Easterlies

Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。


リフレクティブ・インアクション(Reflective Inaction) ~あえて"直ぐに決断しない"ことの意味~

リフレクティブ・インアクション(Reflective Inaction) ~あえて
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イギリスに拠点を置くリーダーシップの専門家機関 Institute of Leadershipは、リーダーシップを5つのカテゴリー、49の側面から捉えています。その中には、時代の変化とともに新たに求められるようになってきた「創造性」や「多様性の尊重」などが含まれる一方で、普遍的にリーダーシップの重要な側面として挙げられてきたものもあります。

その一つが「意思決定」です。

今月は、リーダーの意思決定に焦点をあて、今の時代のリーダーに求められる意思決定のあり方について考えます。

複雑な環境における意思決定

リーダーはどのように意思決定をすべきなのか。そのあり方は時代と環境に応じて変化している。

デイビッド・J・スノーデンとメアリー・E・ブーンは、リーダーの意思決定のフレームワークの中で、世界をシンプル(Simple)、煩雑(Complicated)、複雑(Complex)、混沌(Chaotic)の4つに分類し、それぞれの環境で求められるリーダーの意思決定の特徴を示している。

シンプルな世界、煩雑な世界には、正解があり、分析を通じて因果関係や解決策を見出すことができる。そのためリーダーは事実に基づき、状況を整理・分析したうえで判断することが強調される。

一方で、複雑な世界、混沌の世界は、変動と予測不可能性に満ちており、因果関係を見い出すことができないという特徴がある。だからこそ、リーダーは、一つの正解を求めず、今この瞬間に、効果的な判断が何かを探究することが重要視される。(※1)

複雑で予測不能な時代と言われて久しい現代のリーダーは、意思決定に際して、後者のアプローチを心に留めておかねばならないのかもしれない。

リフレクティブ・インアクション(Reflective Inaction)という選択

先のデイビッド・J・スノーデンとメアリー・E・ブーンは、複雑または混沌の世界において、リーダーは過去の知見から答えを導き出すのではなく、目の前の現実を見つめ、そこにパターンが生じてくるのを待つことが必要だ、と述べている。つまり、現代のリーダーは、状況をコントロールしたくなる欲求に抗いながら、何が起きているかを観察し、現れてきた選択肢をもとに、今その時に効果的な策を実行する、ということが求められているということだ。

この「待つ」という行為は、"リフレクティブ・インアクション(内省を伴った積極的な非行動)"とも表現される。

哲学者のG. スペンサー=ブラウンが提唱したこの概念は、物事に即座に反応するのではなく、冷静かつ戦略的に物事の核心を理解するための間を設けることで、意図的に情報や状況に対する深い理解を築くアプローチを指す。(※2)

つまり、「行動を起こさないこと(非行動)をあえて選択する」のである。

リーダーの意思決定について考える際、我々はつい決断の内容やその結果に着目しがちである。しかし、もっと目を向けるべきなのは、決断に行きつくまでのプロセスなのかもしれない。マッキンゼーの研究によれば、一呼吸置くことで脳が広い視点を得て、状況を把握し、先を予測し優先順位をつけることができるようになるという。(※3)

このリフレクティブ・インアクションという「間」は、現代のリーダーにとって、現実に即した新たな思考と行動の方向性を見出す機会となり、より適切な意思決定につながるといえるのではないだろうか。

今だからこそ求められる「立ち止まる」ということ

昨年、ChatGPTに代表される生成AIが世界を席巻し、現在進行形で未知の可能性が広がりを見せている。

「AIがオリジナルを生成する」という飛躍的な発展をもたらしたのは、AIが与えられたデータの中からその特徴やパターン自体を見出し、それに則って新たなデータを生成できるようになったことが、重要な転換点のひとつだったと言われている。

この「パターンを見出す」という力は、現代社会において重要度が増している。

既知のルールややり方で対応・決断できる状況には限界があり、私たちは、今すでにその限界値を超えた世界に生きている。もちろん自らの経験や知見から、スピーディーに判断することが大切な場面もあるが、私たちは今、目の前の現実に基づいて、見出された情報やパターンに即して、一つひとつの方針、アクションを決定していく必要がある。

まずは、自身の経験や知見を一度脇に置いて、一度立ち止まって考えてみることから始めてみるのはどうだろうか。

  • 意思決定のプロセスがパターン化しているとしたら、それはどんなパターンですか?
  • 最後に立ち止まって考えたのはいつですか?それは何についてですか?
  • 物事の対応・決断の際に何かを脇に置くとしたら、何を脇に置きたいですか?
  • すぐに結論を出すことをやめてみたら、あなたとあなたの組織にはどんな変化が起こりそうですか?

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【参考文献】
※1 Harvard Business Review. (2007). "A Leader's Framework for Decision Making".
※2 George Spencer-Brown. (1969). ”Laws of Form”. Allen & Unwin.
※3 McKinsey & Company. (2020). “Decision making in uncertain times”.

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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