プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


「コーチングはアート」
「アルティスタ浅間」クラブアドバイザー 梅山修氏

第2章 信頼を勝ち取る

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第2章 信頼を勝ち取る
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梅山氏は、Jリーグ選手として活躍した後、8年間、新潟市の市議会議員として行政に携わられ、現在は指導者として再びサッカーの世界で活躍されています。2017年にコーチ・エィの「コーチ・エィ アカデミア」を受講。現在は、アルティスタ浅間のクラブアドバイザーを務めるほか、“スポーツをデザインする”をミッションに掲げるリーフラス株式会社で活躍され、「コーチングのスキルはスポーツに限らずあらゆる領域で応用できる」とおっしゃいます。

今回のインタビューでは、梅山氏が異色のキャリアに果敢に挑んだ背景や、選手時代のコーチとの出会いなどについてお話を伺いました。

第1章 ふてくされていた自分を変えたコーチとの出会い
第2章 信頼を勝ち取る
第3章 サッカーで生きていく

本記事は2020年3月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

コーチングの学びが変えた指導

 梅山さんが「コーチング」を学ぼうと考えられたのはどうしてだったのでしょうか。

梅山 サッカー指導者のライセンス講習では、競技の専門性に加え、心理学やコーチング学を学ぶのですが、学んだスキルを活用して選手がみるみる変わっていく様子を目の当たりにし、サッカー以外でも応用できるのではないかと思うようになりました。たとえば、ミスが起きた時に「今どうしようと思ったの? 他の選択肢は? もう一回やってみよう」と、質問を通して本人の気づきを促していくという基本的なフローがあるのですが、これはサッカーに限った話ではないのではないかと感じていたんです。

もっと視野を広げて学びたいと考え始めた時期に、偶然にコーチングの本に出会いました。エクゼクティブ・コーチングについての本でしたが、その本で初めてスポーツ以外のコーチングの世界があることを知りました。もともと「サッカーのこと以外を知らずに、本当にいいサッカー指導ができるのか」という問いをもっていたこともあり、ビジネスの世界でのコーチングを学ぶことで、指導の厚みや深みが身につけられるのではないかと思い、学ぶことを決めました。

 「コーチング」を学ぶという体験は、梅山さんにとってどのような意味がありましたか。

梅山 感覚で知っていたこと、わかっていたことを体系立てて学んだことに大きな意味がありました。目の前の相手の状態の何を理解するべきなのか、目的までの道のりのどの辺を扱っているのかなどを整理して考えられるようになりました。

「指導やアドバイスは相手の心の中に入らなければ、指導する側の自己満足に過ぎない。まずは相手の価値観や、相手が何を必要としているかを知り、信頼関係を構築することが大切だ」という学びを得たことも大きく影響しています。

特に相手が大人の場合、それぞれに自分の意見や積み重ねてきた経験に基づく考え方がありますから、そこにどうアプローチするかはサッカー指導の枠を超えたコーチングの領域です。調子の上がらない選手に対し、そのことに直接触れずに、サッカー以外の話題を投げかけながらお互いの距離を縮めていく。相互に何でも話せる状態になれば、本題にもオープンなマインドで入っていくことができます。そういうアプローチ方法を知ったことは、実際に指導していく上で非常に効果的でした。

 「コーチ・エィ アカデミア」の学びを経ての、梅山さんご自身のコーチングスタイルに変化はありましたか。

梅山 学びを経てという意味では、練習時間以外での時間の使い方と接し方が変わったと思います。どんな練習をするかも大事ですが、それよりもまず選手個々の目的と目標、心と体のコンディションについて理解するために、よく質問するようになりました。そうすることで、相手について知ることができますし、彼らは話すことで自分自身の棚卸しになります。

練習を通じて、チームの方向を示しながら、選手一人ひとりが自信をもって個性を発揮できる環境と選択肢を用意し、選手が自らの責任で選ぶことができる状態をつくることを心がけています。

  

正論は、必ずしも作用するとは限らない

 ご自身のコーチングスタイルを構築するに至った、具体的なエピソードはありますか。

梅山 2018年に北海道の社会人サッカークラブの監督に就任した時のことです。もともとチームを指揮したいと思っていたので、トレーニングや戦術についてたくさんのアイデアや引き出しが私の中にありました。国内外でさまざまなサッカーのトレンドを学んだ経験もあったので、当初はそれらをシステマティックにはめれば、個々の能力をカバーできると考えていました。ところが、これがまったくうまくいかなかったんです。

選手たちに具体的な連携や動きを伝えて準備したにもかかわらず、開幕戦で同じリーグに昇格したばかりのチームに大苦戦しました。そんなとき、ある人から「それは、『新人監督あるある』だね。戦術に酔っているだけで選手を見ていない」と指摘されました。それまでは、正しいシステムに変えれば成果が出ると信じ切っていたので、その一言にハッとしましたね。それから、選手たちはどうしたいと思っているのかを聞き、彼らがもっとものびのびと動ける配置を考えるアプローチに変えました。すると、チームがチームとして機能し始めたんです。これは本当にリアルな実体験でした。

当初は一人ひとりのモチベーションも性格もよく知らないままに、経験と知識で突っ走っていたんですね。「これは正しいやり方です、さあどうぞ」と言っても、相手の行動は変わらないばかりか悪化することさえあります。正しいことを伝えるのは大事なことですが、ベースに信頼関係がなければ、相手の心には入っていきません。逆に、多少間違っていたとしても、相手が動き出せば、それは正解と言えるのではないでしょうか。自分がやりたいことにはめるのではなく、どうしたらチームとして機能するかを考えるようになりました。理想のチーム像やスタイル、プレーはあってもいいが、それは正解というわけではない。そういえばラグビーのエディ・ジョーンズさんも「コーチングはアートだ」って言ってましたね。

適度な距離感を保ちながら、一人ひとりとの距離を縮めていく

 コーチと選手の関わりが変わることで、チームにはどのような影響が見られますか。

梅山 相互のつながりが強くなると、チームとして一つになっていくと思います。2019年にラグビーで話題となった「ワンチーム」という言葉がありますが、まるで一つの生き物のような状態になりますね。足りない部分があるときに「誰かが埋めるだろう」ではなく、「自分が埋める」という選手の集団になります。そうなると、初めて結果を自分のものとして受け取ることができるようになるのです。一つひとつの勝ちも負けも、チーム全員で受け取る。そしてそのことで一体感のある本当のチームができていきます。

「この選手がミスしたなら、それは許せる」と周囲に思わせる選手が何人かいます。必ずしも技術の優れた選手ではなく、誠実さや勤勉さなど、人間的な部分で一目置かれている選手です。チームメイトからそういった信頼を勝ち取ったら、その選手の勝ちです。その意味で「このコーチが言うなら」「このコーチのために」と選手に思ってもらえるような関係を築くことができれば、チームとして真の勝利だなと思います。

2018年の地域リーグから全国リーグへの昇格をかけた試合では、北海道代表として実に数年ぶりの勝ち点を獲得しました。その大会中ずっとチームを見ていた地元関係者から素晴らしい一体感のあるチームだったと評価いただいたのは嬉しかったですね。そういうチームを作りたいと思っていましたから。

(次章に続く)

インタビュー実施日: 2020年3月12日
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

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