リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


経営者インタビュー
株式会社山本製作所 山本尚平 代表取締役

第21回 Employee Firstの人本経営で、尾道から世界へ勝負する

第21回 Employee Firstの人本経営で、尾道から世界へ勝負する
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さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。

今回は、業務用クリーニング機器専門メーカーとして、広島県・尾道から世界へ、"洗う文化"の創造を図る、株式会社山本製作所の山本尚平代表のインタビューをお届けします。

山本氏は創業2代目社長として、同社のグローバル展開を推進してきましたが、本インタビューでは、その山本氏が経営をしていく上で大切にしている考え方などについて、お話をうかがいました。


山本 尚平氏 / 株式会社山本製作所 代表取締役社
1974年(株)山本製作所に入社、入社以来「開拓営業」に従事。2003年1月より父の跡を継ぎ代表取締役に就任。就任後は欧米市場の開拓をメインテーマとして取り組む。経営は「人本経営」「共存共栄」を掲げ「人に優しい」経営を目指す。
写真提供: 株式会社山本製作所

創業2代目のファウンダー精神

僕は「趣味」の欄に「会社の発展」と書きます。このときの「会社」とは、父の創業した山本製作所です。

僕は2代目社長ですが、社長になるまでの過程では、父への反骨精神が自分にとって大きなパワーの源だったように思います。引き継いだ当時、当社には、韓国や台湾などへの輸出取引が一部あったものの、欧米市場に関しては未開拓でした。しかし、就任直後にフランクフルトでの業界展示会を視察し、そこで、ドライクリーニング市場の縮小と、当社では到底かなわない技術力の差を痛感したことが、大きなターニングポイントになりました。

今のままでは、これまで当社を支えてきてくれた従業員の皆さんに向けて、明るい未来図を描くことはできない。その強い危機感が、僕の中に秘めていたファウンダー精神と合わさって、帰国後すぐに「アメリカで勝負する」と社内に宣言しました。

父が当社のファウンダーなら、僕は、当社の海外展開のファウンダーになる。

それ以降、次々に出てくる課題に対応しながらこれまで走ってきましたが、結果的に、当時から売上は3倍超に成長し、それに伴って社員数も増えました。開発、人材、設備などいろいろな視点で先を見据え、今後のさらなる成長戦略が描ける体制になっていると思います。

提供: 株式会社山本製作所

Employee Firstの「人本経営」を貫く

小さい頃から自然と、自分が家業を継ぐのだろうと思っていましたが、僕は設計ができるわけでも、現場で何か作業ができるわけでもありません。従業員の方々が、会社に来てくださって、僕にはできないそうした仕事をしてくださっています。

では、僕はいったい、従業員の皆さんのために何ができるのか。

それはやはり、皆さんが働きやすい環境を作り、皆さんのモチベーションを高めていくこと。これが僕の大事な仕事です。花を育てようと思ったら土づくりが大事であるのと同じように、会社においても、種を蒔く土壌である社風が大事です。社長だから自分に力があるという考えは全くなく、Employee First、「人本経営」が僕の考え方です。

提供: 株式会社山本製作所

ですから、僕が従業員の皆さんを信用できなくなったら引退だと、性善説で経営しています。性善説と性悪説では、作る組織が全く違うものになります。管理のための管理はしませんから、直間比率を見ても間接費の割合が非常に低い。また、当社にとって人を失うことほど大きな損失はないので、社会保険料をコストとみなすこともしません。そのため、パートさんや派遣社員は一人もいない。僕にとって、一番顔を合わせるのは従業員の方々ですから、仕事だけでなく、プライベートで困ったことがあれば資金面も含めてすべてサポートする、そんなコミュニティとしてまとまっていたいと思っています。

声の大きな人の意見が通り、正論が通らない組織は必ずダメになると考え、いろいろなところでヒアリングをするなど、皆の声を拾えるような気配りをしています。

グローバル視点で日本市場を見る

提供: 株式会社山本製作所

僕が従業員の皆さんに見せたい「明るい」未来図を具体的に言うと、一つは所得レベルです。給与水準は、地方のモノづくりを行う企業の中でトップクラスを目指したい。そしてもう一つが働く環境です。会社が上に立つのではなく、家族のように接していけるサポート体制を用意すること。

こうした未来図を描くためには、欧米への展開なしでは難しいと考え、これまで突き進んできました。もちろん国内事業も重要で、そこでの改革余地もあるのですが、さらなる事業規模の拡大を目指す上では、事業における海外比率の向上を図ることが重要です。

「アメリカで勝負する」と宣言し、実行に移してきたことで、経営においても大きな変化が生まれました。一つは発想の起点です。日本で売れているものを海外に持っていく、という発想ではダメだということ。日本と欧米では家のサイズが違うので、洗濯機に求めるサイズも大きく異なります。ですから、製品のコアの部分は世界標準のスペックに合わせて開発し、そこから日本市場に持ってくる。欧米に足を踏み入れたことで、グローバルで求められるニーズをミックスさせた製品開発ができるようになりました。

提供: 株式会社山本製作所

国内で本格的な海外展開を実施しているのは当社だけですが、グローバル市場でも、韓国、台湾、中国企業からの攻勢に負ける気はしません。

また事業領域の拡大以外にも多くの副産物がありました。たとえば、従業員の安全への配慮をはじめ、労働環境に対する考え方については、日本は欧米から大きく劣っています。欧米基準に切り替えたことで、年間休日数125日、残業時間は多くても1時間など、当社の労働環境も大きく欧米スタンダードに改善されました。

チャレンジし続けなければ、その先の未来はない

もちろん、課題は常にあります。当社は、米国、ドイツの有力なパートナー企業と提携し、海外でも積極的な投資や人材育成を行いながら、広島・尾道での一貫した製造管理のもと、グローバル市場で勝負しています。当面の優先事項は、2027年に海外も含め、売上100億円達成という目標に向けて、今後控えている欧州や中国等での進展を着実に遂行していくことです。

リモートワークが主体とならざるを得ないコロナ禍にある今、グローバル・ガバナンスの強化も課題の一つです。僕が働く時間は社内の誰よりも長いけれど、経営者は結果に対する責任を担っているので、常に組織のことを考えて取り組んでいます。同時に、今、見えている仕事でジリ貧になったら会社の将来はありませんから、平常の仕事だけに追われることのないよう意識もしています。

提供: 株式会社山本製作所

「チャレンジし続ける」ことの大切さは、従業員の皆さんとも常に共有しておきたいことの筆頭です。チャレンジし続けるために必要なリソースは、やはり人との出会い、人的ネットワークではないでしょうか。自分自身の垂直成長も、自分にない部分を人に教えていただいて成長してきたヒストリーです。

人と出会い、人が製品を知り、その製品が販売されることで利益が生み出される。いつの日か僕がバトンを渡すとき、後継者に残してあげたいのは、素晴らしい従業員の方たちです。そのためにも、正常な判断ができる人間としてのモラル、心のありようを、これからも常に振り返りながら、大切にしていきます。

本記事は2021年9月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 株式会社山本製作所


株式会社山本製作所

1947年創業。
創業当初は「クリーニング業界」を中心に営業を展開。現在は「コインランドリー」「福祉・病院」「インダストリー」「海外マーケット」と時代の流れに適応した経営を展開。創業以来「本業一筋」で展開し今後も成長戦略が描けている。特に欧米で展開している国内の洗濯機メーカーでは当社が唯一。今後も市場開拓で培った経験をいかし「時代を先取り」した経営を実践していく。

株式会社山本製作所


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