コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


あなたはクライアントにどんな承認を期待しますか?

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今年は桜の開花が遅れましたが、その恩恵を受け、桜の舞う中で行われた息子の中学校の入学式に出席しました。

中学校に進学するにあたって息子は初めて「受験」という体験をしましたが、私にとっても、自分以外の受験に関わるのは初めての体験でした。息子が中学受験をすると決めた昨年の4月から、悩みも迷いも尽きることがなく、何度「勉強しなさい」と言ったか、何度「もう受験なんてさせなくていいかも」と思ったかわかりません。

小学生に勉強させることの難しさに悩み、迷いながら過ごした1年でしたが、試験日が近くなった今年1月頃から、私の感じ方にも少しの変化が生まれ始めました。

「いつの間にこんなに難しい問題が解けるようになっていたのだろう」

息子の成長を感じる場面が増え、なんだかんだいいながら息子は受験にしっかりと向き合ってきたのだということを実感するようになりました。結果として第一志望校の合格は叶いませんでしたが、いくつかの志望校に合格することができました。

「承認欲求」という落とし穴

合格は喜ばしいことのはずなのに、受験が終わると、私はまたぐずぐずと落ち込み始めました。息子が第一志望に合格できなかったのは、なかなか協力できなかった自分のせいだと思ったからです。

一方の息子はというと、ここまで勉強してきた実力を発揮できたことに満足しているようです。受験が終わると、合格した学校の中からどこに行くかをさっさと決め、何の部活に入ろうかと自分の未来について考えています。

そんな息子の様子を見ているうちに、私はハッとしました。「お母さんのおかげで受験成功したよ! ありがとう」という言葉を息子から聞きたかった自分がいたことに気づいたからです。

このハッとする感覚は、コーチとしても身に覚えのあるものです。それは「クライアントに必要とされたい」という承認欲求が強まった時にも感じる感覚と共通しています。

最高のリーダーとは? 最高のコーチとは?

コーチとしての承認欲求が高まったときに、いつも思い出す老子の言葉があります。

「太上は、下のこれ有るを知るのみ。猶として、それ言を尊ぶ。功成り事遂げて、百姓みな、われ自ら然りと思えり」

老子のこの言葉について、東洋思想研究家の田口佳史氏は次のように解説しています。

「『太上』とはすなわち『最高のリーダー』のこと。最高のリーダーは、その下の人たちにとって、『知るのみ』と老子は表現しています。

下の人たちにしてみれば「そういう人がいる」ということは知っているけれど、それ以上のことは何も知らない。その人の存在をさほど感知してない。それが最高のリーダーだと老子は言うわけです。

そしてリーダーたるもの余計なことをごちゃごちゃ言うのではなく、言葉少なくあれ。すると、人々は何かの仕事を成し遂げたとき『自分でやり遂げた』と感じることができる。そんなリーダー像を老子は説いています。」(※1)

今回受験に取り組む中で、私も親として息子に教えたり、勉強する機会を与えたりなど、いろいろなかたちで協力してきたつもりでした。しかし、そんなことは息子が知る必要も理解する必要もないのです。息子が「自分でやり遂げ、自分の力で合格を勝ち取った」と思ってくれれば、それでいいのではないでしょうか。息子が最高の成果を出したと感じているのであれば、親の自分が何をしたかは関係ないのではないか。この言葉を思い出し、改めてそう思いました。

老子のリーダー像から学ぶ「コーチとしてのあり方」

日々コーチをしていると、クライアントから、

「野口さんから言われたことで、自分の弱さや、傾向・癖を知れた」
「野口さんにお尻を叩かれて、ずっと取り組めなかった事に取り組むことができた」

という言葉をもらうことがあります。こうした言葉を聞くと、自分の存在価値や影響力、貢献を感じて、コーチとして承認されたような気持ちになります。そのことが悪いことだとは思いませんが、時にその想いが強すぎてしまい、コーチングの目的がクライアント自身ではなく、コーチとしての自分になってしまっていることがあることに気づきます。

「コーチングの最大の目的は、目標達成することであり、そのためにコーチングを受ける人が自分自身の力で自分の能力を開発できるようになることにあります」(※2)

コーチやコーチングは、クライアントの目標達成におけるプロセスの中の一つの「ツール」「通過点」や「要素」にすぎません。コーチングにおいては、あくまでもクライアントを主体において「コーチングを活用しながら、自分の能力を最大化し、自分で目標達成・成果をつかみ取った」とクライアントが思えることこそが、コーチにできる最大の貢献ともいえるのではないでしょうか。

皆さんはコーチとしてどんな「あり方」を選びますか?

日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て転載)


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【参考資料】
※1 田口佳史、「できるリーダーは『存在感が薄い』納得の理由 老子が考える東洋人らしい『美しい人間性』とは」、東洋経済ONLINE、2021年
※2 コーチ・エィ アカデミア マニュアル、「F00 オリエンテーション」

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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