各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。
イヴレス株式会社 山川景子 代表取締役CEO
第23回 デザイン性とオリジナリティを追求し、 「おもてなしをカタチに」したい
2022年06月27日
さまざまな業界のトップに、経営に関する哲学をお聞きする経営者インタビューシリーズです。
今回は、ホテル・旅館などの宿泊施設向けの客室備品やバスアメニティの企画デザイン・オーダーメイド生産をはじめ、ルームレイアウト・インテリアデザイン・家具やアートなどのプロデュースから調達、ホテル開業支援や、100%出資子会社であるイヴレスホスピタリティ合同会社にて受託運営も手掛ける、イヴレス株式会社の山川景子代表取締役CEOのインタビューをお届けします。
同社は2021年、OMOTENASHI Selection(おもてなしセレクション)において金賞を含む複数の受賞をした他、2021年7月には東京証券取引所TOKYO PRO Marketに新規上場を果たしています。起業家であり二児の母でもある山川氏に、起業への思いや大切にしている考え方、社員への思いなどについてお話をうかがいました。
イヴレスホスピタリティ(合)代表社員 イヴレス株式会社 職務執行者 山川景子
大阪府出身。在阪出版社を経て、1990年会社設立。1998年事業内容を変更し、現在のイヴレス㈱に。2014年「大阪市女性活躍リーディングカンパニー」認定、2016年ヒノキリボンで「グッドデザイン賞・アワード」、21年「おもてなしセレクション金賞」。18年イヴレス100%子会社イヴレスホスピタリティ(合)を設立。静岡県熱海市、伊東市、沖縄県恩納村にてスモールラグジュアリーホテルを、東京都新宿区にて小規模ホテルを運営受託。21年東京証券取引所TOKYO PRO Mawketに上場。EY Wininng Women 2021ファイナリスト受賞。福祉とデザインにも貢献。男児2人の母親でもある。
起業への思いが詰まった"イヴレスらしさ"
30年以上仕事をしてきて、振り返れば苦難の連続でした。イヴレスは編集プロダクションとして起業しましたが、時代は紙媒体が減少し始めた頃で、数年で事業継続の危機に陥りました。「これが最後の仕事か」と思いながら旅雑誌の取材でタイのバンコクを訪れたことが、自社の仕事を見つめ直すきっかけとなりました。就職する選択をせず、なぜ起業を選んだのかをとことん考え、導き出した結論は、自分は「0から1をうみ出す」ことをしたいのだ、ということ。原稿を書くことも、何もない状態から鉛筆一本でつくり上げていく作業です。「何もないところから具体的につくり上げていくことがしたい」というはっきりとした気づきがあり、編集プロダクションから事業内容を変えて、再び走り始めました。
たくさんの学びや人との出会いを経て今日に至ります。折に触れて痛感するのは、時代は猛スピードで変り続けるということ。ひと昔前に仕事で必要だったことの半分以上は、今では使わないものになっています。IT時代の到来により、次から次へと新しいものが生まれては消えていく。これは、どんな商品やサービスも同じです。棚に並んだ時点で、その商品はもう古くなっていきます。流行語も、選ばれた時点から、ひと昔前のものになりはじめるのです。
そんな時代の変遷の中で、イヴレスは「常に新しいモノをうみ出したい」という思いを原点として、幾度かの苦難を乗り越えながら事業基盤を固めてきました。どんな局面でも大切にしてきたことは、お客様の想いを共有し、共に寄り添い、デザイン性とオリジナリティがあるオーダーメイドの商品・サービスを提案・提供し続けること。常に新しいと感心させる。これが「イヴレスらしさ」であり、日々、社員にも問うている価値観です。
普遍的に良いものは、捨てられずに続いていく
当社は、営業らしい営業をしていないのです。何らかのきっかけでお問い合わせをいただいたご縁や、当社を求めてくださったお客様との出会いといった、一つひとつのきっかけを大切に、プロジェクト毎に時間をかけて真剣に向き合う中で、次の新しい取り組みにつながってゆく、そんな道のりを歩んできました。
ホテルの客室備品として納品するアイテムに当社ロゴの刻印を許可いただいたことも、大きな転機に。それがイヴレスという会社のブランディングにつながり、多くのお問い合わせをいただく契機となりました。
提供: イヴレス株式会社
また、20余年程前、当時まだ業界では馴染みの薄かった「エコロジー」という概念を取り入れたアメニティポーチを商品化し、今日ではスタンダードなアイテムとなりました。再利用できて清掃業務の効率化にもつながるこのアイディアは、イヴレス史にとって欠かせないキーアイテムとなっています。
サステナブルで普遍的に良いものをつくれば、それは捨てられずに再利用され、大切に使われ続けていきます。洋服にしても、今だけ楽しむファストファッションもいいのですが、ちょっと背伸びして買った質の良いもののほうが、クローゼットの中で長くきれいに残ります。モノの価値は、使った人の満足度や気持ちで決まるのだと私は思います。より安いものを求める世情になった際も、当社は高級路線を貫いてきました。
提供: イヴレス株式会社
すると、「グレードを上げるにはどうしたらよいか?」というお客様からお声がけいただくようになりました。アメニティ類や小物アイテムなど、客室備品を総入れ替えしてクラスチェンジし、一泊の料金を値上げすることに踏み切ったホテル様では、宿泊したゲストの満足度が向上、新たな客層を掘り起こすことにつながり、イヴレスの提供する価値を評価いただける事例も増えてきました。
ビジョンは日めくり。小さな成功体験をみんなで分かち合う
当社は、自由闊達なクリエイティブ集団です。私は社員に対して「いいですね」としか言いません。おおざっぱな性格のため任せきりにしているところもありますが、基本、社員が一生懸命やっていることを否定しません。多くの会社では、せっかく立派な大学を卒業した大人が、入社後、細かく生活様式まで指示されることもあるようです。が、それではクリエイティブな芽は育ちません。のびのびやっていい。それが私自身の、社員と向き合う姿勢です。のびのび自由にできるということは、基本的なことが理解できている証なのです。
会社のビジョンとして大切にしたいのは、「日めくりの自己達成型ビジョン」です。当社の事業は日々の出会いの中でうまれてくるものが大切なので、遠い将来のふわっとしたゴールを掲げるのは社風に合いません。「今日はこれをつくる」といった日めくり型・自己達成型のビジョンを決めて、一つひとつの成功体験を積み重ねることが、後に大きなものにつながると信じています。
自分のつくったものが実際に納品されるところを目で見る。関わった商品がホームページに堂々と載るのを確認する。メディアなどで取り上げられたらそれを社員みんなで喜ぶ。そうした成功体験の共有を大切にしています。そして、その体験を通じて、みんなでイヴレスをより良くしていきたいと考えています。
「おもてなしをカタチに」というキャッチフレーズを掲げて目指す姿は、世界中で愛される老舗ブランドのように、永く変わらず愛され続ける、普遍的な良いモノをつくること。私が死んだ後でも、「このホテル、イヴレスが置いてあるっていうことはいいホテルなんじゃない?」と思われる世界を実現したいと思っています。
提供: イヴレス株式会社
私たちの仕事でおもてなしを大きく変えることはできませんが、手に取る最後のアイテムとして印象に残ることを大切にしています。
幸福の上に成り立つ〝挑戦〟
楽しい世界やアイディアを提供するためには、自分自身も安定して楽しさや幸せを感じていることが必要です。そのためにも、現状に満足しないことが一番大切です。
私にとっての幸福は、よき理解者の夫と子どもたちの存在。もちろん、仕事においても一つの枠には収まりきらない喜びが多々ありましたが、順風満帆に見える時ほど、自分の中では満足しきれない、苦戦する気持ちを抱いていたと思います。
日々変化する社会の中で、旅のスタイルも変わっています。ホテルでの滞在そのものが旅の目的になる施設づくりを目指して、2018年5月に子会社を設立し、ホテルの運営事業を始めました。
提供: イヴレス株式会社
「おもてなしをカタチに」、商品だけでなくサービスそのものを提供する新たな事業展開です。日々進めていることがどんどん拡がり、また新たな困難にもぶつかりますが、人と人との出会い、日々の学びを大切にし、現役であることを楽しみながら、事業を通じて社会に貢献し続けていきたいと思います。
本記事は2022年1月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
表紙写真: イヴレス株式会社
イヴレス株式会社
イヴレス株式会社は、主にホテル等宿泊施設向けオリジナルデザインの客室備品やアメニティ等を企画・提案、販売する客室備品事業を行っております。また、⾧年の客室備品事業で蓄積したノウハウを活かし、宿泊施設の開業時に必要な家具・家電(FFE:Furniture・Fixture・Equipment)及び備品等(OSE:Operating Supplies・Equipment)の調達提案(PA:Purchasing Agent)やコンサルティングを実施する開業支援事業を承っております。2020年8 月より新事業として「旅」特化型SNSマーケティングサービス(postayle:ポステイル)の提供を開始しました。当サービスにより宿泊施設の魅力を伝え、集客を促進し、業界全体の活発化に貢献したいと考えております。 また、子会社のイヴレスホスピタリティ合同会社(本店:東京都港区)では、当社が企画・プロデュースしたリゾートホテル等を受託運営しながら、新たなライフスタイルを提供しております。 今後も付加価値の高い商品・サービスを展開し、地域や宿泊施設それぞれに美しいしつらえ、おもてなしを実現することで「旅」を通じて充実した社会とすることに貢献するべく、事業推進を図って参る所存です。
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