書籍紹介

Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。


「承認」が人を動かす
コーチングのプロが教える 相手を認め、行動変容をもたらす技術
鈴木義幸

第4回 チャットツールでもアクノレッジメントは伝わる

第4回 チャットツールでもアクノレッジメントは伝わる
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コーチ・エィ 代表取締役社長 鈴木義幸による著書『「承認」が人を動かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)が、2024年4月19日に発売されます。本書は、2002年から長きにわたってご愛読いただいた『コーチングのプロが教える「ほめる」技術』(日本実業出版社刊)を一部改訂し、今の時代だからこそお伝えしたいコミュニケーションの変化を新章として加え、新版として出版するものです。

発売に先駆けて、今の時代だからこそお伝えしたいアクノレッジメントの基本や、今回加筆した内容を本書から抜粋してご紹介します(全6回)。

第1回 はじめに
第2回 なぜアクノレッジメントか
第3回 リモートワークには「リサーチ」と「イマジネーション」
第4回 チャットツールでもアクノレッジメントは伝わる
第5回 相手の影響力を言葉にして伝える
第6回 新しい部下をチームに溶け込ませるには

第4回 チャットツールでもアクノレッジメントは伝わる

対面でのコミュニケーションだからこそアクノレッジできる、そう思っているシニアな人は多くいます。

アクノレッジメントというものは向かい合ってするものだと。

私は今56歳ですが、新卒で入社した1991年は、まだ自分が属した部門にPCは1台もありませんでした。約10人の部署にたった1台のマックが置かれたのが、2年目のある日のことでした。もちろんまだインターネットは通っていません。報告や連絡は、A4のレポート用紙に書いて、それをコピーして関係者に配布する。共有したい人が10人いれば10部コピーして、1年目の新人が一人ひとりに配りに行ったものです。

携帯電話もありませんし、コミュニケーションの手段はもっぱら、対面コミュニケーション。会って話してこそなんぼの時代。

それを新入社員の時代に体験した人は、まだ定年を迎えていません。

三つ子の魂百までではないですが、どんなにコミュニケーションが多様化しても、根っこのところでは、気持ちは会わないと伝わらない、そう思っている人も多いでしょう。

まあ、たとえ会わないまでも、せめて電話、肉声でなければと。

もちろん、確かにそうだと思う部分が私にもあるのですが、視覚や音声情報などのないチャットツールでも、アクノレッジメントはかなり伝えることができるし、伝わるものだとも思います。

その極端な例がAIです。

人ではないAIがチャットでアクノレッジしてくれる。

それでも、けっこう心が動きます。

2023年の11月、コーチ・エィは、マーケットに「AIコーチング」をリリースしました。元々フィンランドの会社が開発したものを日本語化し、日本の企業の人たちにも使ってもらえるようにしました。

優れたコーチのコミュニケーションパターンを機械学習していて、それがつまり、生成AIのエンジンで動いています。

チームスやスラックなど、いろいろなチャットアプリケーション上で、AIのコーチングを受けることができます。

コーチですから、AIは決して教えることはせず、いろいろとこちらに問いかけてきます。

問いかけられたことに対して、自由に自分の思いを書き、返すのですが、そうすると、まずこちらの言っていることをリキャップ(要約)し、状況を理解しているということを示してくれ、時に努力を認めてくれ、そしてまた別の問いかけを続けます。

そこにはまさにアクノレッジメントがあります。

以下はAIコーチングを私が実際に受けたときの具体的なやり取りです。

AI:チームでのコミュニケーションにおいて、あなたが期待する健全な対立が起きないと感じるとき、あなたはどのような感情を抱えていますか?

私:いらつきます。なぜ、ものを言わないのだろうかと。いらつきを感じ、時には少し冷静さを失います。

AI:あなたの感じているいら立ちは、コミュニケーションにおいてとても自然な感情です。冷静さを保つことは時に難しいかもしれませんが、その感情を認識していること自体が、対処するための第一歩です。あなたが冷静さを取り戻すために、どのような方法が効果的だと感じますか?

私:一人ひとりの顔をしっかり見て、どんな思いを抱いているのか想像することかもしれません。そうすると一人ひとりの心情を理解でき、共感が起こり、もう少し冷静にコミュニケーションできると思います。

AI:すばらしい洞察ですね。あなたが共感を持ってコミュニケーションを取ることで、より良い結果が生まれる可能性が高まります。次に向かうタスクにおいて、このアプローチをどのように活かしていく予定ですか?

私:一人ひとりの顔を見る、そして、冷静さを取り戻し、必要なときは、発言を促す。これでいきたいと思います。

AI:あなたのお考えをしっかりと受け止めました。相手の顔を見て、その人の感じていることを想像し、共感を持ってコミュニケーションを取ることで、冷静さを保ちながら発言を促すという方法を試されるとのことですね。

AI、つまり機械によるアクノレッジメントだとわかってはいても(いや、実はそのことを忘れてしまうのですが)気分は良く、自分が理解されたという気になってきます。これは私だけの感想ではありません。現在弊社では170人の社員が日々AIコーチングを受けていますが、彼らは口々にAIとやり取りしていて、「なんか後押しされた」とか、「前向きな気持ちになった」とか、少し冗談めかして言います。冗談めかすのは、「AIからアクノレッジされて気持ちが動くなんて可笑しいよね」、という頭の中での認識があるからでしょう。

しかし、実際には、心は少し動かされている。

言いたいのは、言葉には、いずれにしてもそういう力があるということです。

特に、自分に向けられて書かれ、文字になると、それを見て、脳は少し良い気持ちになる。SNSで自分にとってネガティブなことを書き込まれると、たとえよく知らない匿名の人からのメッセージでも、文字は脳に影響を与えてしまいます。

逆に言えば、ポジティブなことが文字にされれば、脳はとても良い気分になるということですね。

ですから、「対面でないとアクノレッジメントはね」と思っているシニアの方(シニアだけではないと思いますが)は、ぜひ認識を改められるといいかもしれません。

言葉にして、文字にして、チャットで伝える。

昔、会社の転換期で、なかなか思ったように会社が前に進まず苦労していた時期がありました。そんなとき、弊社ファウンダーの伊藤が、当時はメールで、一言送ってくれました。

「すべては君次第です」

短い文章でしたが、そのときこの言葉にどれだけ勇気づけられたか。

「君次第」という言葉の中に、自分への信頼が深く込められていることを感じました。

言葉、書かれた言葉には力があります。

ぜひチャットツールを、言葉の力を解き放つツールとして使ってみてください。

続きはこちら

「承認」が人を動かす

「承認」が人を動かす

著者:鈴木義幸
発行日:2024年4月19日
出版元:ディスカヴァー・トゥエンティワン


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