コーチの薦めるこの1冊

本は、わたしたちに新たな視点を与えてくれます。『 コーチが薦めるこの一冊 』では、コーチが自分の考え方や生き方に影響を与えた本についてご紹介します。個性豊かなコーチたちが、どんな本を読み、どんな視点を手に入れたのか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。


あなたの『Want to』は何ですか?(『武道館』)

あなたの『Want to』は何ですか?(『武道館』)

著者:朝井リョウ
出版社:文藝春秋
発売日:2015/4/24

あなたの『Want to』は何ですか?

幼い頃から物語を書くことが好きで、シナリオスクールに通っている。スクールで言われることの多くは

「主人公は何をしたいんですか?」

の一言だ。

「何をしたいのか」には作者の伝えたいテーマが込められているはずなのだが、ここがぼんやりしていると、主人公の行動に一貫性がなく、どこへ向かっているのかわからない物語になり、観客を置いてけぼりにしてしまう。

コーチングではよく、『「want to」つまり「~したい」を目標にするとよい』と言われる。私たちの人生も、物語の中で生きている主人公も、「want to」によって生かされているのではないかと感じている。今回はその「want to」を探すヒントがちりばめられている小説を紹介したいと思う。

紹介するのは直木賞作家、朝井リョウの『 武道館 』という小説だ。幼い頃からアイドルになりたかった主人公の愛子が、夢だったアイドル活動と、幼なじみの大地との恋愛を通じて成長していくストーリーである。

本文中、愛子がいかにアイドルになりたかったのかうかがえるシーンが数多描かれている。

「右手を握れば、それはマイクになる」
「ただ、いつもいつでも、歌って踊ることが好きだった」

と、まだ無邪気な夢見る子どもだった頃と、アイドルになるという夢を叶えた時点でも、その「want to」は変わっていない。

一方で、大地にも夢中になれるもの、「want to」がある。それは剣道だ。彼は剣道が好きだ、という気もちを直接口から発することはほとんどない。しかし、彼のいくつかの反応から読み取ることができる。例えば、愛子が長々とした剣道の大会名を

「今の何? 呪文?」

とおどけて聞いてみせた時。愛子が大地の個人稽古を

「シュギョー(修行)」とからかう時。

彼は

「バカにしてるのか?」

と真剣に愛子を睨む。

こうして、剣道のことをからかわれると怒る大地に、愛子はこうつぶやく。

「自分が選び取ったものだから、ちゃんと大好きなんだよね。だから、人から笑われたりしたら、ちゃんと怒れる」。

私はここに「自分のwant to」を知る一つの方法を発見したように感じた。

振り返ると、私は自分の「want to」についてからかわれたときに、大地と同じように怒ってきたような気がする。自分の「want to」、つまり「文章を書くこと」について、友人から馬鹿にされたり、「そんなの無理に決まってる」と囁くドリームキラーが出てくると、途端に頭の血がのぼりそうになった経験をしたことが何度もある。しかもそれは、比較的幼い頃からあったように記憶している。

「want to」がはっきりしていると、具体的な行動に移しやすい。それは、明確に「こうなりたい」「これを手に入れたい」というイメージができているため、自分に何が必要なのかが明らかになりやすいからだ。また、新たな可能性を見出そうと自らが主体的になり、変化を起こそうとする。変化こそ「want to」を実現する最短距離だと私は思う。

その他にも、この物語の中では、ハッとさせられるセリフや表現がたくさんある。

「お金とか体力とかさ、限りあるものをどう使うかってところに、そいつらしさって出るじゃん」
「何が正しい選択かなんて、ほんとうに、誰にもわからない」
「夢って、叶ったら幸せになる人がいるときに使う言葉だと思うの、私」

これらを質問のかたちにすると、いくつもの「want to」を引き出す質問になるのでは、と思わず抜き書きをしてしまった。

この物語を読み終えたとき、私にはまわりに問いかけてみたい一つの問いが生まれた。

「あなたは、人から自分の『want to』を笑われたら、きちんと怒ることができますか?」

ぜひ、自分にとっての「want to」を知るための問いがどこにあるのか探しながら、この小説を楽しんでいただければと思う。


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