コーチングカフェ

コーチによる、日々のコーチングの体験を通じて学んだことや感じたことについてのコラムです。


ボディビルディングから学ぶ、人を動かす言葉の力

ボディビルディングから学ぶ、人を動かす言葉の力

みなさんはご存じだろうか。「デカイ!」という掛け声を。

そう、「デカイ!」とは、筋肉の大きさと脂肪の少なさを競うスポーツ、ボディビルディングの試合で観客が選手に向ける応援の掛け声である。

この三文字、選手にとっては最大の賛辞であり、これまでの全ての努力を認めてもらう承認であり、初志と理想を想起させるものでもある。

それだけではない。

この言葉を架け橋にして、会場では観客と選手が一体となるのだ。

私は、大学時代にボディビルディング部に属し、全国学生ボディビルディング大会にも出場したことがある。

私は今、組織を動かすリーダーをコーチしている最中に、ふと、あの「デカイ!」という言葉を思い出す。

「伝えたつもりが、全く伝わっていない...」
「そんなつもりで言ったわけではないのに...」

リーダーが組織で自分の思いを伝えていく時に、つぶやく場面である。

組織で共有する言葉に、どんな意味を込めたいか?
また、伝えたいことを如何に相手に伝えるか?

ボディビルディングでの応援を足がかりに、考えていきたい。

「その言葉」に、何を込めているのか?

まず、冒頭の「デカイ!」に戻ろう。

「デカイ!」を広辞苑で紐解くと、「大きい意の俗語。甚だしい。でっかい」とある。つまり、言葉としては、シンプルに「筋肉が大きい」という意味だ。

しかし、ことボディビルディングの世界で、この三文字が意味するところは、甚だ広く、ハイコンテキストなものなのである。

「デカイ!」には、私が思いつくだけでも、以下のような意味合いが込められている。

  • 「筋肉がすごい!」という驚愕の気もち
  • その驚愕を、試合会場の皆と共有したい気もち
  • 試合の審判員に対する、仲間のすごい点のアピール
  • それだけの筋肉を創り上げたことへの賞賛
  • 大会出場までの道のりを思い出しての尊敬の念
  • 筋肉は大きいが、仕上がりが甘いことへ気合をいれる思い
  • 「俺たちはセンパイとして一年生のお前を心から応援しているぜ!」という励まし
  • 「お前、減量さぼっただろ。本当は、そんなもんじゃないはずだ!」という叱咤
  • 「お前はもっと上を目指せる身体をもっているはずだ!」という期待
  • 「今日が最後の大会だな。悔いの残らない戦いをしてほしい」という願い

このように、「デカイ!」という短い言葉に、人は、十人十色の気もちを託している。そしてそれは、自分と相手、あるいはチーム全体に共有されている。それぞれの関係性によって、そこには様々な意味合いが存在するのだ。

般若心経は、僅か300字足らずの本文に大乗仏教の心髄が説かれており、宇宙の真理を語るともいわれている。

ボディビルディングに携わる者は、「デカイ!」のたった三文字に、それぞれの、万感の想いをこめるのである。

そして、この言葉だけで、分かり合えてしまうのである。

さて、あなたのチームは、あなたの会社は、互いを分かり合える「共通の言葉」をどれだけもっているだろうか。

その一言だけで、あなたの気もちが伝わり、それを聞いた各人それぞれに解釈の余地があり、さらに、チームを、会社を、共通の目的に駆り立てる言葉である。

心理学者のケネス・J・ガーゲンは、「言語を含むあらゆる表現は、人々の関係の中でどのように用いられるかによって、その意味を獲得する」と主張している。(※)

私たちが日常使っている言葉は、自分が所属しているコミュニティの文化に基づくものであり、対話という互いの言葉のやり取りの中で、話し手と聞き手が相互に作用しながら「意味」を形成しているということだ。

つまり、「言葉」とは絶対的なものではなく、人々の関り合いの中でつくられた相対的なものなのである。

あなたは、どんな言葉を選んでいるだろうか?
そして、そこにどんな意味合いを込めているだろうか?
そしてそれを、誰と創っていきたいだろうか?

「デカイ!」をいかに伝えるか?

さて、またも「デカイ!」に立ち返ろう。

この三文字には、そこに込めた意味合いだけでなく、言い方(伝え方)にもバリエーションがある。

たとえば、

  • デカイ(平坦に)
  • デカイ!(声を張り上げて)
  • デカイ!(野次るように)
  • デ・カ・イー!(テンポよく)
  • デカッ!(驚いたように)
  • デ、デカーイッー!(怪物に会ったように)
  • ・・・でかい・・・。(ごくりと生唾を飲み込むように)

等々。

その言い方(伝え方)も、100人100通りともいわれている。

歌舞伎で、客席から「成田屋ぁ!」などと声をかけるのは、「大向こう」と呼ばれる芝居通だそうだ。元NHKアナウンサーの山川静夫氏は、大向こうの会に所属している。同氏は、「自分の『間』を見つけること」が重要であり、大きい声を出せばいいものではなく、「ちょっと控えめにすることが粋。音量も回数も」と語っている。

かくも、「伝える」ことは奥深く、難しいものである。

あなたが仕事で大切にしている言葉。
あなたは、それをどのように伝えているだろうか?

場所、タイミング、相手によって、あるいは、相手の一瞬の表情をとらえて、伝え方を工夫しているだろうか?

大切なのは、「自分は伝えた」ではなく、「相手に伝わったかどうか」なのだ。

「何を伝えたいか」と「伝え方」。

どちらがではなく、共に重要なものなのかもしれない。

あなたが本当に伝えたいことは何なのだろうか?
それを今この瞬間、目の前の相手にどう伝えるとよいだろうか?
あなたの意図を別にして、相手には何が伝わっただろうか?
相手に本当に伝わったかどうかを、あなたは何で知ることができるだろうか?

思いを伝える。

そこには実現したいことがあるはずだ。

あなたが、組織で本当に実現したいことは何だろうか?
また、それを誰と一緒に実現したいだろうか?

ここまで読んでくださったあなたへ・・・
「デカイ!」(せいいっぱいの、感謝を込めて)

【参考資料】
『あなたへの社会構成主義』
ケネス・J. ガーゲン (著)、東村 知子(翻訳)

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

コミュニケーション スポーツ フィードバック マネジメント 信頼関係 承認

関連記事