コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
あの人の何を見て、何を聞くのか
コピーしました コピーに失敗しました「やる気がないってお前が言ってたAさん、俺のところに異動してきたけど、そんなことないぞ。
仕事も丁寧に頑張るし、改善アイデアも出してくれるし、将来店長になりたいって話してくれたぞ。」
前職時代、近況を話す電話口で同期のSに言われた言葉です。数秒間、携帯を持つ手が固まりました。
Sは、どうやってAさんのやる気を出させたのだろう。
Aさんはやる気がないと、私が思い込んでいただけだろうか。
私はAさんの何を見て、何を聞いていたのだろうか。
このできごとは、私が自分の聞く力に目を向け始めるきっかけになりました。
聞けなくなる理由
そもそも人は、なぜ聞けなくなるのでしょうか。
以下のことが言われています。
- 人には、相手や物事の状況を「早く見分けて判断したい」という生存本能がある
- 人は、無意識のうちに「どちらが上か下か」「何が正しく、何が間違っているか」を考えながら話を聞いている
- 人の脳は、自身の関心に照らし合わせて、「自分の見たいものを見て、聞きたいことを選んでいる
私は、Aさんから相談を受ける際、いち早く答えを出すために、Aさんが話し終わる前に解決策を伝えていました。
また、「仕事は元気にやるべきだ」と考えていた私は、おとなしいAさんの様子から、「やる気がない人だ」とレッテルを貼っていました。そして何よりも、私は自分が考える理想の仕事のやり方を伝えるだけで、Aさんのことを聞いたことはありませんでした。
振り返ると私は「どうやって私の考えをAさんに伝えようか」という視点だけでAさんと関わっていたと思います。
なぜ聞くのか
転職して3年目の夏のことです。
希望したチームに配属されて半年が経ち、当時の私は、試行錯誤を続けながらも、思ったような成果が出ない、もどかしい日々を過ごしていました。
そんな折、コーチ全員が集まり成果を発表する会議が開催されることになりました。 会議はアイスブレイクからはじまりました。隣の人と互いの状況を紹介しあうというものです。
そのペアの相手がHさんでした。
Hさんのことは知ってはいたものの、仕事での関係は薄く、私にとっては年上の先輩コーチ、という印象ぐらいでした。
私はHさんを相手に話しました。おそらく3分程度だったと思います。
最近の活動状況、チームでとっている戦略、自分が担当しているクライアントなどについて。
言葉に出すにつれ、苦戦している日々が頭に浮かんできて、
「ああ、どうしていろいろ努力しているのに、あまり成果に繋がらないのだろう。」
「Hさんにはどういう風に伝わってしまうだろうか。」と、焦りを感じながら話していた気がします。
私が話している間、Hさんは、特に何も言わずに、軽くうなずく程度でした。
そして話が終わった後にこう言いました。
「佐藤さん、がんばっているんだね。」
それまで入っていた肩の力がふっと抜けました。
気持ちがちょっと軽くなり、会議はスタートしました。
私たちは、人との関係性のなかで生きています。
自分の話を聞いてもらえないと、自分の存在が認められていないように感じ、孤立感を持ちます。
逆に聞いてもらえることで、居場所を感じ、自分の重要性を確認することができます。
聞いてもらえることの効果は他にもあります。
私たちは、「話すことで自分が何を考えていたのかを知る」と言われます。
頭の中の無数のイメージやアイデアは、口に出してはじめて認識されます。
よい聞き手がいることで、人はたくさん話すことができ、より良いアイデアやアクションに繋げることができるでしょう。
また、聞いてもらえた、という実感が互いの信頼関係の構築にも繋がるのではないでしょうか。
では、よい聞き手でいるために、何ができるでょうか。
聞くための視点
私たちコーチが使っている「聞くための11の視点」を紹介します。
- 相手は何を求めているのか
- 相手にとっての障害は何か
- 相手はいまどんな姿勢か
- 相手は言葉と態度がマッチしているか
- 相手の価値観は何か
- 相手の強みは何か
- 相手の動機は何か
- 相手の文化的背景は何か
- 相手の言外にあるものは何か
- 相手の話す調子は
- 相手はどんなシナリオを持っているか
相手の何を見て、何を聞くことができるのか。
この視点を持つことは、普段の聞き方の癖から距離を取り、新鮮な角度で相手の話を聞く助けになります。
Hさんの聞き方が私を劇的に変えたとは思いません。
ですが、3分、アドバイスもなくじっと聞き、おそらく、私の感情を受け止め、
ただ「がんばっているんだね」とだけ返してくれたHさんに対して、今でも感謝の気持ちがあります。
あの時の私にとっては、それが救いになりました。
ちょっとした日々のやり取りはどこにでもあります。
いつも必ず、何も言わずに聞くべきなのか、それは分かりませんが、
ほんの些細な時間が本人にとっては支えになる、そういうことは確かにある、と私は思います。
あなたは、次にあの人と話すとき、どのような視点で話を聞きますか?
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