Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
第5回 Might 断定はせず、常に好奇心を持って可能性を広げよう
2023年09月03日
2023年6月23日に、コミュニケーション科学者としてコーチングの会話の仕組みを研究してきた著者ヘスン・ムーン氏の『Coaching A to Z』の日本語版、『Coaching A to Z 未来を変えるコーチング』がディスカヴァー・トゥエンティワンより刊行され、その監修をコーチ・エィのファウンダーである伊藤守が務めました。
本書は、コミュニケーション科学者としてコーチングの会話の仕組みを研究してきた著者が、広範な研究に基づいた26の視点と具体的なエピソードを紹介しています。また、望ましい未来を設計するための、対話によるストーリー作りの基本を解説しています。
第1回 | 良い対話が優れた力を発揮する |
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第2回 | Already 目指す先の指標ではなく、すでに積み重ねた努力に注目しよう |
第3回 | First 望ましくない慣れた行動パターンから、慣れないけれど望ましい行動パターンに変換しよう |
第4回 | Look 心の中の感想や印象を明瞭な言葉に表し、相手と行き違いが起こらないようにしよう |
第5回 | Might 断定はせず、常に好奇心を持って可能性を広げよう |
第5回 Might 断定はせず、常に好奇心を持って可能性を広げよう
「ママ、ゆうべ夢で何があったか知ってる?」
私は4歳の頃、朝、目が覚めると開口一番よくこう言いました。母が「どんな夢だったか話してちょうだい」と言い、私はすばやく小さな体を子ども用ベッドの端に寄せ、できた隙間に母が半身を起こして横になります。
「あのね、何があったかって言うと......」
私は、思い出せる限り、夢の中の出来事を話し始めます。ところが、話しながらすでに曖昧な部分も出てきます。それでも母は、面白そうに「へー」とか「まあ」と合いの手を入れながら耳を傾け、「それから?」と促します。話の区切りに来る度に「それから?」でつなぐことを何回か繰り返すうち、私の夢の物語は、夢で見たよりもはっきりしてきます。母は、どの夢の話のあとでも必ず、「そう、素敵な夢を見たわね。どうしてだかわかる?」と言って、その夢がなぜいい夢なのか、理由を説明してくれました。例えば、空を飛ぶ夢は、私の背が伸びるしるし、花を摘む夢は、よい知らせの前ぶれ、歯が抜ける夢は問題の解決(4歳児がそれなりに抱える問題)を意味したのです。
ある日、私は階段から落ちる夢を見ました。そして母のいつも通りの反応に、こう反論しました。
「でもママ、これがいい夢のはずないでしょ? この前見た、階段を上る夢がいい夢だって言ったじゃない。落ちるのは上るの反対だよ」
「そうねえ......」と母は少し目を丸くして、それから微笑んで言いました。「よーく見てごらん。この前とは違う階段よ」。するとどうでしょう、違う階段のイメージが浮かんだのです。まるで、単に忘れていただけで、夢の記憶をたどったら思い出したかのように。母は、私が見た夢すべてが大事な夢だと思わせてくれました。そして、必ず別の見方があるということも教えてくれたのです。
「かもしれない」は頼もしい
私がコーチングするクライアントは、「まあ、こういうわけなんです」と、各々のストーリーを携えてセッションに訪れます。心の準備が整っている人も、そうでもない人も、十分に事前リハーサル済みの人も、そうでもない人もいます。クライアントがストーリーを語ってくれる間、私は、話の区切りに来る度に「へー」とか「まあ」と言いながら耳を傾けます。
私が知りたいのは、何が起こったかよりも、クライアントがストーリーをどう終わらせたいかなのです。そこで私は、「仮にですけど......あなたのストーリーが最終的に最高のハッピーエンドになると考えましょう。そのときのあなたは、何が今までよりずっとよくなったとか、今までと全然違うとか、気づくと思いますか」と尋ねます。
そうすると、クライアント自身がさっきのストーリーの新しいバージョンを語り出します。新しいストーリーは、見慣れた道すじからそれていき、私はところどころで「その次、何が起こるかもしれないと思いますか?」と、促します。そうしてクライアント自身がキュレートする夢や希望の新たな道すじを共にたどりながら、その人にとって本当に大切なものは何か、垣間見ることができるのです。
この時点で、ストーリーはもはや人生で「何が問題なのか」ではなく、「何が大切なのか」というテーマに変わっています。そこでセッションが終わり、その人は新たな一歩を踏み出せるのです。
人は、未来について語ってくださいと言われると、まず間近な未来を語り始めます。例えば、「明日、心穏やかに出勤する」「今度の面接は自信を持って臨む」「授業に、学習意欲を持って出席する」など。
聴き手は、よく、相手が語る近い未来の展望を、その人が望む終着点だと勘違いして、そこに向かって問題解決に取りかかってしまいます。けれどもコーチングでは、その近い未来の展望を、その人が望ましい方向に進む途中にある1つの出発点と考え、そこから道を作り始めるのです。
それを踏まえて、会話の相手への問いかけを次のように変えてみましょう。
「心穏やかに出勤できたとして、それから?」
「自信を持って面接に臨めたとして、それから?」
「学習意欲を持って授業に出席したとして、それから?」
(つまり、「どうすれば心穏やかになれるでしょう」「どうすれば自信を持てるでしょう」「どうすれば学習意欲が湧くでしょう」ではなく)
相手が望ましい未来を想定したなら、あなたの役目は、その人の人生が望ましい状態になったとき(もしなったらではなく)、その次には何が起こるかもしれないか、想像するようにいざなうことなのです。
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