コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
出逢いなおす
2018年03月27日
小学生の息子が誕生日プレゼントにあるものが欲しいと言い出しました。
私たち一家は、現在、上海に住んでいます。息子のほしがるものを聞いたときに、まず頭に浮かんだのは、
中国のどこで買えるのかわからないな。
大気汚染の上海でそれって意味あるの?
しかも、帰国のときに荷物が増えるじゃない!
乗り気ではなかったものの、ちょうど日本出張があったので、インターネットで注文し、実家に届けておいてもらい、出張時に実家に寄ってピックアップすることにしました。時間の限られた出張時、実家まで足をのばし、梱包材でゴルフバックくらい大きくなった「それ」を持って国際線ターミナルへ。無事上海に着いたと思いきや、上海空港の税関検査にひっかかり、係官にあれやこれやひとしきり詰問された後、やっとの思いで「それ」を上海の自宅に持ち帰りました。
誕生日プレゼント
そのあるものとは、天体望遠鏡です。
私は、生まれてこの方、天体にはまったく興味がありませんでした。プラネタリウムに行ったこともありません。しかも、苦労をして上海まで持ってくるはめになり、正直言って、その望遠鏡をうらめしくさえ思っていました。
しかし、その晩、息子に促されて、いやいやその天体望遠鏡を覗いてみたところ、驚くような体験が私を待っていました。生まれて初めて天体望遠鏡から見た月は、息をのむほど美しかったのです。そのときの感動を思い出すと、今この文章を書いている手が止まってしまうほどです。
ファインダーの中いっぱいに広がったその球体は、強烈な光を放ちながらも、どこか落ち着いた、暖かみのある黄金色に輝いていました。月の表面には、大小のクレーターが見えます。テレビや写真では何度も見たことのあるクレーターが、すぐそこで息をしているような臨場感。刻々と姿を変えていく月を不思議な気持ちで眺めているうちに、動いているのだと気づきました。月が動いているのではなく、そう、私たちのいる地球が動いている! そのときの感動は、言葉で言い表すことができません! そのときベランダに吹いていた夏の湿気を含んだ風、鳴っていた風鈴の音、いまでも鮮明に記憶に残っています。
その夜、私は月について調べました。月の輝きは、太陽の反射であること。クレーターは、衛星として地球を守り、身代りに受けたためにできたこと。
今までずっと見ていた月が、その瞬間から私にとってまったく違う存在になりました。私は、月と出逢いなおしたのです。息子の誕生日プレセントが、思いがけず、私の人生に想像だにしなかった歓びをもたらし、私へのプレゼントになりました。
そして、その日から、私のある行動が変わりました。会社からの帰り道、これまでは家に向かって疲れた足でとぼとぼ歩くだけだったのが、今では、最寄りの駅を出ると真っ先に空を見上げ、月を探します。そして、月が出ていると迷わずダッシュ! 疲れていることも忘れてダッシュ! 一刻も早く、月が雲に隠れてしまう前に、今日の月を望遠鏡で覗きたい。近くに感じたい。そう思うのです。
レッテルをはがす
私たちは、人生の中でたくさんの人に出逢います。その中には、好きだと思う人もいれば、苦手な人もいるものです。
人は、初対面の人と出逢うと、その人を理解するために、動物的な勘を働かせながら相手を観察します。それは、人間が動物から進化してきた証です。相手が敵か味方かを瞬時に見極めることで、自分を守ってきた言われています。
この人はどんな人なんだろう?
自分にとってどんな影響があるのだろう?
その人の外見、表情、話し方、話す内容などからたくさんの情報を取りこみ、自分なりにどういう人かという結論を出します。コーチングでは、それを「レッテル」や「ラベリング」と呼んでいます。
この人は、優しい人だ。
この人は、厳しい人だ。
この人は、細かい人だ。
職場で長く一緒に働いている同僚、いつも顔を合わせるご近所の方やテニスクラブの仲間など、わたしたちは、「その人はどんな人?」と聞かれると、何かしらその人を表現する言葉をもっているものです。自分はその人に会ったことがあり、その時の印象で「レッテル」を貼っているからです。
目の前にいるその同僚は、あなたににとって「気が合わない人」かもしれません。でも、その「レッテル」を貼ったことで、あなたにとってその人は、不安をもたらす未確認物体から、少なくとも「気の合わない人」として対処できる存在になります。「レッテル」があることで、自分がどうすればよいかということをパターン化できるので、「レッテルを貼る」という反応は、人が対象を認知するときには必要不可欠といっても過言ではないでしょう。
しかし、「レッテル」には弊害もあります。相手を知った気になってしまい、それ以上知ろうとしなくなることです。その人はあなたにとって、あなたが貼ったレッテルのそれ以上でもそれ以下にもなりません。
天体望遠鏡を覗いてみる
私にとって、いつもそこにある、それ以上でもそれ以下でもなかった月。しかし、私は月と出逢いなおしました。この体験は、想像すらしなかった結果を、私にもたらしてくれました。
息子の誕生日プレゼントというきっかけで、天体望遠鏡を覗くことがなければ、私は一生、月の美しさに気がつくことはなかったでしょう。
よく知っているはずの人や、毎日会っている人と、出逢いなおしてみると、あなたの人生にも、思いもかけない変化が訪れるかもしれません。
出逢いなおすきっかけは、自分から、いつもとちょっと違う行動をしてみること。
- 1対1で話してみる
- いつもとは違う話題を提供する
- 自分からランチに誘ってみる
あなたが出逢いなおしたい人は誰ですか?
そのためにどんなきっかけをつくりますか?
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。