Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
コーチングのプロが教える 相手を認め、行動変容をもたらす技術
鈴木義幸
第6回 新しい部下をチームに溶け込ませるには
2024年04月19日
コーチ・エィ 代表取締役社長 鈴木義幸による著書『「承認」が人を動かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)が、2024年4月19日に発売されます。本書は、2002年から長きにわたってご愛読いただいた『コーチングのプロが教える「ほめる」技術』(日本実業出版社刊)を一部改訂し、今の時代だからこそお伝えしたいコミュニケーションの変化を新章として加え、新版として出版するものです。
発売に先駆けて、今の時代だからこそお伝えしたいアクノレッジメントの基本や、今回加筆した内容を本書から抜粋してご紹介します(全6回)。
第1回 | はじめに |
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第2回 | なぜアクノレッジメントか |
第3回 | リモートワークには「リサーチ」と「イマジネーション」 |
第4回 | チャットツールでもアクノレッジメントは伝わる |
第5回 | 相手の影響力を言葉にして伝える |
第6回 | 新しい部下をチームに溶け込ませるには |
第6回 新しい部下をチームに溶け込ませるには
転職が特別なことではなく当たり前のことになり、また企業間の合併がしばしば紙面を賑わせる昨今、昔以上に「新しい部下」に遭遇する機会は増えたと思います。企業内でもさかんに事業の再編成が行われていますから、昔は4月の異動時期だけ心構えをしていれば良かったのが、それこそ唐突に新しい部下はやってきます。
至極当然のことを言うようですが、人は初対面の人に出会うと緊張します。どんなに表向きは、さらりと堂々とふるまっているように見える人でも、身体のどこかに緊張を走らせています。
それは、人は人にとって最大の協力者であると同時に、最強の敵にもなり得るからです。人にとっていちばん危ないのは、虎やライオンではありません。間違いなく人です。単に物理的な危害を加えられるかもしれないというだけではなく、精神的な被害をこうむる可能性もあります。顔では笑っていても、まだあまり関係のできていない人に対しては、どこかで防衛をきちんとかけているものです。
ですから、新しい部下がやってきたその日、上司と部下との間には、水面下でものすごい「読み合い」があるわけです。上司は「よろしくね!」と明るく言いながら、内側では「こいつとうまくやっていけるだろうか」「十分な能力はあるだろうか」「自分のことをちゃんと信頼してくれるだろうか」などと、いろいろなことを思うものです。
一方、部下も「よろしくお願いします!」という明るい返事の裏側で、「仕事をしやすい上司だろうか」「自分に期待をかけてくれるだろうか」と脳をフル回転させています。
時としてこの読み合いが延々と続いてしまうことがあります。半年、1年、場合によっては次の転職までなどということもあるかもしれません。人である以上、どれだけ仲良くなったとしても、自分を守るために多少はこうした読み合いを継続させるのでしょうが、なるべく早くその「レベル」は軽減させたいものです。
新しい部下がリラックスして仕事に集中できるように、「読み」を適正範囲にまで落としたいことでしょう。
そして、そのためにできる最善のことは、おそらく読み合いをできる限り早く「表面化」させることだと思います。つまり、新しい部下が来ることで自分が抱いている期待と不安を、後ろ手に隠しておくのではなく、思い切って相手に正直に伝えてしまうのです。その代わり部下からも、どんな期待と不安を持っているのかを話してもらいます。
3か月前、弊社にも新人が中途で入社しました。手前味噌になりますが、最初の2か月ぐらいはとにかくお互いの期待と不安が表に出るように意識しました。彼にはメンター(先輩として基本的な仕事の進め方やスキルを教える人)が付き、コーチが付き、そして当然上司も付きました。がんじがらめにしたかったわけではなくて、とにかく何でも話したかったし、話してもらいたかったのです。裏でお互いにいろいろと思うようなことをしたくなかったわけです。
それでもよく見ていると、彼の中にさまざまな疑問が起こっているのがわかります。すると、その場ですぐに彼をつかまえて話をします。「少し迷いがあるように見えるけど、どうなの?」。2か月間は目の端に必ず彼を入れていました。
やっと先月です、気負いでもなく、いい顔を見せたいからでもなく、彼が本当にすっきりとした笑顔で「最近、のってきましたよ」と言ったのは。もうそこまで頻繁に彼を見なくても良いかなと思った瞬間でした。
新しい環境になじむのは口で言うほど簡単なことではありません。お手軽に関係をつくれるかというとそんなことはないでしょう。
とにかく話して話させる、すべてをオープンにしていく----それがメンバーをチームに溶け込ませるということだと思います。
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