各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。
株式会社MONO Investment 佐々木辰 代表取締役
第20回 起業することで、すべての仕事を「自分事化」する
2022年01月24日
さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。
今回は、日本の個人投資家に対してプロ投資家の運用手法をひろめ、個人の資産運用・資産形成をサポートするフィンテックベンチャー、株式会社 MONO Investmentの佐々木 辰(ささき しん)代表のインタビューをお届けします。起業のきっかけや、起業家として大切にしている考え方、会社のミッションなどについて、お話をうかがいました。
大阪大学大学院経済学研究科修士課程修了。みずほフィナンシャルグループにて、国内大企業の資金調達並びにM&A等の事業支援に従事。シンガポール駐在時には、ASEAN非日系企業の産業調査業務に携わる。その後、ベンチャー企業にて事業開発及び資金調達業務を歴任後、2020年1月に株式会社MONO Investmentを設立し、代表に就任。
起業の魅力は意思決定の自由度
昔から好奇心の塊だった僕は、世の中の仕組みなどを知ることがすごく楽しくて、大学卒業後、竹中平蔵さんに憧れて大学院で研究者を目指したこともあります。ですが、世界のトップクラスで活躍する研究者には到底、僕の能力では及ばない。そうした挫折を経験しました。しかし同時に、天才と呼べるような優秀な研究者の方たちが研究に突き進めば進むほど、実際の経済や社会とのつながりや距離がどこか遠くなっていく感覚があることにも気づきました。それは、自分のなりたい姿ではありませんでした。「自分でビジネスをやろう」。大学院への進学は、そう舵を切るきっかけになりました。
金融機関でサラリーマンとして社会人生活をスタートした僕は、自営業の家庭に育ったためか、お給料をもらい続ける働き方を続けるイメージをもっていませんでした。その後に勤めたベンチャーでCFOとして働いたときも、ある程度任せていただいたものの、最終的な意思決定を自分はしないという点で、なにか自分事ではなくなってしまう物足りなさが心に残りました。自分のやりたい世界を実現するためには自分でビジネスをしないといけない。それが、大きな力となって、MONO Investment社を起業しました。
当社は共同代表制です。私は経営戦略やアライアンス関連、営業統括などのビジネス全般を担当し、もう一名の代表の中西諒がエンジニアを統括して、当社のコアプロダクトの製作を担うという役割分担をしています。リーダーとしてどれだけ多くの人を束ねているかといえば、当社規模の会社の社長よりは、大企業の部長職の方が数では上回ります。でも、事業をしていく上での「意思決定の自由度」は、私のほうがずっと大きい。
「自分はこうしたいんだ」という思いを、そのまま会社の経営判断として企業運営に反映できることは、やはり格段におもしろい。自ら意思決定をしながら世の中に付加価値を生み出していきたい。常に自分の根本にこの気持ちが流れていましたから、起業によって、すべての仕事が「自分事化」したという醍醐味を日々味わっています。
好奇心のまま、突き進む
「費用最小化と効用最大化」。これは経済学のプリンシプルですが、僕の人生におけるモットーでもあります。いろいろなことを効率的に進めていく、その部分に僕自身の強い興味があるのかもしれません。個人としての自分と経営者としての自分とは不可分です。なので、先を見据えてお客様のために効率的にビジネスを促進できているか、そしてそのことがお客様のためになっているか、お金や時間といった工数に絡む"費用"が最小化できているかと、事業をする上でも、「費用最小化と効用最大化」を常に追求しています。
その一方で、自分の好奇心に素直に従うこともとても大切にしています。極論を言ってしまえば、会社という「形」を100年先まで続けていくことに執着するよりも、自分が信頼している人たちとチームを作って、おもしろいことを発信し続けながら新たな価値を生み出していくことの方に興味がある。経営者として上司・部下といった関係性を大事にするよりも、自分が好きな人と好きなことをやりながら、プロジェクトごとにその領域が得意な人に任せていく経営スタイルの方がおもしろい。
僕が抱く「経営者」像は、事業を推進する執行役ではなくて、複数の事業部を束ねる「経営」を行う人ですから、今の会社の規模を考えても、私は「経営者」ではなく「プレイングマネージャー」かもしれません。ただ、ビジョンやミッションを示すことは、経営者にしかできない仕事ですから、事業がビジョンやミッションに合致している方向に進んでいるのか、チームのメンバーと点検しながらPDCAを回していかなければいけません。
やりたいことをやる。会社はそのための「形」。
提供: 株式会社MONO Investment
当社の社名に冠した「MONO」には、「単純に」とか「簡潔な」という意味があります。こと、日本には、金融の世界における投資において非常にたくさんの非効率があります。
たとえば、個人が資産運用をやろうとしても、そもそもどうやって資産運用をしたらいいか分からないとか、いろいろな金融事業者のアドバイスに従って、かえって損をしているといったケースもみられます。そうではなく、個人が自分の資産を貯蓄から投資へ自分で責任を持って運用できるようにしたい。そのためには、リテール金融、たとえば証券会社の人がもっといい提案ができるようになる、また、自分の資産を自分で見れるようになるといったことが必要だと感じています。当社では、そこに向けたサービスを提供しています。
非効率を取り除くことは、私自身のモットーにも適うことですが、世の中にとっても非常に大きな価値を生み出します。ですから、当社のミッションは、ツールを活用しながらリテール金融の業務内容の効率化を図ること。それを達成するプロジェクトのために「MONO Investment」という会社の「形」があり、この一つの目的に対してメンバーが集まって存在しているんです。例えば、金融ではなくて、農業の領域で同じような目的を達成したいと思ったら、「MONO Farmers」といったように名前も変えていく。僕にとって会社は、やりたいことをやるための「形」です。
同じ目的のために集まり、共に働きたいメンバーも、僕自身が直感的に好きになる人ばかりです。共通点は、素直で前向き。物事に対して斜めに構えるのではなくて、できる・できないにかかわらず、全身全霊で自分のエネルギーを対象物にぶつけられる人たちです。また、表と裏がなく、何を考えているかが分かりやすいことも必須条件でしょうか。
やはりビジネスの世界では、アライアンス相手との本音の探り合いなどがありますから、せめて自分と仲間との間だけでも、本音でぶつかり合える関係性を維持したいと思うのかもしれません。
自分の夢を客観視することで、夢が育つ
僕には、毎朝5時に起きて、クラシック音楽を聴きコーヒーを飲みながら、今後の野望を考える、というルーティンがあります。毎朝思考を分散させ、自分なりに情報を取りながら「世の中をこうしていきたい」と考える時間です。実は、その時間が、日々の生活の中での一番の至福の時です。
大学時代から、自分の思ったことをノートに書き留め、その内容にずっとアップデートをかけながら編集し続けています。自分で作った言葉や自分なりの概念を、こうして客観視する時間を持つことで、自分に対する新たな気づきが生まれるような感覚も覚えます。自ら答えを出そうとしていたことを通じて、新たな気づきを得られることが、とても価値があるように思います。自分の夢を客観視することで、その夢が育つように感じられるのです。
だから、朝起きて、一番頭がすっきりしている時間帯に未来のことを考える。そうすると、未来がより具体化されるし、「今日一日、すごい頑張ろう」とやる気がみなぎってくるんです。富士登頂も、一歩一歩登っている瞬間は、とても辛く厳しいもの。だからこそ、登頂に挑む前に、「富士山に登ったら、幸せだぞぉ」と思いながら登り始める。これが、やりたい世界を実現していくための糧になっています。
本記事は2021年7月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: 株式会社MONO Investment
株式会社MONO Investment
MONO Investmentは、リテール金融事業者にCRMツールを提供するフィンテック事業者です。
アカウントアグリゲーション機能や顧客情報管理機能などを提供することで、顧客提案から事務作業まで、リテール金融事業者のあらゆる業務効率化を目指しております。
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