Easterlies

Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。


イノベーションを生む「知的多様性」と「知的対立」の力

イノベーションを生む「知的多様性」と「知的対立」の力
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「多くのリーダーが避けては通れない永遠の課題──。それは、どのようにして持続的にイノベーションを起こし続ける組織を構築するか、という問題だ。」

2003年から2011年までのGoogleの驚異的な成功を裏で支えた、エンジニアリングのシニアバイスプレジデントであるビル・コフラン氏はそう語ります。

イノベーションを起こす組織には、異なる専門知識、経験、または視点を持つ人々が集まるだけでなく、彼らが互いに意見をぶつけ合うことで、新しく有益なアイディアを生み出している、という特徴があります。

ハーバード・ビジネス・スクール教授のリンダ・A・ヒル氏は、このような状態を「知的多様性」と「知的対立」という表現を使って説明します(※1)。

今月は、この「知的多様性」と「知的対立」に焦点を当て、組織にイノベーションを起こすヒントについて考えます。

知的多様性のある組織とは

知的多様性とは何か。

近年、多様性の在り方として、「デモグラフィック型ダイバーシティ(Biodemographic-related diversity, 日本語ではデモグラフィー型と呼ばれることもある)」と「タスク型ダイバーシティ(Task-related diversity)」という言葉を耳にするようになった。

「デモグラフィック型ダイバーシティ(Biodemographic-related diversity)」とは、性別・国籍・年齢など、表面的な属性の多様性のことをいう。一方、 タスク型ダイバーシティ(Task-related diversity)とは、日本語で「深層的ダイバーシティ」とも呼ばれ、個人の能力や知識、過去の経験や価値観など、目に見えない内面の多様性の総体のことを指す。

日本で組織における「多様性(ダイバーシティ)」が語られるとき、とかく「デモグラフィック型ダイバーシティ(Biodemographic-related diversity)」に注目が集まりがちである。

しかし、セントトーマス大学教授のスジン・K・ホーウィッツ氏らが実施した研究では、興味深い結果が見られた。デモグラフィック型ダイバーシティのある組織と、タスク型ダイバーシティのある組織のパフォーマンスを比較した結果、①意思決定力、②創造性とイノベーション、③問題解決力という3つの構成要素において、タスク型ダイバーシティがある組織の場合のみ、パフォーマンスと正の相関が見られたのである(※2)。

デモグラフィック型ダイバーシティにはパフォーマンスとの相関が見られず、むしろ属性上の違いゆえに、属性でメンバーを「分類」する心理学的作用が働き、組織内にグループができやすい。その結果、グループ間での軋轢が生まれ、組織全体のコミュニケーションが滞り、パフォーマンスの停滞を生むことに繋がることもあるという(社会分類理論/Social Categorization Theory)。

もちろん、属性上の違いが価値観などの内面の多様性の源になっている可能性は否めない。しかし、属性上の違いを単なる「違い」に留めるのではなく、知的多様性に昇華させていくことが必要だということになろう。

そこに求められるのが、互いの価値観や経験から生み出されるアイディアをぶつけあう「知的対立」なのではないだろうか。

「人それぞれだから」と線を引いて、知的対立を避けている

日本における知的多様性と知的対立について、心に留めておきたい指摘がある。

「日本では、みんなが自らの思いと異なる意見を耳にしても、『人それぞれだから』と、意見を言うことを避けている──。」

これは、人間関係論やネットワーク論を専門とする社会学者、石田光規氏の言葉である(※3)。

一見、個を尊重し、多様性を育むために使われているように思える「人それぞれ」という言葉。

「あなたの価値観を受け入れます」とやさしい顔をしているように見えて、実は「これ以上、あなたの価値観に立入りませんよ」と、歩み寄りや議論の拒否を示す、冷たい側面も持ち合わせている言葉だと石田氏は指摘する。

その背景には、日本における「個の多様性を尊重する」という概念が、フランス市民のように革命を通じて体験から学びとった価値観ではなく、あくまでも海外から「輸入」されてきたものであることが一因とも考えられている。

日本では「個の多様性を尊重しなければならない」という言葉だけが独り歩きし、「人それぞれ」と距離を置くことが相手を尊重することだという考え方が定着した可能性がある。

たしかに「誰かの行動や思考、価値観には立ち入らない」という多様性の守り方は、「知的多様性」につながるように見える。

しかし一方で「多様性」という言葉が免罪符になり、新たなアイディアを生み出すような知的対立は、むしろ敬遠される傾向にあると言えないだろうか。

"知的対立"を起こし続けることのできる組織へ

はじめから全てを分かり合えなくとも、自分の立場を表現してみること。

「人それぞれ」に逃げずに、相手の経験や価値観にあえて切り込んでみること。

ときには意見が受け入れられずに失望したり、相手を理解できずに怒りを覚えることもあるかもしれない。

しかし、一つひとつの対立を乗り越えながら、それを歓迎し起こし続けることで、それぞれの考えや経験が積極的に持ち込まれる知的多様性にあふれた環境が創られていくはずだ。

きっとそこには、一人で考えているだけでは得られなかった新しい発見やアイディアも生まれているだろう。

組織に知的対立を起こし、知的多様性を育み、持続的なイノベーションを実現するために、私たちは何から始められるだろうか。

  • 今あなたの組織は、知的多様性のある組織になっていますか?
  • 最近、周囲の人の経験や価値観についてどんな新しい発見がありましたか?それをどう活かしていますか?
  • イノベーションを起こすために、あなたはチームメンバーの間に、どのように知的対立を促していきますか?

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【参考文献】
※1 Linda A. Hill, Greg Brandeau, Emily Truelove, and Kent Lineback, "Collective Genius", Harvard Business Review, June 2014
※2 Sujin K. Horwitz and Irwin B. HorwitzView all authors and affiliations, "The Effects of Team Diversity on Team Outcomes: A Meta-Analytic Review of Team Demography", Volume 33, Issue 6, December 2007
※3 石田 光規、「多様性のある社会」が、私たちを孤独にする?、うにくえ、2022年4月7日

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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