リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


経営者インタビュー
株式会社FURTHER 前田翼 代表取締役

第28回 言語の壁を超え、コミュニケーション力とデザイン力で、 世の中に眠る日本の伝統技術を伝えていく

第28回 言語の壁を超え、コミュニケーション力とデザイン力で、 世の中に眠る日本の伝統技術を伝えていく
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さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。

今回は、海外デザイナーとのコラボレーションを強みに、インテリアデザイン、空間デザイン、グラフィックデザイン、ブランディングを手がける株式会社FURTHERの前田翼代表取締役のインタビューをお届けします。前田氏はデザイン事務所から独立後、フリーランスで海外の有名ブランドプロジェクトを手掛け、2019年にFURTHERを起業しました。福井という地元への思いや、チームで大切にしていること、今後の方向性などについてお話をうかがいました。


前田 翼氏 / 株式会社FURTHER 代表取締役
福井県出身。工事現場の作業員から今に至る。デザイン事務所在籍中に担当したラグジュアリーブランドのリブランディングプロジェクトをきっかけに、New Yorkへ興味を抱き、2014年渡米。現地では、世界各国のプロジェクトを手がけるデザイン事務所、De-Specに在籍。帰国後、2019年に株式会社FURTHERを設立。英語でのデザインコミュニケーションと、日本人としての美意識を重要視し、洗練された空間に仕上げる視点、コスト、スケジュールなどのプロジェクトマネジメント視点でも高い評価を受け、世界各国の著名ブランドからのオファーが絶えない。現在では、それぞれの著名ブランドの本国デザインチームと日々、コミュニケーションを取りながら共創し、日本独自のマーケットに適した空間を提供している。
写真提供: 株式会社FURTHER

離れることで客観視できた、地元・福井の魅力

僕の出身地である福井県あわら市は、一面田んぼだらけで、かつ海にも近い場所にあります。そんな環境で育った僕にとって、都会は幼少の頃から憧れの場でした。18歳で地元を離れて大阪でインテリアを学び、東京のデザイン事務所に勤め、と憧れの都会暮らしを始めたのですが、そうなると、これまで当たり前のように周りにあった自然が恋しくなる。そんな気持ちで福井に戻るたびに、地元の魅力を発見するようになりました。

福井県は、越前和紙や漆塗り工芸品などの伝統工芸が盛んなところです。特にデザインを仕事としていることもあり、知れば知るほど、地元・福井の持つ技術・魅力が、世界に誇れるものだと感じるようになりました。実際に、海外の有名ブランドからの要望で日本各地に問い合わせても見つからなかったものが、福井にあった、という経験も何度かあります。地元・福井には、まだ世の中に知られていない、眠っている技術や魅力がふんだんにある。自分を通して、もっと広く伝えられないか。そういう思いが強くなりました。

雇用を創出してこそ、一人前の起業家

僕自身のキャリアは、施工会社での勤務に始まり、その後、デザイン事務所に所属しました。独立して生計を立てていきたいと思ったのが、今から約15年前の24~25歳のころです。誰かの下で仕事をすることが、自分には少し合わないと感じる部分もありました。「よし、決めた!」とあまり深く悩まず、フリーランスとして独立し、それまでに携わったGUCCI関連のプロジェクトで興味を惹かれたニューヨークに渡ります。現地では、TOMORROWLAND NEW YORK店などで経験を積み、帰国後、今の株式会社FURTHERを立ち上げました。正社員3名、プロジェクトベースで外部専属スタッフ約5人と、リモートワークも活用しながら法人組織を運営しています。

会社を法人化して社員に給与を支払う立場になって初めて、自分は社長なんだと実感するようになりました。デザイン業界自体は、フリーランスとして独立する人も多いのですが、自分だけでなくちゃんと誰かの生活を守る、そうした雇用を創出してこそ、一人前の起業家といえると思います。

ポジティブ思考で「楽しむ」クリエイティブ集団

今はまだ、当社へのオファーの多くは、僕のバックグラウンドを見た方から僕宛てに依頼される案件です。今後、FURTHERというチームをさらに発展させていくためには、僕に代わる人材がもっと活躍できるようにしていかなければいけない。また、デザイナーとしてクリエイティブな仕事をしながら社員のことも考える。これが、僕の社長としての責務です。

クリエイティブ集団の場合、「楽しむ」ことが仕事をするうえで非常に大事です。そのためには、トップに立つ僕自身が、やりがいを感じてとことん楽しんでいる姿を見せないと、社員もそうならないと思っています。僕は、周りからもいつも楽しそうだと思われているのですが、実際、根っからポジティブな性格です。もちろん、事業を進めていく上で、苦しい局面もあるのですが、それでも割と楽観的に物事を捉えています。

これまでの経験をもとに、視野を広げて「さらに先」を考えるチームでありたい。社名の「FURTHER」にはそんな思いを込めています。そのためにも、小さなことで悩むのではなく、未来を見る目もポジティブにいきたいと思っていますし、チームにもそういうポジティブ思考のメンバーが集まっています。

提供: 株式会社FURTHER

問いかけ、対話し、学びにつなげる

答えのない「その先」のことを考えることが好きで、僕自身、好んで自問自答をします。チームとしての成長のためにも、問いかけや対話を大切にしています。やはり職業柄だと思うのですが、どんなモノであっても、モノを見るときにその背景にある理由を考えます。丸いものが丸い理由はなぜか。なぜ、この形になったのか、すべてに理由があるんです。それもあって、普段から、メンバーとの会話の中でも、よく背景や理由を考えるような問いを投げかけます。

たとえばレストランで「このテーブル、すごくかっこいいけど、どうやって作っていると思う?」と問いかける。問われると初めて、そのテーブルをじっくり見ようと思いますよね。逆に、問いかけられなければ、見ることすらしないかもしれない。海外のマテリアルなど、さまざまなモノを題材にメンバーに問いを投げかけ、そこでの対話から皆が何らかの学びを吸収できるようにしたいと思っています。

そういうときには、僕が意見を言わないことも大事です。一人ひとりが考え、他のメンバーの意見を聞き、多様な考えがあることを知る。そしてその中で、自分たちなりの正解を見つけていけるようにしたいですね。

コロナ禍も落ち着き、ようやく海外にも行けるようになりましたから、現地でいろんな文化を自分の目で見て肌に触れる。そういう代えがたい経験を多く重ねながら、新しい視点で相互に刺激し合う、ミックスカルチャーを組織に生み出していきたいです。

国内と海外の障壁を超えて「その先」へ進む

僕たちはカルティエを筆頭としたリシュモングループやNIKEなど、国や文化の違うさまざまな海外ブランドとプロジェクトを進めています。その中で、強い使命感を感じているのが、こうした海外ブランドの中に、日本の伝統工芸技術を活用することです。

僕たちの仕事では、どんなにデザインが良くても、デザインだけではビジネスにつながらないことも多くあります。逆にデザイン以外の知識力がモノを言って、ビジネスにつながることもあります。それゆえ、数多くのコンペティターの中で選ばれ続けるためにも、デザイン力以外にコミュニケーション能力が大事だと考えています。

地元の工芸品などは知れば知るほど奥が深いので、自分の知識量を上げていくことで、工芸品の特色や良さを言語の壁や国境を越えて海外に伝えることができる。また、一口にコミュニケーションといっても、話し方一つで伝わり方も全く変わってしまいますから、相手に合わせた人間的な関わり方を大切にして、信頼関係を築くことも重要です。

国内と海外の障壁をコミュニケーション力とデザイン力で解決し、より価値のある空間を提供できるように奮闘したい。そして海外の人が日本の工芸を使いたいと思ったときに、真っ先にFURTHERのチームに声をかけたいと思ってもらえる、そんな存在を目指しています。

本記事は2023年7月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 株式会社FURTHER


株式会社FURTHER

ニューヨークで経験を積んだ前田翼が代表のインテリアデザイン事務所。インテリアデザインを軸に、グラフィックやプロダクト、ブランディングまで幅広いデザインを手がけている。社名である「FURTHER」は「その先」を意味し、これまでの経験を元に「さらにその先を考えるチーム」という想いが込められている。海外デザイナーとのIDEA EXCHANGEを積極的に行い、異なる文化や思考から《NEW》を生み出しながら、国内と海外の障壁をコミュニケーション力とデザイン力で解決し、より価値のある空間を提供している。近年では、世界的ジュエリーブランド カルティエや、スポーツブランドNIKEなど、各国の著名ブランドと共創しながら、空間を手掛けており、日本の伝統工芸や素材、それらの技術を自社の設計案件を通してブランドの世界観を、より日本独自の表現へと進化させる設計活動を行っている。

株式会社FURTHER

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