コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
「コミュニケーションを学ぶ」ということ
2022年12月06日
私たちコーチは、常にコミュニケーションを学びつづける存在です。皆さんは、どのようにしてコミュニケーションを学んでいるでしょうか。
ある企業の経営者の方から、こんなご相談がありました。
「役員のAさんは、仕事は本当によくできるんだけど、部下のやる気を削ぐようなコミュニケーションなんです。もっとほめたりしたらいいのに」
人は生まれてからずっと他者と関わり続ける中で、さまざまな成功体験や失敗体験をして、今のコミュニケーションスタイルを構築しています。そのため、いくらAさんに「コミュニケーションのとり方を変えてほしい」と言ったところで、容易に変えられるものではありません。
そしてAさんは、すでに「部下をほめる」ということを、コミュニケーションスキルとして習得しているはずです。部下のほめ方を知らないわけではないのです。
では、なぜAさんは、「部下をほめる」という行動を起こさないのか。
Aさんと話していくと「ほめる」というコミュニケーションに対して、
「ほめてしまうと、部下は満足して、それ以上頑張らない」
という意味づけをしていることがわかってきました。
そして、Aさんがそのような意味づけを持つに至った背景には、ほめたことで、それ以上ストレッチして成長しようという意欲が見られなくなった部下が実際にいた、という背景がありました。
しかし、どの部下も同じなのでしょうか。すべての部下が、ほめることで、成長の意欲を失ってしまうのでしょうか。その意味づけをもっていることで、失っているものはないでしょうか。
コミュニケーションにどんな意味づけをしているか
私自身が「コミュニケーションの意味づけ」の影響の大きさに気づいたのには、あるきっかけがあります。
コーチ・エィに入社した7年前、新入社員は役員との1対1の時間を通して会社について知る、という機会がありました。
ある役員に、「あなたはどんな人なの?」と聞かれ、自分についていろいろと話したところ、その役員が私に言いました。
「自分のことについて話すの苦手なんだね」
その瞬間、顔がカーッと熱くなり、真冬だったのに急に額から汗がだらだら出てきました。その面談をどう終わらせたかは、記憶にありません。
ただ、その後に考え続けたことがあります。
「どうして、相手は私が自分のことについて話すのが苦手だと感じたんだろう?」
そのことによって、相手にはどんな印象を与えるのだろうか?
私は、相手とどんな関係性を築きたいと思っているのだろうか?
そして私は、自分について話すとき、
「自分が優秀であることを見せないと、関係性が築けない」
と思っていることに気づいたのです。
でも、本当にそうなのでしょうか。
初対面で、自分の優秀さばかりアピールする人と、自分が苦手なことも含めて、率直に自己開示をする人とでは、後者の方が関係性を築くことになりそうです。
今では、自分の至らなさ、できないことも率直に開示していくことで、相手にも「この人には何でも話して大丈夫そうだな」という安心感のある場をつくることを意識しています。
このことは、私の「自己開示」というコミュニケーションへの意味づけが、変化した結果といえると思います。
コミュニケーションの体験が、コミュニケーションの意味づけを変える
コーチ・エィが提供している「3分間コーチ」というワークショップがあります。このワークショップの中では、20回以上1対1で対話する場が用意され、「対話の体験」をするワークショップです。
このワークショップに参加された方に話をうかがうと、
「毎日短い時間でも、部下のための時間をとるようになった」
「これまでは伝えるばかりだったが、双方向のコミュニケーションをするようになった」
などの声が多く聞かれます。
参加者に、なぜそのような行動をとるようになったかとさらに聞いていくと、1対1で、自分の考えを聞いてもらい、また相手の考えを聞く「体験」が、とてもよかったのだとおっしゃいます。
立ち止まって、改めてその場で考え、言葉にしたことを、しっかりと相手が受け止めてくれることの嬉しさ。
自分にはなかった相手の考えを聞くことによる刺激。
参加した人たちが「これをぜひ自分の部下ともやってみたい」と思うのは、ワークショップでたくさんのコミュニケーションを交わし、その体験によって、これまで自分がもっていたコミュニケーションに対する意味づけが変わったからだと考えられます。
「コミュニケーションを実際に体験すること」が、まさにコミュニケーションを変えていきます。
「コミュニケーションを通して、コミュニケーションを学ぶ」手法のことを、コミュニカティブ・アプローチと言います。
コミュニケーションそのものの体験が、これほどパワフルにコミュニケーションに変化をもたらすとしたら。
私たちコーチの与えている影響はどれほどのものか、と背筋が伸びる思いです。
(日本コーチ協会発行のメールマガジン『JCAコーチングニュース』より、許可を得て転載)
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。