各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。
ユーピーエス・ジャパン株式会社 西原哲夫 代表取締役社長
第26回 多様性の中で、「自分らしさ」をもって貢献する
2023年05月01日
さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。
今回は、世界220以上の国・地域で物流サービスを展開する世界最大規模の宅配事業者・ユーピーエス社の日本法人であるユーピーエス・ジャパン株式会社の西原哲夫代表取締役社長のインタビューをお届けします。
西原氏は、ダイバーシティは自身の人生のテーマだとおっしゃいます。インタビューでは、西原氏がダイバーシティに目覚めた経緯や、人生のパーパスなどについてお話をうかがいました。
日本におけるエクスプレスデリバリー事業の戦略的マネジメントを担当。これまで約20年にわたりメーカーに在籍し、日本だけでなく米国、東南アジアにおける豊富なビジネス経験を有する。
前職では日本エマソン株式会社ブランソン事業本部の事業本部長を務め、日本及び東南アジア諸国のビジネス拡大をけん引。リチウムイオン電池の急成長に着目し、トップラインの収益を伸ばす。また、部門横断的なチームを率いて、新製品の開発から販売戦略までを遂行。GMとして、セグメントの選択や社内リソースと人員の集中を実施することで、顧客課題の解決スピードを速め、売上の増加に成功。
日本エマソン以前は、住友電気工業株式会社において豊富な営業経験を積む。クライアントの部品供給において、コスト・品質・納期全体を改善する複数の国境を越えたサプライチェーンの構築を提案し、会社の長期的な成功に貢献。
慶應義塾大学経済学部卒業。2014年、UNC Kenan-Flagler Business SchoolでMBAを取得。
自分がワクワクするのは、多様性のある環境
父親の仕事の関係で、私は生後間もなく米国に住むようになりましたが、5歳の時に日本に帰国して、人生初の大きなカルチャーショックを受けます。いじめられたのです。人と違うと、こういうことが起きるんだ...。この強烈なショックから、子ども時代は日本の環境にとけこむために必死に努力しました。英語も使わないようにしました。振り返れば、「ダイバーシティ」という言葉や概念が今ほど定着する前から、私は「人と違う」ということはどういうことなのかを、常に考えながら過ごしてきたように思います。
普通の日本人として青春時代を送った私が、今度は大学時代に再び米国の土を踏み、ある種の感嘆をおぼえます。「こんなにキラキラした世界があるんだ!」と。バレーボールチームの一員として訪米したのですが、米国のバレーボールは、日本のようにフォーメーションをガチっと決めるような型にはまったものではなく、一人ひとりが、ある意味めちゃくちゃで、みんな違う(笑)。それでも試合になるから、それがまたおもしろい! その環境の中で私は、自分がワクワクするのはこうした多様性あふれる場なんだと気づきました。
「絶対にアメリカに帰ってきたい」。この強い願いが叶い、勤務先で駐在員として米国で生活するようになりました。その中で、次第に私の関心も、より広い世界へと広がっていきます。「常にバックグラウンドの違う人たちの中に身を置きながら、ビジネスでやりあうことがあっても、最後はがっちりと握手をする」。これまで、そんな自分をイメージしながら仕事のスキルやキャリアを積み重ねてきました。
相手の話を聴くことから始めないと、こちらの思いも伝わらない
グローバルで多様性のあふれる環境に身を置きながらも、私は常に「自分は自分でよい」という感覚を大切にしています。自分も多様性の中の一人。そして周りの人たちも、自分と同じ世界で一緒に生きているという点で、自分の一部という感覚なのです。ですから誰に対しても「上」とか「下」といった意識を持たずに接しています。今、私は組織のヒエラルキーとして「社長」という立場にあります。それでも周りの人たちからは、「一人ひとりが自分らしさを出すことを応援してくれる、共に働く仲間の一人」として見てもらいたいと思っています。
提供: ユーピーエス・ジャパン株式会社
実は、前職で従業員意識調査を実施した際、ビジネスリーダーとしての私に対する評価コメントには「何を考えているかわからない」とか、「話が長い」あるいは「話が短い」というフィードバックが複数ありました。フィードバックをいただくたびに改善を試みたのですが、調査結果に変化は見られないことが続きました。しかし、ちょうどその時に受けたコーチングで、マネジメントスタイルを変えることになる大きな気づきを得たのです。「私は相手の話を聴いていなかった」と。
それまでは一対多のコミュニケーションを前提に、どんなメッセージを発信すれば理解してもらえるか、ということばかり考えていました。今思えば、一対多がゆえに、私のメッセージはあまり刺さらなかったのでしょう。
以来、一対一のコミュニケーションを重視し、一人ひとりにとって何が大事なことなのかを整理しながら、相手をエンパワーメントしたり、その個性や強みを引き出すために一緒に方法を探したりするようになりました。個人が大事に思っていることであっても、その一部がチームの目標につながれば、それは結果として大きな力になる。そう思っています。
今、私が周囲に共有している問いは、「お客様は誰なのか」です。当社のサービスを、一対多に向けた手法で伝えるだけではなかなか刺さりません。お客様は「誰」なのか。具体的に絞れば絞るほど、こちらのメッセージが相手に届きやすくなります。
周りと「違う」からこそお客様にブランドを認知いただける
マーケットシェアを伸ばす第一歩は、お客様にまずは当社のことを知っていただくこと。そのためには、他社のやることやほかの人でも思いつくことをするのではなく、当社やそこで働く一人ひとりが持つ特徴を打ち出していく必要があります。これは先に述べたダイバーシティの中での生き方にもつながる考えです。みんなと同じである必要はありません。平均的な枠の中で解を見つけようとすると、かえってお客様に気づいていただけません。
たとえば当社の業務は、乗り入れた空港で、お客様の商品の輸出入を行うことです。お客様のドアから荷物をピックアップしてトラックで運送し、貨物専用の飛行機に載せて、現地のドアまで運ぶ。このドア・トゥ・ドアでの物流すべてに、責任をもって従事しています。そして、世界最大の航空機ネットワークを有するという特徴があることで、ひとたび飛行機に荷物を載せれば、今日ピックアップした商品が明日には海外の目的地に届くという世界一速い宅配が実現します。
2023年2月、成田・関空に続く国内3か所目の拠点として、北九州への就航が実現しました。昨年からこのプロジェクトを手掛けてきましたが、北九州市誕生60周年記念の今年に就航が実現し、地元の皆様が心から当社サービスを歓迎し喜んでくださいました。九州圏や中国地方の西側のお客様にも、先ほどの世界一速い宅配サービスをご提供できるようになり、地域のお客様、行政の方々、そして当社で働く社員の喜ぶ顔を前に非常に大きなやりがいと喜びを感じています。
北九州市の産業や経済のこれまでの変遷にも思いを馳せると、過去から未来に向けた時間軸のつながりの中における当社プロジェクトの意義も感慨深く、とても嬉しい気持ちです。
「自分らしくある」を体現していく
私は、人生のパーパスは「個々人がその人らしくあること」だと考えています。それを体現するには、自分のできることをやることが大事ではないでしょうか。
社長は会社の中では裁量があるとされていますが、社長に対してNOを言える株主がいます。だからといって株主が会社をコントロールできるかというと、そうではありません。現場で起こっていることは、株主にはコントロールできないのです。そういう意味では、社長も株主も「裁量はある」し「裁量はない」。つまり、やりたいことをやれるかどうかはポジションではないのです。
また「自分らしくありたい」といいながらも、自分は、周りの人々や社会とみなつながっているということを忘れてはなりません。自分と社会とは一つだともいえるのです。当社は、日本企業の海外展開において、必要なものを必要な人たちにお届けするという「つながる仕事」を業務としています。その一部に私自身が携われていることは、大変おもしろく、また喜ばしいことです。そして常に、その場に対して、自分自身の何をもって貢献できるのかを考え続けています。
ですから、「自分はこうしたい」という気持ちを持ちながらも、同時にチームとして働ける人とは、ぜひ一緒に仕事をしたいと思っています。みんなで一緒に働いていることを前提とし、その中で敢えて「自分を出す」ことがチームの貢献につながる。そのような考えを大切にしながら、これからも前へと進んでいきます。
本記事は2023年3月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: ユーピーエス・ジャパン株式会社
ユーピーエス・ジャパン株式会社
創業1907年のUPS(NYSE: UPS)は、ロジスティクスのグローバルリーダーとして、小口貨物からフレートまでの国際輸送サービスをはじめ、在庫管理や流通加工などのロジスティクスサービス、国際貿易の円滑化やビジネスをより効率的に進めるための先進テクノロジーなど、幅広いソリューションを世界220以上の国や地域で提供しています。UPSは、世界最大級の宅配企業で、2022年度の売上高は1,003億ドルに上ります。「大切なものを運ぶことで世界を前進させる」というパーパスステートメントの下、世界50万人以上の従業員は、シンプルかつ力強い戦略「お客様第一」「社員主導」「イノベーション重視」を尊重しています。UPSは、環境への影響の低減に取り組み、サービスを提供する世界各地の地域社会への貢献に努めています。また、多様性、公平性、包摂性を確固たる姿勢で支援しています。
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