リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


経営者インタビュー
ブラザー工業株式会社 佐々木一郎 代表取締役社長

第25回 製品開発も人材育成も「At your side.」の精神で

第25回 製品開発も人材育成も「At your side.」の精神で
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さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。

今回は、プリンター、ミシン、工作機械などの製品をグローバルに展開するブラザー工業株式会社の佐々木一郎代表取締役社長のインタビューをお届けします。

幼少期に経験した事故の影響で、自分の生きる意味を考えることの多かった佐々木氏。インタビューでは、佐々木氏の見つけた生きる意味や、それが反映された人材育成の信念や経営哲学などについて、お話をうかがいました。


佐々木 一郎氏 / ブラザー工業株式会社 代表取締役社長
1983年名古屋大学工学研究科修士修了、同年ブラザー工業入社。企画、品質保証、新規事業の部門長を歴任。エンジニアとして、ブラザー初のレーザープリンターの開発リーダーを務めた。
2005年ブラザーU.K.取締役社長を経て、2009年ブラザー工業執行役員に。その後、2014年取締役常務執行役員、2016年代表取締役常務執行役員、2017年代表取締役専務執行役員。2018年より現職。愛知県出身。
写真提供: ブラザー工業株式会社

自分の生きる意味を探る

小さい頃の自分は、とにかくメカ(機械)が動く仕組みが知りたくて知りたくて、家中の機械を分解してまわるのが楽しくてたまらない子でした。柱時計を分解して、ゼンマイのメカニズムを知った時など、ものすごい感動を覚えたものです。だから学校でも算数や理科なんかは大得意。でもその一方で、たとえばローマ字を覚えることなどは嫌でたまらない。「どうして人間は嫌なこともしなくちゃいけないんだ?」こういった疑問はさらに発展して「人は、何のために生きるんだ?」なんていうこともよく考えました。

そう考えるのには幼少期の大怪我が影響しています。2階の窓際に置いてあったミシンテーブルの上で遊んでいたときに、ふとしたきっかけで外に落ちてしまいました。たまたまそこに自分が乗り捨てていた三輪車があったので、頭を2針縫っただけで助かった。でも、三輪車の上に落ちなければ自分は死んでいたかもしれなかったんです。また大学院時代にも、友人宅のマンションで、入口と間違えてガラスに小走りで突っ込み、そのまま突き破ってしまったこともあります。ものすごい出血の中で、自分の人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡ったことを覚えています。なくなっても不思議ではなかった人生を、自分は生きている。これは、神様に生かしていただいた人生だ。そう思うと自然に、自分の生きる意味についてよく考えるようになりました。

その問いに対する答えがふと浮かんだのは、停電や断水などでものすごく生活が不便になったときです。原始時代に思いを馳せれば、当時は自分が不便と感じる生活とは比べものにならない。水道がもともとない時代は池や川のそばでないと暮らせなかっただろう。今は夜になれば電気が点き、冬はストーブで暖をとれる。病気になればお医者さんに診てもらうことができ、薬も手に入る。自分が享受できているこの暮らしは結局、自分たちの先輩、先祖たちの知恵と努力があって成り立っているのだ。そう気づいたのです。であれば、今の自分がすべきことは明快だ。将来の人たちのために、今の世の中を少しでも良くしていくこと。それこそが自分の生きる意味だ。そう悟りました。

営業現場から得た学び

機械いじりが好きでしたから、子どもの頃から発明家になりたいと思っていました。そして、発明家になるのであれば、街の発明家になるのか、会社に入って同じことをやるのかということを考えました。前者は、発明家として特許を取れば、周りの10名程度に影響を与えるだろうが、会社の中で発明をすれば、自分の努力が世界中のお客様に届く可能性がある。企業は、自分の努力の増幅機だ。少しでも世の中を良くしたいという人生のミッションとも照らし、ブラザー工業に就職を決めました。

入社2年目で、ありがたいことに開発担当として米国西海岸の拠点に8カ月間派遣していただきました。「開発だからといって部屋の中にいては絶対ダメだ」。そう思って、セールス担当者に営業先への同行を無理やり許してもらいました。しかし、営業現場でお客様から見聞きした経験は、その後もずっと頭から離れないショッキングなものでした。

なかには紳士的なお客様もいらっしゃいましたが、「コンピューター業界でのブラザーのブランド力はゼロだな」「こんな安っぽいプリンターを作ってしまって...」と厳しい言葉を浴びることも日常茶飯事。それでも、セールス担当者は「安っぽいとおっしゃるけど、実際に価格も安いじゃないですか」「こんなに安いのに、いい仕事をして壊れにくいなんて、なにか悪いことありますか」と切り返し、しがみつくようにして製品を売っていく。

自分たちのお給料は彼らの努力や苦労があってこそなんだと身に染みると同時に「開発はなんて情けないんだろう」とも思いました。「頼むから、ブラザーのこの製品を売ってくれ」とお客様から請われるような魅力的な製品を開発しなければならない。この時感じた思いは、その後、私が開発や商品企画をしていく上でも揺るぎない軸となりました。

経営者に求められるロジカルな説明責任

早速、米国から帰国後すぐに、会社の方針とは異なるレーザープリンターのプロジェクトを立ち上げました。会社の方針に逆らうつもりはありませんでしたが、「売る人やお客様のことを考えたらやっぱりこっちだろう」という一心でした。ブラザーが創業以来大切にしてきたお客様を第一に考える姿勢、「At your side.」を私なりに貫いたのです。発売後、一気に売れ出すまでは、私は周囲から冷ややかな目で見られていました。言うことを聞かない部下だったと自認しています。ですから、小池利和前社長から最初に社長就任を打診されたときには、思わず断ってしまいました。ただ、ブラザーはちょうど、オフィスプリンティングから次の事業へとシフトする大きな転換期にあり、その中で、お客様や社員を幸せにするために全責任を負うことへの覚悟も私にはありました。世の中を今よりもっと良くして次世代に渡したいという、私の生きる意味にも通じるからです。

今、こうして経営者となって振り返ると、とても役に立っているのがイギリスの子会社での社長経験です。イギリス人は、私の意思決定に対して、「ミスターササキ、なんでこれをやらないのだ?」と反対意見や逆提案、文句などを遠慮なくぶつけてきます。ですから社員を納得させるために、彼らからの問いに対して一つひとつロジカルに説明しなければなりません。そうしているうちに、普段から自分が下す意思決定について、どうロジカルに説明するかを考えるように訓練されていきました。英国人は、日本人に比べ多くの反対意見を出してきますが、こちらの説明にひとたび納得すれば日本人よりもずっと速く動きます。社員が腹落ちしているからスムーズなのです。マネジメントをする上では、意思決定の過程に社員のアイディアや意見、考え方をしっかり反映していくことがとても重要だという学びを得ました。

今、嫌われても、将来感謝される道に人材を導く

人材育成という視点では、私は短期的には嫌われても、5年後や10年後には感謝される上司でありたいとずっと思ってきました。そこには、自分が部下の将来を真剣に考えていることへの自負もあります。人材育成も「At your side.」なのです。部下の将来を明るくするためには、彼らを必要だと思うところに連れ出し、思いっきり羽ばたかせて伸びてもらう。これは会社にとっても大きな力となります。実際、出産後の子育てで大変な時期にあった部下を、抵抗されながらも私が管理職に引き上げました。今、常務執行役員となった彼女は講演会などで「私は佐々木さんから崖の下に突き落とされました」と話しながらも「今は感謝している」と言ってくれています。本人に自信がなくても、見込みがあると判断すれば、一生懸命手を引いて階段を登ってもらう。そうすれば「あの時のあの苦労が、今の自分を作っている」とのちのち感謝されると信じています。

そして社員一人ひとりにも、彼らの努力の増幅機としてこの会社を思い切り活用してもらいたい。何がなんでもやらなくちゃと思ったら、「やっていいですか」などと聞かずに「どうやったらできるか」を考える。そんな社員が活躍する場面を見られることが、今の私の楽しみの一つとなっています。

本記事は2022年12月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: ブラザー工業株式会社


ブラザー工業株式会社

1908年にミシンの修理業として創業して以来、110年を超える歴史の中で、事業の多角化、グローバル化を推進。あらゆる場面でお客様を第一に考える「At your side.」の精神が世界中の従業員に浸透。今後も、常にお客様の立場でニーズに応えることを価値創造の原点とし、変革を恐れずに時代や環境の変化に対応しながら培った競争優位性を発揮することで、価値を創造、提供し続ける。

ブラザー工業株式会社

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