コーチの薦めるこの1冊

本は、わたしたちに新たな視点を与えてくれます。『 コーチが薦めるこの一冊 』では、コーチが自分の考え方や生き方に影響を与えた本についてご紹介します。個性豊かなコーチたちが、どんな本を読み、どんな視点を手に入れたのか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。


あなたはなぜ本を読むのか

あなたはなぜ本を読むのか
あなたはなぜ本を読むのか

著者:デール カーネギー
出版社:創元社
発売日:1999/10/31

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誰にでも、人生に大きく影響与えた出来事というものがあるのではないだろうか。それは、必ずしも大きな出来事とは限らない。

そのときには些細に感じられた出来事が、振り返ってみると、自分の人生を語るうえでは欠かせないパーツとなっている。そんな経験はないだろうか。

私にとって、それは読書に関わる体験である。


私は今でこそ、本がなくては生きていけない、いわゆる「本の虫」と言っていいほど読書を愛しているが、かつては活字が本当に嫌いであった。小学生や中学生の時などは、年に一回の読書感想文のために仕方がなく本を読む。いや、それさえもかなわず、本を読まないで読書感想文を書いた年もあったような気がする。

そんな私だが、社会人になってほどなく、ある本に出会って本に対する考え方が一変した。その本は、デール・カーネギー著の『人を動かす』(原題:How to Win Friends and Influence People)である。


学生時代まで、私の交友関係は、私がつきあいたいと思っている人だけで構成されていた。それが、社会人になった途端、上司と部下、または同僚というこれまでとは異なる関係性が生じる世界へと変わった。

こうした関係性においては、どんなに気が合わない相手であっても、つきあわないわけにはいかない。「会社」という環境において、多くの場合、上司は自分で選ぶことができない。すなわち自らチームを選ぶことはできず、決められたメンバーの中で、チームのメンバーと協力し、成果を出すことが求められる。そのためには、「好き嫌い」という感情に振り回されることなく「他人に動いてもらう」というスキルが必要になってくる。

いま思い返してみると、それは、これまで経験したことのない常識に直面していた時期でもあったように思われる。その「常識」とは、当時思っていたことを言葉で表現しようとすると「正しいことが通じない世界がある」ということだ。後にこの表現は正しくないことに気づくのだが、当時の私は、まさにこのように思っていた。

社会人になり、学生時代とは違う人間関係や、学生時代とは違う常識の中で戸惑っているときに目が止まったのが、デール・カーネギーの『人を動かす』であった。

この本の最初には、「盗人にも五分の理を認める」というエピソードが登場する。話の概要は次の通りだ。

1931年、ニューヨーク市に、凶悪な殺人犯でピストルの名手「二丁ピストルのクローレー」という男がいた。この男、針の先のような小さなきっかけでも、すぐに人を殺したという。この男が刑務所の電気椅子に座るとき、なんと言っただろうか。

「こうなるもの自業自得だ―大勢の人を殺したのだから」
と言っただろうか。いや、そうは言わなかった。

「自分の身を守っただけのことで、こんな目にあわされるんだ」
これが、クローレーの最後の言葉であった。

このエピソードを読んで、はっとした。自分の中に別の視点が生まれた瞬間である。

「盗人でさえも、自分のしたことは正しいと思っている」

盗人や法を犯した者が自らを正当化することに理解を示せ、ということではない。クローレーの話は、自分が「正しい」と思っていることが他人にとっては、「正しい」とは限らない、ということの極端な例だ。

私は、自分が直面していたのは「正しいことが通じない世界」ではないことに気づいた。単に「自分が正しいと思っていることは、他人にとっては正しくない」ということに過ぎなかったのである。

すべての物事は「正しいか、間違っているか」という単純に評価できるものではない。自分は「間違っている」と感じる主張であっても、それを主張している相手にとって、それは「正しい」。ほとんどの場合、相手がそう考える理由がある。

つまり、自分とは違ったコンテキスト(文脈)をもつ人たちが存在し彼らの主張を理解するためには、まずそのコンテキストを理解せねばならない。この本を読んで、そのことに気づかされたのである。

この一つの出来事で当時自分が直面したさまざまな課題が解消したわけではない。それでも、自分がおかれた状況を客観的にみる視点を手に入れただけで自分なりに解決していく手段をもてるようになったと感じた。

これが、本が自分に与えてくれるものの大きさを知った最初の体験である。


本は、客観性のある情報を提供してくれる。何かの教訓を学ぶときに、どこから、あるいは誰からどのような方法でその助言を得たかという過程は、納得感を左右する。

たとえば、あまりうまくいっていない上司から指示を受けるなどという場合や口うるさく小言を言う両親からの指示などは受け入れ難く感じるものだ。相手に屈したような感覚を覚えるからかもしれない。

一方、本から得た情報については、使うも使わないも自分次第だ。著者は何らかのメッセージを発しているがあなたが行動しなくても「なぜやらないのだ」などとは言わないし、あなたの行動が変わったとしても「ほら、言ったとおりだろう」などとも言わない。本を通じれば、感情を介することなく人の意見を受け取ることができる。

さらに、本には著者が得た経験や考えが書かれているので「他者のコンテキストでものを見る」ということについての最高のツールでもある。


『人を動かす』に出会い、本の影響力を体感して以来、私は人が変わったように本の虫になり、それ以来、実に10年近くが経過した。

私は今、すごく本に対して感謝している。本を読むようになって、自分の可能性はすごく広がったと思う。それは、今まで生きてきた人生とは違う視点を、本が与えてくれるからである。これが、私が読書に飽きることがない理由だ。

そして、他の人とも、ぜひこの素晴らしい読書体験を共有したい。これが、私が読書を他人に薦めたい理由だ。

自分の人生に影響を与えた一冊。その本を読んだときの気持ち。

それを今一度思い返してみてはいかがだろうか?


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