Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。
つながりたいのに、つながれない ~ 孤独を抱える現代の組織とリーダーのあり方~
2024年11月20日
近年「孤独」が社会問題として取り上げられることが増えました。孤独は、心臓病や脳卒中、ウイルス感染などのリスクを高めることが明らかになっており、その影響は「1日15本の喫煙に相当する」と言われています(※1)。
孤独は個人の問題だと思われがちですが、実は「伝染病」と言っても過言ではないほど、組織全体にも大きな影響を及ぼします。孤独を感じる労働者は他者と距離を置く傾向があり、その結果、チーム全体で協力をする意欲が低下するリスクがあると言われています(※2)。孤独のストレスを原因とした欠勤は、今やアメリカ企業に年間1,540億ドルの損失を与えるまでになっています(※3)。
「孤独」の問題は今、組織を率いるリーダーにとって見過ごせないテーマとなっている一方で、依然として「見えづらい問題」のままです。今回は、そもそも孤独とは何か、そしてリーダーはこの問題とどう向き合えるのかを考察します。
「孤独」とは
孤独は「自分が欲する社会とのつながりが欠けているという主観的な感情」と定義される(※2)。客観的に見て周囲に多くの人がいるかどうかではなく、主観的に満足できる質の高い関係が築けているかどうかが孤独感に影響する。
それでは、どのような時に人は孤独を感じるのか。
孤独は3つの領域に分けられると言われている(※2)。①親しい友人やパートナーが欠けている「親密圏の孤独」、②良質な社会的つながりが欠けている「関係圏の孤独」、③目的意識や関心を共有できるつながりが欠けている「集団圏の孤独」だ。どれかにおいて主観的に満足できる関係が築ければよいのではなく、どれが欠けても人は孤独感を抱くことが分かっている。
また、周囲の文化規範から自分の行動がそれていると感じるとき、たとえば、友達をつくる「べき」なのにつくれない、交流する「べき」なのにできないときに、孤独感は増すと言われている(※2)。
そもそも、私たちはなぜ人とのつながりを欲するのだろうか。
スティーブ・コール博士によると「人間は生物学的に、人と一緒にいるほうが心地よいだけでなく、人と一緒にいることが普通だと感じるようにできている」のだという(※2)。人類の祖先たちが、狩猟採集生活の中で他者とつながり、協力し合うことで生き抜いてきたからだ。そして、人とのつながりは、単なる喜びや充足感をもたらすだけではなく、身体のストレス反応を軽減し、生産性を高め、ストレスの多い状況に対処するための防波堤となりうることがわかっている。
なぜ今、つながりたいのに、つながれなくなっているのか
私たちは本能的につながりを欲しているにもかかわらず、なぜ今多くの人が孤独を感じているのだろうか。
先述の通り、人類の祖先は狩猟採集生活の中で、生存を確保するために、集団に属し信頼できる仲間と協力して生活する必要があった。一方で、危険を回避するため、敵になりうるかもしれない見知らぬ他者を警戒し避けて生きる必要があった。この時代の名残で、今もなお人間の中には「安全を守るために、人とつながりたい」という本能と「安全を守るために、見知らぬ人は警戒し避けておきたい」という相反する本能が共存しており、この2つの本能の矛盾が孤独感を生んでいる、とヴィヴェック・H・マーシー氏は指摘する(※2)。つまり、人は人とつながることを強く求めているにもかかわらず「この人は安全だろうか」「この人は味方だろうか」と警戒する本能が同時に働いてしまい「人とつながりたい」本能がなかなか満たされず、孤独感を生んでいるという指摘だ。
現代は多様な価値観や文化に触れることが避けられない時代である。このことは、自分にとって未知で異質なものと直面する機会が増えているということを意味する。つまり現代は「見知らぬ人は警戒し避けておきたい」という人間の本能が、一層強く反応してしまう時代であるともいえるのではないだろうか。
そして警戒心が働いた結果「未知や異質なものと向き合うよりも、一人でいた方が安全だ」と判断し、人とつながることから遠ざかってしまっているのかもしれない。
組織のリーダーは、どのように「孤独」の問題と向き合えるか
このような時代の変化の中、企業組織の中では今何が起こっているだろうか。
コロナ禍を経た自律分散型の働き方の導入やデジタル化により、近年、リモートワークをする人が増えたり、オフィスにいても全員がコンピュータを見つめて作業していたりすることが常態化している。そのことにより、職場内での個人主義化が進み、孤独感が増していることが指摘されている(※4)。また、元々企業組織においては「成果主義」が浸透しており「自分でなんとかすることこそ有能さである」という価値観が優勢になりがちで、人を頼ったり、弱みを見せたりすることのハードルが高い傾向がある(※5)。
組織内の個人主義化・成果主義化が進んだ結果、近年の組織には、ますます孤独感がはびこる環境が整っているということもできるだろう。組織のリーダーは、この「伝染病」たる孤独の問題をどのように食い止めることができるだろうか。
社会的レジリエンスの向上に取り組んでいたカシオポ夫妻によると「親切心や寛大さを示す行動が、孤独感を軽減するもっとも強力な行為のひとつである」という(※2)。人間は、他者から善意を受け取ると、相手に対してお返ししたいと思う心理的傾向を持っている(互酬性)。そのため、一度親切心に満ちた関わりをされると、相手に感謝し、思いやりを返そうとする循環が生まれる。この循環が増えれば、組織全体が信頼や協力に満ちたものになっていくという。
組織において信頼や協力を育んでいくために、リーダーが自ら始められることは何だろうか。
たとえば、誰かとすれ違ったときに、あたたかい笑顔を向けること。誰かが失敗したときに、励ましや心休まるコメントを送ること。また、自分自身が困っているときに、周囲のメンバーに意見を求めてみることも、相手が「自分は信頼されている」と感じられることに役立つかもしれない。これらのことは、リーダーに限らず組織のメンバーが誰からでも始められることであるが、リーダーであるあなたがまず親切心に満ちた行動をとることで、組織全体に大きな影響を及ぼすことができる可能性がある。
たしかに孤独は「伝染病」のようなものだが「親切心」は孤独に対する「集団免疫」のようなものだといえるかもしれない。
Q:これまで、あなたは組織の中でどのように「親切心」を示してきましたか。
そのことはあなたの周囲のメンバーに、どのような影響を与えていたでしょうか。
Q:組織の中での安心感をより創り出すために、あなたはリーダーとしてどのように働きかけることができますか。
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【参考文献】
※1 Shawn Achor, Gabriella Rosen Kellerman, Andrew Reece, and Alexi Robichaux. America’s Loneliest Workers, According to Research. Harvard Business Review, March 19, 2018
※2 Vivek H.Murthy. (2020). Together: The Healing Power of Human Connection in a Sometimes
Lonely World. (ヴィヴェック・H・マーシー. 樋口武志(訳)(2023). 孤独の本質 つながりの力~見過ごされてきた「健康課題」を解き明かす. 英治出版)
※3 Dan Pontefract. Loneliness is an Epidemic: The Cure is Relationships. Keynote address presented at the ATD24, May 21, 2024, New Orleans, US.
※4 Vivek H.Murthy. Work and the Loneliness Epidemic. Harvard Business Review, September 26, 2017
※5 Vivek H.Murthy. Another Workplace Crisis: Loneliness. HBR IdeaCast, April 21, 2020
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