Easterlies

Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。


感情的知能指数(EQ)の高いリーダーとは

感情的知能指数(EQ)の高いリーダーとは
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1980年代以降の工業経済社会から情報経済社会への構造変化は、組織やマネジメントのあり方にも大きな変革を迫りました。その変化に伴い、組織における人に対する見方も大きく変化してきています。かつて人は、機械の部品のように代替可能な労働力とみなされていました。しかし現在は、意思をもつ、行動する存在として捉えられるようになっています。つまり、技術的スキルや知識だけでなく、人のあり方や内面にも焦点が当たるようになり、感情的知能指数(Emotional Intelligence Quotient: EQ)の重要性がますます高まっているといえます。今回は、リーダーとして真にEQを高め、効果的なリーダーシップを発揮していくとはどういうことか、探求していきます。

感情的知能指数(Emotional Intelligence Quotient: EQ)とは何か?

1990年、心理学者であるピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏は、感情的知能指数(EQ)に関する論文を発表した。その中で、EQは「自分の感情を理解し管理する能力、他者の感情を理解し共感する能力」とされている。その後、心理学者のダニエル・ゴールマン氏による世界的なベストセラー『EQ こころの知能指数』によって、EQは広く世に知れ渡った。ゴールマン氏は、この著書の中で、EQを「自己認識」「自己管理」「社会的認識」「対人関係管理」という4つの主な要素に分類している(※1)。これらは、リーダーが効果的にチームを導き、信頼関係を築き、ストレスの多い状況でも冷静に対処するために重要な要素と言われる。実際に、ハーバード大学の調査団体(NATIONAL BUREAU OF ECONOMIC RESEARCH: NBER)による研究では、チームとしての成功を予測するうえでは、EQは一般的なIQ(知能指数)以上に有効だったという結論が示された(※2)。

「EQが高い人=いい人」という誤解

しかし、ゴールマン氏は、世の中にはEQに対する根強い誤解があると警鐘を鳴らす。ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、「拙著『EQ こころの知能指数』を出版して以来25年間、この概念について最も根強く誤解されていることのひとつは、「Emotional Intelligence=いい人」だということだ」というのだ(※3)。それはEQの2つの能力のうち、「他者の感情を理解し共感する能力」が強調されすぎた結果といえるかもしれない。

「EQの高い人=いい人」という誤解が広まると、どのような問題が起こり得るのだろうか?

同記事内の例によると、ある会社のCEOは、他者の感情を理解することを重要視するあまり、対立を避けて「いい人」を演じ続けていた。その結果、組織内にさぼり癖のあるメンバーを増やしてしまい、やる気のある他の部下から文句を言われるようになったという。相手の感情を理解しようとするあまり、自分の感情を抑え、言うべきことを言わずにいたことが招いた結果である。

「いい人」を演じることの代償

組織のリーダーが「いい人」を演じ、周囲の顔色を窺い、自分の本音を伝えることを避けていると、どのような影響があるだろうか。周囲のメンバーは自分の行動やパフォーマンスに対するフィードバックを受ける機会が減り、改善や成長の意欲が薄れ、結果的に仕事へのアカウンタビリティが希薄化してしまう可能性があるだろう。

人が「いい人」でいたいと思う背景には、誰しもが本能的に持っている「嫌われたくない」という気持ちがある。社会的な生き物である我々は、孤立しては生きていけないからだ。しかし、先ほどの例からも分かるように、マネジメントやリーダーシップの領域では、「いい人」を演じ過ぎると、組織に対して意図していない影響を与えかねない。

自身の欲求・感情・価値観に目を向ける

改めて、EQの定義を確認しよう。EQは2つの能力に分解できる。それは「自分の感情を理解し管理する能力」と「他者の感情を理解し共感する能力」である。そして「EQが高い」ことは、そのどちらかが高いという意味ではない。この両者を兼ね備えている必要があるのだ。

つまり、EQの高いリーダーは、自分の感情と他者の感情のバランスを取ることが求められる。前述のCEOは「他者の感情を理解する」ことを重要視しすぎるあまり、他者の顔色を窺うことにばかり意識が向いていた。しかし、彼は「自分の感情を理解すること」、つまり、自分自身の中に「いい人でありたい」「嫌われたくない」という欲求があること、そしてその背景に「こんなことを言ったらどう思われるだろう」「自分の立場がなくなるかもしれない」という不安の感情があることを認識できていただろうか。

周囲の人の感情を尊重することと、自分自身の感情を抑圧することは同義ではない。自分自身の欲求や感情、価値観、信念を認識し、必要に応じて厳しいフィードバックを伝える等、自分の信念に基づいた行動をとれるリーダーこそ、真にEQの高いリーダーといえる。他者の感情に配慮しながらも、自分自身の感情や信念とのバランスを保つことで、信頼されるリーダーシップを発揮することができるのだろう。

  • あなたは何(誰)のために、どのようなリーダーでありたいと思っていますか?
  • そのために、あなたは何に向き合う必要がありますか?

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【参考文献】
※1 ダニエル・ゴールマン (著)、 土屋 京子 (翻訳)、『EQ: こころの知能指数』、講談社、1996年
※2 Ben Weidmann and David J. Deming, “TEAM PLAYERS: HOW SOCIAL SKILLS IMPROVE GROUP PERFORMANCE”, NATIONAL BUREAU OF ECONOMIC RESEARCH, 2020
※3 Daniel Goleman, “What People (Still) Get Wrong About Emotional Intelligence”, Harvard Business Review, December 22, 2020

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