コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
人は、一人じゃ変われない
2017年12月07日
「コーチングで、本当に人は変われるのでしょうか?」
コーチの仕事をしていて、もっとも多く聞かれる質問のひとつです。
私は、「本人が変わりたいと思っている、かつ、周囲の人がフィードバックをする用意があれば、変われます」とお答えすることにしています。
そもそも、変化とは何か。
ここでは、内面的な変化は一旦脇に置き、外から見てわかる、行動の変化や表情、話しかけやすい雰囲気といったノンバーバルの変化と定義します。
「カミソリ」の目に留まった一言
以前コーチさせて頂いたAさんは、最年少で執行役員に就任したという、目つきの鋭い、一見近寄りがたい雰囲気の方でした。誰が何を聞いても間髪いれずに回答し、周囲からは陰で「カミソリ」と呼ばれ、上司からも怖れられていました。
エグゼクティブ・コーチングでは、周囲の関係者による360度のアセスメントやインタビューを実施します。
Aさんの初回のアセスメント結果には、
- とてつもなく優秀
- 近寄りがたく、話しかけにくい雰囲気を感じる
- 間違ったことを言うと、厳しい指摘を受ける
といったコメントが多く、周囲から距離を置かれている印象が伝わってきました。
ただ、その中でひとつだけ、
「普段は怖い人ですが、本当は優しい面を隠しているように見えます」
というコメントがありました。
Aさんはしばらく無言で、そのコメントを眺めていました。そして、ボソッと話し始めました。
「この人は、本当に僕のことよく見ているんだなぁ。
誰も僕の内面はわかっていないものだと思っていたよ」
「カミソリ」は何を思ってきたのか?
「誰も僕の内面はわかっていない」
私はこの台詞を聞いて、Aさんが無意識に「カミソリ的な自分」を選んでいるように感じました。そこで、彼に問いかけました。
- Aさんは、いつから今のプレゼンスを選んでいるのですか?
- Aさんはどのようにして近寄りがたい雰囲気をつくっているのですか?
- Aさんのプレゼンスは会社の業績を上げ続けるプレゼンスでしょうか?
長い沈黙の後、彼の本音らしい一言がポロッと聞こえました。
「僕はずっと憧れの上司の真似をしてきたんだなぁ...本当はもっと自分らしく、楽になりたいんだよね」
そして、最年少で部長になったこと、そこからどんどん頭角を現わしたこと、周囲から「なめられてはいけない、馬鹿にされてはいけない、誰よりも優秀であらねばならない」と自分自身にプレッシャーをかけながら成果を出し続けてきたこと...。
Aさんは、しばらくの間、自分のことを話し続けました。
Aさんが一通り話し終わった後、私は聞きました。
「Aさんは、いつまで戦い続けるのですか?」
また、沈黙がありました。
「...このポジションまできて、もう誰とも戦う必要はないですね...」
「変わる」ための条件とは?
「啐啄(そったく)」という言葉があります。
広辞苑には「啐」は鶏の卵がかえるとき殻の中で雛がつつく音、「啄」は母鶏が外から殻をかみ破ること、と書かれています。
卵の中の雛が、身体の準備が整い殻を割ろうとするタイミングで母鶏が外から殻をつつき、雛がスムーズに外の世界に出てこられるように手伝います。
そのタイミングは、雛の「かえりたい」という意志から始まるのでしょう。
コーチングでも、クライアントが「変わろう、変わりたい」と思っている、まさにその瞬間に周囲が適切なフィードバックと問いかけをすることで、その変化を速めることができます。
それは、クライアントの側に「変わりたい」という意志がなければ実現できません。
3ヵ月後、Aさんは、
「自然体でいると楽なものだね。部下が頻繁に相談に来るようになったから、社内で何が起きているのかよく見えるようになったよ」
と嬉しそうにおっしゃっていました。
部下の方も
「Aさんはとても話しかけやすくなりました。何よりも、僕達の話を聞いてくれるようになったのが嬉しいです。今のAさんが、実は自然体のAさんなのかもしれません」
とわざわざ報告してくれました。
あなたは、誰と一緒に変わりますか?
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