングで、私はAさんが自分の殻を破り、自ら関わりを広げ未来を作っていく姿を目の当たりにしました。この体験から、コーチングは、リレーショナルリーディング能力の向上と変革のリーダーシップを実現するプロセスだという思いを強くしました。
アフリカには下記のことわざがあります。
"If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together."
(早く行きたいなら一人で行け。遠くへ行きたいなら一緒に行け。)
複雑な関係性の中でも対立を厭わず、周囲を巻き込み、周りの力を引き出して、クリエイティビティを発揮していく力。一人ひとりと向き合い、関係性を扱うコーチングだからこそ、この力を高めることに貢献できると信じています。
(日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て転載)
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【参考資料】
- 山田貴博、『不確実性と複雑性の時代に適応する「価値共創リーダーシップ」』、Harvard Business Review、2023年1月
- 竹内弘高、『これからのリーダーは幾多の矛盾を乗り越え、誰もが共感する未来に導く』、Harvard Business Review、2022年
- ケネス・J・ガーゲン/ロネ・ヒエストゥッド (著)、伊藤守 (監修, 翻訳)、 二宮美樹 (翻訳)、『ダイアローグ・マネジメント 対話が生み出す強い組織』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015年
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