コーチの薦めるこの1冊

本は、わたしたちに新たな視点を与えてくれます。『 コーチが薦めるこの一冊 』では、コーチが自分の考え方や生き方に影響を与えた本についてご紹介します。個性豊かなコーチたちが、どんな本を読み、どんな視点を手に入れたのか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。


「木を植えた男」からの問い(『木を植えた男』)

「木を植えた男」からの問い(『木を植えた男』)

著者:ジャン ジオノ
出版社:あすなろ書房
発売日:1989/12

「木を植えた男」からの問い

この物語との最初の出会いは、高校生の頃。アカデミー賞短編アニメーション賞を2度受賞しているフレデリック・バック氏による、30分ほどの短編アニメーションでした。その後しばらくして絵本、さらに少し経って原作の書籍を入手。そのたびごとに、新たな印象をもたらしてくれる一冊です。

物語は、語り手である「青年」が、荒れ果てた野で一人、黙々と、どんぐりの木を植え続ける「男」に出会うところから始まります。

10万個の種を植えても、芽を出すのはわずか2万個、結果的に育つのはさらにその半分のわずか1万本。そんな、気の遠くなるような取り組みを続ける「男」に興味をもった青年が、時折「男」を訪ねること約30年。

「男」の育てた木は、やがて森となり、荒野には水が戻ってきます。そして、荒れた地には一つ、また一つと村が再興され、最終的には1万人もの人々の笑顔と未来への希望に満ちた土地へと生まれ変わっていきます。

この「男」の不屈の精神と実行力は、三日坊主になることが多く、加えて効率や要領のよさを重視していた高校生の私には、十分な衝撃でした。けれど、「男」の取り組みは、その頃の私には少々壮大すぎて、印象に残ったのは、物語後半の方でした。

一人の人間の行いが、こんなにも広く、たくさんの人の幸せへとつながる。

誰かのちょっとした行いが、知らない誰かの笑顔につながっていく。

そんな連鎖の可能性を思わせる、胸が熱くなる物語。何度も何度も読みました。


大学生になり、進路を考える頃になると、「男」を30年間追い続けた「青年」の存在が印象に残るようになりました。

この「男」のように、人知れず偉大なことを成し遂げた人たち、あるいは今まさに取り組んでいる人たちはたくさんいるはず。

「青年」が「男」の偉大な取り組みを見届けたように、私も、人の想いや可能性が形になっていくのを見てみたい、そして、それを人に伝えたい。そんな気持ちが大きくなり、就職活動時の原動力にもなりました。


男の「不屈の取り組み」そのものに目が向いたのは、社会人になり、原作本を読んだ時でした。

木を植える男とはじめて出会った時、青年は感嘆します。「もう30年もすれば、1万本のカシワの木が、りっぱに育っているわけですね」と。そんな青年に男は、「もう30年、ずうっと植えられるとすれば、今の1万本なんて、大海のほんのひとしずくってことになるだろうさ」と返します。この時点で、男はすでに未来を見据え、ブナやカバの木を植える実験や計画に着手していたのです。

30年の間には、1万本もの苗が全滅したこともありました。でも、男は諦めません。絶望しても、またそこから立ち上がるのです。誰かに言われたわけでも、何か見返りがあるわけでもない。ただただ、信念に従って。たった1人で。

それは、何ともすごいことだと思いました。ちょっとうまくいっただけで得意になる自分、ちょっとうまくいかないだけで歩みが止まる自分が恥ずかしくなりました。

「できるか、できないか」「できたか、できなかった」でなく、「どうしたらできるのか」を考え続ける。

「する」と決めたら、ただ「実行する」のみであることを、男の姿に学びました。そして、志や信念からくる強さを感じ、そのような探求にも似たチャレンジをいつか私もしたいと思うようになりました。


13年前、私は「コーチになる」と決めました。

今ほどメジャーではなかったコーチング業界に転身するのは、勇気のいることでした。そんなときに背中を押してくれたのも、この物語です。日本でコーチングが広がれば、たくさんの可能性が芽を出すに違いない。自分も、その木を植える一人になれたら...。せめて、一粒のどんぐりになれたら...。そう思って、一歩を踏み出しました。

そういえば、最近この本を読んでいませんでした。何かを問われている、そんな気分になるからかもしれません。

「この先、どんな木を植えていくのか?」

ちょっと覚悟して、この問いと向き合ってみたいと思い始めています。

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