プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


「コーチ」とは何者か
リーフラス株式会社
「アルティスタ浅間」クラブアドバイザー 梅山修氏

第2章 「コーチング」は、技術を教えるためのものではない

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第2章 「コーチング」は、技術を教えるためのものではない
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プロゴルファー中山綾香さんのコーチを務める梅山修さんに、コーチ側はどのようなスタンスで選手と関わっているかについてお話を伺いました。梅山さんは、もともとプロのサッカー選手であり、現在はサッカーの指導者として活躍していらっしゃいます。コーチングを学んだあと、サッカー以外のさまざまな分野の方を対象にコーチングを提供されています。

参考:中山綾香さんに「メンタルコーチ」と「技術コーチ」の二人のコーチとの関わりについてお聞きしたインタビュー『技術だけでは強くなれない』プロゴルファー 中山綾香氏(2020年8月掲載)

第1章 コーチは選手にとっての「居場所」である
第2章 「コーチング」は、技術を教えるためのものではない

本記事は2020年8月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第2章 「コーチング」は、技術を教えるためのものではない

 梅山さんは「メンタルコーチ」や「技術コーチ」といった分け方はしていないとのことですが、他競技の選手の話を聞くときと、サッカー選手の指導をするときの関わりにおいて違うところはないのでしょうか。

梅山 サッカーの指導も、基本的には選手に質問します。「いま、本当はどうしたかったのか?」「目的は?」「ほかに方法は?」「そのために君はどんな準備ができる?」など、双方向のコミュニケーションをとりながら、質問と実行を繰り返して実現に向けて課題を解決していくのです。とはいえ、プロの現場や重要な試合など、その場ですぐに解決しなければならない課題があるときは、具体的に指示することもあります。今すぐに結果を出す必要があるか、それとも長期的な視点での成長にフォーカスするかで、ティーチングとコーチングを使い分けます。

僕がコーチングに興味をもったきっかけは、技術もメンタルも、そしてビジネスも、「双方向のコミュニケーションをとりながら目的に向かっていくプロセスは同じ」だと気づいたからです。

コーチングを学んで印象的だったのは、コーチングする際に「専門知識は必要ない」ということでした。そのことにはすごく勇気づけられました。競技、あるいは職業などに関係なく適用できることがすごく興味深いし、コーチングは万能だと思うところです(笑)

 サッカーの場合など、逆に技術がわかるからこその難しさがあったりしますか。

梅山 それを感じたことはないかもしれません。逆に、僕がやってほしいと思っていること、または正解があるケースで、選手がそれと違うことをした場合に「どうしてそうしたんだろう?」と興味がわきます。

その時も、本人の意図を聞いたうえで、「こうするのはどう?」と提案はするかもしれませんね。その辺は選手の技術のレベルや時期、状態などによって変わると思います。サッカーの場合、「ゴールを決める、ゴールを守る」という不変的な目的に向かって、クラブの哲学やチームの戦術といった規律は重要ですが、僕の個人的なアイデアとのギャップは大歓迎です。

 タイミングによって関わり方が大きく変わるということなんですね。

梅山 そう思います。タイミングと選手のそのときの能力によって、質問するばかりではなく、指示や命令もあるかもしれません。ビジネスも同じですよね。全ては目的に向けてです。

いい指導者とは「存在を認めてくれる人」

 梅山さんの考える「いい指導者」についても教えてください。

梅山 指導を受ける立場だった時に信頼していたのは「存在を認めてくれる人」たちでした。信頼につながるのは技術や知識ではありません。FC東京でお世話になった長澤コーチとは、具体的なプレーの話をした記憶がないんですよね(※)。「どうだ?」という声がけ一つで「気にかけてるよ」ということが伝わってくる。実感としては特に、試合に出られない時期やけがでリハビリしている時など、迷いや不安を抱えているとき気にかけてくれる人がいるだけでも、それに応えたいというプラスアルファなエネルギーが生まれます。

そういう意味で、指導者として関わる際には、コーチングスキル云々というより、まずは「存在を認める」ということがスタート地点になると思います。その上に信頼関係が築かれれば、あとは選手自ら成長していくものなのかもしれません。

ですから、僕の中ではコーチは「技術を教えてくれる人」ではないんですよね。「コーチング」とは、技術を教えるためのものではなく、内なる動機に気づきを提供すること。そして、実際に行動につなげていくために必要なコミュニケーションスキルのことなのだと思います。もちろん僕自身が学び続けることにゴールはないのですが。

コーチとの関わりは「強さ」にどう影響するか

 アスリートの「強さ」にコーチとの信頼関係はどう影響するのでしょうか。

梅山 選手は「個人事業主」のようなものです。競技性の高いスポーツの場合、成果が出せなければ、自分だけチームから切り離されていきます。プロであれば「来年は契約なし」ということになるし、アマチュアでも試合に出られなくなる。そういう意味で、団体競技だろうと個人競技だろうと選手は孤独です。もちろん監督も孤独だと思います。たくさんの人に囲まれていたとしても孤独を感じるかもしれません。だからこそ、心から信頼できて、何でも話せる人、そして話すことで自分の気づきを促してくれる人がそばにいるのは大きい。「失敗しても抱きしめてくれる人がいる」と思えば、思い切ってプレーできますよね。

 監督が孤独だという話はよく耳にしますが、選手も孤独なんですね。

梅山 団体競技であっても、最終的な評価は個人個人ですからね。中山さんのように個人競技の選手はなおさらではないかと思います。そこに寄り添って、質問を中心としたコミュニケーションによって、視点を変えたり、視野を広げたり、狭くしたりするなどコントロールする。そうすることで、本人も気づいていない本心やポテンシャルを発揮できるようガイドするコーチやコーチングというものの理解や活躍の場が広がるといいなと思っています。

中山さんはゴルファーであることの最終目的は「世界平和への貢献」だと話してくれました。僕もサッカーチームや選手はもちろん、中山さんやそのほかのビジネスマンへのコーチングを通して、社会に貢献していきたいと考えています。


※ 『コーチングはアート』「アルティスタ浅間」クラブアドバイザー 梅山修氏(2020年5月掲載)

インタビュー実施日: 2020年8月31日
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

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