コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
多くの人が抱いているコーチングに関する1つの誤解
コピーしました コピーに失敗しましたコーチングと聞くと、みなさんはどのようなことをイメージするでしょうか。
コーチングを学び始めたクライアントからは「コーチングは相手の行動変容のために、相手の話を傾聴する、話を否定しない、コミュニケーションのスキルである」といった解釈をよく聞きます。そして、その後に「そのスキルの習得はなかなかに困難である」というコメントが続くことが少なくありません。
ビジネスにおいて日常的に使っている指示命令に代わる手法として、コーチングを適用するのが難しい、というのがその主な理由です。これまで、自分が指示を出して、部下の課題解決にあたってきた上司側のとまどいが感じられます。
一方で、自社の風土変革に取り組む中で、部下の行動変容を実現し、成果を上げているクライアントもいます。その中の1人であるBさんがこんなことを話していたのが印象的でした。
「部下に対して『変わって欲しい』と願っても、たいていはうまくいかない。コーチングを実践していくと、『変わって欲しい』と願うこと自体が、リーダーとしてあるべき姿なのか?と自問するようになった」
という内容でした。
部下の行動変容を目指すという共通の目標がありながら、その実現に困難を感じるリーダーと、成果を手にするリーダー。両者の違いは、次のように表現できると考えます。
相手のビヘイビア(行動)を改善すべき問題ととらえ、それを解決することにフォーカスしているリーダー。
相手のビヘイビア(行動)を改善すべき問題ととらえている自分を認識し、なぜそうとらえるのだろうと、自分にフォーカスを向けるリーダー。
つまり、前者はコーチングを通じて、相手を変える手法について学習しようとしているのに対し、後者は自分自身について学習しようとしているという違いです。
では、相手を変える手法を駆使しても、なかなかうまくいかないのはどうしてでしょうか。そもそも人は、変化に対して抵抗感を持つものです。その変化を自分以外から求められれば、抵抗感はさらに増します。例えば、上司があなたを変えようとしてアプローチをしてきた時に、あなたはどう感じるでしょうか。恐らく、この手法がうまくいかないことが想像できると思います。
つまり、コーチングとは、相手を変える手法ではなく、「自分自身について学習する」という意味合いが大きいといえるのではないでしょうか。
自分自身についての学習とは
では、自分自身についての学習とはどういうことでしょうか。それは、以下の3つのステップに分けることができると私は考えます。
- 起きていることについて、自分もその一関係者であるという立場を取る。
- 起きていることに自分が持ち込んでいる影響や意図を、関係者の立場で認識する。
- これから先に、何を持ち込むのかを選択する。
人は、人と対峙する際に良い/悪い、正しい/間違っている、上か/下かという二極で考えがちです。上司が部下の行動変容を求める場合も、相手(部下)と自分(上司)を分け、二極の立場をとりがちなのではないでしょうか。
つまり、上司である自分が「正しい」。この行動をとっている部下は「間違っている」といった認識です。
それに対して上記の1.は、相手と自分を分けるのではなく、一緒に作り出している、という立場を取るということです。
また、1.の立場を取ることによって、2.に移行することができます。ともに作り出しているのであれば、そこに自分が持ち込んでいるものは何だろうか?と考えることができます。
そして3つめのステップとして、起こっていること、起こしたいことの目的を考えた時に、これまで自分が持ち込んできたものを続けるのか、他のものを持ち込むのかを選びなおすという段階に進むのです。
前述の部下の行動変容を実現したBさんの行動で言えば、
- 部下のビヘイビア(行動)は、部下と自分がともに作っているという立場を取る。
- 自分が部下との関係に持ち込んでいる影響や意図を認識する。
- その関係性において自分が今後持ち込むことを選択する。
ということになります。
このステップを経て、Bさんが選択したことは、
「部下を変えないといけない」というこれまでの考えではなく、「部下を活かすために自分がいる」という考え方でした。その選択の後、部下の変化を通じて風土改革を成功させていきました。
いかに自分自身についての学習機会をつくるのか
実は、Bさんがこの選択をする前に、私は以下のような質問をしていました。
「部下についてあなたが感じている課題は、本当は誰のために解決しようとしているんですか?」
「あなたは何のために、部下の課題をいつも指摘しているんですか?」
Bさんは、しばらく考えたあと、こう答えました。
「上司は部下よりも実力があって、常にできていないといけない、という自分自身の思い込みがあるかもしれない。」
人は無意識のうちに、自分自身の考えや感情と一体化して生きています。そのため、そのこと自体に距離を持って考えたり、客観的にとらえるには、自分以外の何かを活用する必要があるでしょう。
例えば、ネクタイの結び目を確認する時、私たちは鏡に自分の姿を映して、必要な修正をします。それと同様に、自分の考えやものの見方、感じていることを客観的に認識するためには、それらを写し出す鏡のような存在が必要です。
Bさんのケースから、自分自身について客観的に認識するために、他者(コーチ)との対話が重要な役割を担っていることが分かります。
他者との対話を通じて、自分が相手との関係において持ち込んでいるものを客観的にとらえることができれば、それが目的にかなっているのかどうかを選択することができます。そしてそれは、相手の行動変容につながっていくのだと思います。
多くの人と関係しながら成果を出すリーダーにとって、より望ましい選択をもたらすものが、自分自身についての学習であり、コーチは自分を映す鏡となってその学習を支援するのです。
相手を変えるためにコーチングを身につけるのか、
自分を変えるためにコーチングを活用するのか。
リーダーとしてみなさんはどちらを選択しますか?
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。