さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。
横浜DeNAベイスターズ
1軍バッテリーコーチ 藤田和男氏
第1章 人は、振り返りでしか成長できない
2020年06月08日
※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
横浜DeNAベイスターズのバッテリーコーチを務める藤田氏は、社会人野球の経験はあるものの、そのキャリアの中にプロ野球選手としての経験はありません。また、野球とは全く関係のない社会人生活を送った時期もあるなど、プロ野球界において異色のキャリアをもつコーチとして、就任当初に注目を集めました。Hello, Coaching! では、社会人経験ももつ藤田氏だからこそ見えてくる「コーチング」があるのではないかと考え、藤田氏自身のコーチとしての心がけなどについてお話を伺いました。
第1章 | 人は、振り返りでしか成長できない |
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第2章 | 社会性をもつことの大切さ |
本記事は2020年3月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
漠然と考えていた指導者への道
まず、横浜DeNAベイスターズでの藤田さんのキャリアを教えてください。
藤田 横浜DeNAベイスターズは2011年12月に誕生した球団で、私は2012年からファーム(2軍)のブルペンキャッチャーとして契約をいただきました。2013年から2年間はファームの用具担当を務め、2015年にはファームのバッテリーコーチ補佐兼育成担当を務めました。2017年にファームのバッテリーコーチ、2018年に1軍のブルペン担当バッテリーコーチになり、現在は1軍のバッテリーコーチをしています。
今治西高校から同志社大学を経て日本生命硬式野球部で9年間プレー後、 2012年から横浜DeNAベイスターズにブルペン捕手として契約。打撃投手も務めるなど3年間裏方でチームを支える。2015年から横浜DeNAベイスターズのファームバッテリーコーチ補佐兼育成担当に就任し、2017年からは同球団ファームバッテリーコーチ。2018年からは同球団一軍ブルペン担当バッテリーコーチをつとめ、2020年からは一軍バッテリーコーチに就任。
株式会社横浜DeNAベイスターズ
もともと野球の指導者になることを志していらしたのでしょうか。
藤田 大学を卒業後、日本生命に入社して実業団で野球をしていたのですが、現役の後半は、いずれは所属チームでコーチになり、監督までやることもイメージしていましたね。ただ、DeNAに入団した当時は、とにかく野球に関わる仕事をしたいという思いが一番だったので、最初からDeNAでの指導者を目指すことを考えていたわけではありません。
だんだん意識が変わっていったということですか。
藤田 そうですね。DeNA入団当時はブルペンキャッチャーでしたので、試合後にバッテリーコーチが選手と話している内容を聞く機会がよくありました。当時はどちらかというと選手目線で、プロの世界のコーチは選手とどんな話をするんだろうという関心でコーチの話を聞いていましたね。内容以上に、話し方や言葉の使い方により意識が向いていました。こういう話し方をされたら選手はどう思うだろうとか、こういう言い方なら選手もわかりやすいだろうな、とか。そこから、コーチとしての指導の仕方を学んだ部分も多いと思います。
入団2年目で用具担当に任命された際、ファームの選手を育成するための育成会議に僕も参加させていただきました。監督・コーチや球団幹部しか入れない育成会議で話を聞いていくうちに、プロ野球選手や若手選手を育てていくことのやりがいや楽しさを感じ、どう育成するのかということそのものにも、すごく興味を持つようになりました。
毎日1時間をかけて振り返る
コーチとしての成長のために、日常的にはどのような心がけをされているでしょうか。
藤田 コーチになってから絶対欠かさないことの一つが振り返りです。試合や練習があった日に「自分の話し方は果たして本当に効果的だっただろうか」とか「僕はこう判断したが、正しかったのだろうか」とか、「監督はこう考え、選手はそのことについてこう考えたが、僕はこう見た。いったいどれが正しかったのだろうか」といったことを振り返り、それをノートに記録します。
2013年に球団が主催するチームビルディングに関する研修に参加させてもらったのですが、そこでの「人は忘れる生き物だ。だから振り返りでしか成長できない」という講師の言葉が強く印象に残っています。選手の成長のためには、コーチとしての自分自身も成長し続けなければならない。そのためには、振り返りが必要なんだと思ったんです。そのときから、毎日1時間くらいかけて、欠かさず振り返りを行っています。
振り返りを続けていく中で、実際にどんなときに成長を実感されますか。
藤田 日々わからないことばかりですが、一度振り返りをしていれば、次に同じことが起きた時にすぐ対応することができます。そのおかげで同じ失敗をしなくなるという体験はこれまで何度もありました。それだけでも成長を感じることができています。
一年で6冊になる「藤田ノート」
ノートに記録するとのことですが、1年で何冊くらい使うのでしょうか。
藤田 1軍のコーチになってからは、年間少なくとも6冊は使います。バッグの中には常に、最新のノートだけでなく過去2冊分も入れて持ち歩きます。キャンプでどのような体の使い方をしてどのような練習をしたかなど、すべてメモを取っているので、シーズン中に選手の調子がおかしくなってきたときに振り返る材料にもなります。
藤田さんが思い描く理想のコーチ像に近づくために、意識されていることはどんなことですか。
藤田 選手と信頼関係を築くことがとても大切だと思うので、心がけているのは、選手から見て話しやすい存在であることでしょうか。コーチと話して選手がふさぎ込んでしまったら、選手のためにならない。ですから、いつでもどんな些細なことでも相談してもらえるような存在でいられるよう心がけています。そのために、とにかく自分から話しかけ、対話するようにしています。僕が担当する守備以外の練習も手伝いますし、選手が野球以外で興味をもっていることにも同じように興味をもち、自分が知らない世界のことは調べたりして話が広がるようにしています。本で調べたり、学んだりしたこともノートに書いて、選手と同じ理解のもとで会話しています。そうすることで、選手もより心を開いてくれるようになるのではないかと考えるからです。
信頼関係の醸成とは別に、選手の能力向上に直接つながるような取り組みとしてされていることはどのようなことがありますか。
藤田 僕はとにかく、選手の練習している姿を動画で撮影し、何回もくり返しその映像を見て、分析してから接するようにしています。プールの跳び込み選手や体操選手は、1本の練習をするのに、何度も映像を確認するなど、たくさん時間をかけていますよね。野球は、体で覚えていく部分も大事なので、時間をかけるというよりは、流しで練習することが多いんです。そういう練習も大事にしながら、一方で、今、選手自身がどういう状態なのかを確認し、意識しながら進めていくことができるように、動画を活用しています。
データ活用が進んでも変わらないコーチの役割
昨今、プロ野球ではデータアナリストの採用など、データ活用が進んできていますが、そのような流れの中でコーチの役割はどのように変化していくと思いますか。
藤田 データというのは過去のものです。もちろん根拠としてはとても大事ですが、たとえばキャッチャーが次の配球をどうしようかと考える場面では、過去のデータは過去のものに過ぎず、その場面で実際にどうするかは本人が判断を研ぎ澄ませなければならない。そのときにコーチの関わりが必要になってきます。ベンチに帰ってきたときにパッと一言声をかけられるような、そんな準備を常にしています。
(次章に続く)
インタビュー実施日: 2020年3月6日
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部
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