プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


技術だけでは強くなれない
プロゴルファー 中山綾香氏

第1章 気持ちで決めたワンショット

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第1章 気持ちで決めたワンショット
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2020年5月に掲載したサッカーコーチ 梅山修さんのインタビュー記事は、とても大きな反響がありました。今回は、その梅山さんがコーチをするプロゴルファー 中山綾香さんのインタビューをお届けします。メンタルの強さは、スポーツ選手の「強さ」の大きな要素。中山さんは現在、技術コーチと梅山さんの2人のコーチをつけています。選手から見たコーチの存在についてのお話を伺いました。

第1章 気持ちで決めたワンショット
第2章 アスリートにとっての「コーチ」の存在

本記事は2020年6月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

迷いを消して、結果につなげる

 競技者としての「強さ」にメンタルコーチの存在はどう影響するのでしょうか。

中山 「柔軟性」という「強さ」でしょうか。「どうしよう」と焦ってしまえば、何も考えられなくなり、自分の気持ちに振り回されてしまいます。でも、一歩引いて自分自身を客観的に見ることができれば、試合でピンチの局面になっても冷静に考えられますし、攻めなければいけない時にも迷わずに攻めにいくことができます。こういう瞬間に、メンタルコーチの価値を感じます。

コーチングを受け始めた頃の、今でも忘れられないシーンがあります。

当時、自信を失っていた私は、最初のセッションで「自信」をテーマにコーチと話をしました。そのセッション後、初めての試合でのことです。

4日目が終わり、最終ホールの最後から2打目のショット。予選通過できるかできないかのギリギリのところにいた自分の放ったショットは、技術ではなく気持ちで決めたショットでした。

パー5のロングホールで、普段なら、3打目でグリーンを狙おうと考えるのですが、1打目の落ちた場所からグリーンまでの距離を見て「これは行ける!」と思ったんです。なぜだかわからないですけど、その時は迷いなく自信がありました。そして、自信をもって打ったその一打が成功し、予選を通ることができました。

試合前は、自信がなくて「私なんかダメだ」「もうどうしたらいいかわからない」といった状態だったのが、試合では知らず知らずのうちに「この状況ならいける!」と迷いもなく打てた。まさに気持ちでグリーンにのせたんだと思っています。

中山綾香 氏 / プロゴルファー
世界を舞台に戦うプロゴルファー。神奈川県出身。ゴルフの名門校である日本大学高等学校2年生の時に米国にゴルフ留学。大学進学に文武両道が求められる米国で、NCAA(全米大学体育協会)のディビジョン1に所属する強豪大学・セントラルフロリダ大学(University of Central Florida)にフルスカラシップで進学。2017年に同大学卒業後、プロに転向。欧州圏内だけでなく、アジアやオセアニアでも試合が開催される女子ヨーロッパツアー(Ladies European Tour)に登録。地球何周分にも匹敵する移動距離を要する過酷なツアーを戦っている。
AYAKA NAKAYAMA WEB

もちろん毎日の練習は欠かしませんが、こういう出来事があると、アスリートとしての強さには技術だけでなく気持ちの成長も必要だと実感します。

 メンタルコーチをつけるアスリートは増えているのでしょうか。

中山 どんなスポーツでも、選手の心身の状態がいいときもあればそうでないときがあるものです。そういう意味で、技術だけではなく、生活面も含めてトータルに扱うメンタルコーチの存在は大きいと思います。コーチの存在は、自分がどの地点にいるかわからなくなったときに立ち戻れる場所でもあります。つらいときに「つらいです」と正直に言える相手がいるということ自体、強さにつながるような気がするんですよね。

また、梅山さんは、日々「綾香さん、成長していますね」と言ってくれます。たとえ自分では成長を感じられなくても、そばで見ているコーチには見えていると思うと「私はそれでも山に登っているんだな」と思えます。自分の成長を確認してくれる人がいることも安心感につながります。

メンタルコーチをつけて3年経ち、最近は精神的な成長も感じますし、自立してきたとも思いますが、それでもメンタルコーチの存在は必要だと感じます。

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メンタルコーチはサッカーコーチ

 メンタルコーチをつけようと思われたのはどのようなきっかけからですか。

中山 梅山さんには、大学を卒業した2017年の秋からお世話になっています。大学時代にはゴルフと勉強の両方があって、この二つでバランスが取れていたんですね。それが大学を卒業してゴルフに費やす時間が長くなり、天秤が大きく傾いてしまいました。それ以外にも、仲間と一緒にやっていた練習を一人でやるようになるなど、卒業後はさまざまな変化がありました。そんな環境の変化の中で競技に出ているうちにプレッシャーを感じるようになり、それが思ったよりきつかったんです。そこでコーチをつけようと考えました。

 梅山さんはサッカーのコーチですが、その点は気になりませんでしたか。

中山 当時の私の状態では、ゴルフ専門のコーチはむしろ受け入れられなかったと思います。他のゴルファーと比べられてしまうのではないか、とか「ゴルフはこういうものだ」と押しつけられるのではないかという不安がありましたね。また、メンタルコーチの存在は、ゴルフだけでなく、ライフスタイル等も含めたすべてに関係すると思っていたこともあって、あえてゴルフ以外のコーチにお願いしました。

 メンタルコーチとはどのようなお話をされるのでしょうか。

中山 お願いした当初はゴルファーとして自信を失っていたこともあって、「自信」をテーマに週1回のペースでお話ししていました。私にとってのコーチの存在は、自分の内側にあるものをすべて共有し、一緒に考え、目の前にある壁を乗り越えていくための対話をする相手です。最初の頃はとくに、コーチと話すことで、自分に課題への対応能力がついていく感覚がありました。

 どういうやりとりの中で、そのように感じていかれたのでしょう。

中山 話すテンポやトーンもあると思いますが、コーチは、気持ちがザワザワしているときに「そうなんだ」と受け止めてくれて、そのうえで「じゃあ、これはどうなんだろう?」と問いを投げれてくれます。一方的に話を聞いてもらっているだけではなく、かといって、教えられているわけでもない。

始めた頃は、話をしている最中に悔し涙が出るようなこともあったのですが、それでも何もジャッジされないという安心感がありました。次のセッションのときには、前回のことを引きずらずに、いつも同じ立ち位置にいてくれます。「いや、違うよ」と否定されるようなこともないので、対話を重ねていくうちにますます安心感が醸成されていきました。

「どうしよう? どうしよう? どうしよう?」から抜け出す

 メンタルコーチをつけることで、アスリートとしてどのように成長したと思われますか。

中山 コーチングを受けるようになって一番変化があったのは、自分の状態を一歩引いて見ることができるようになったことかもしれません。梅山さんはよく「山を登っている最中は登ることに必死だけれど、引いて見てみると、自分がどの山に登っていて、どの地点にいるのかをわかるようになる」と言いますが、そういう感覚です。自分を少し引いて見ることができると、自分とうまくつきあっていく道を見つけられる。そうした積み重ねによって、目標に対しても「この山を登ったんだな」と感じられるようになっていきました。

(次章に続く)

インタビュー実施日: 2020年6月25日
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部
表紙写真: A+YARD提供

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