コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


対話の土台を作る「記号解読」とは?

対話の土台を作る「記号解読」とは?
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私の母国語は中国語です。しかし私は、第二言語である日本語を使ってコーチングをしています。日本語を習得する過程で、私は言語を「理解する」、相手を「理解する」、そのプロセスに興味をもつようになりました。なぜなら、あらゆるコミュニケーションと、そこから生まれる関係性は、「理解」があって初めて成り立つからです。

すべてのコミュニケーションは、理解から始まる

第二次世界大戦中を舞台にした、ドイツ軍の暗号機「エニグマ」の解読をめぐる映画「イミテーションゲーム」には、こんなエピソードがあります。

「エニグマ」は、組合せによって15京9000兆通りの暗号があり、解読不可能とされていました。暗号の解読を進める連合国軍側の主人公、アラン・チューリングは、コンピューター科学と人工知能の父と呼ばれている実在人物です。

彼が発明した暗号解読機は計算スピードが追いつかず、失敗を繰り返していました。ある日アランは、暗号を傍受する女性職員が、「私が受信する暗号は毎日"CILLY"という五文字から始まっているから、ガールフレンドの名前かと思った」と、雑談で話しているのを耳にします。この発言からアランにアイディアが閃きました。ドイツ軍が毎日繰り返し使っている言葉と暗号の組合せから、「暗号」=「意味」の対応関係を編み出すことを経て、短時間でエニグマの解読に成功したのです。

このエピソードから私が考えたのは、すべてのコミュニケーションは、「暗号解読」のように相手が発した「記号」を理解することから始まるということです。では、「記号の理解」とは一体どういうことなのか?どうすれば相手の「記号」をよりよく理解できるか、私自身が日本語学習において経験したことを交えながら紐解いていきます。

理解とは、ズバリ記号解読

「記号の理解」のプロセスとして、私が大学時代に日本語のネイティブスピーカーと毎日会話した経験を思い出しました。会話の中には、知らない単語がよく出てきますが、毎回聞く訳にもいかないので、相手が前後に使っている言葉や話の流れ、表情、行動を見て、推測していました。

例えば、しかめっ面でキョロキョロして「困った」と言えば、その状況は「KOMATTA」なんだと認識します。その人に別の場面で使ってみたら、「どうして?」と困惑した顔で反応され、「この状況はKOMATTAと少し違うんだ」と微修正してみたり、そんなことの繰り返しでした。

この場合、「困った」は言語的な「記号」で、「しかめっ面でキョロキョロする表情」は非言語的な「記号」と言えます。

これらの「記号」は、目に見えない相手の認識を表しています。言語学では、シニフィアン(記号表記)とシニフィエ(記号内容)という概念で知られています。この「記号」=「認識」の対応関係を心得れば、相手の話を理解する「鍵」を手に入れることができます。そして、お互いが「記号」=「認識」の対応関係を確かめ合ったり展開させたりすることが、対話を深めていく過程で起きているのではないでしょうか。特に、「価値観」や「ビジョン」等、抽象的な概念について対話する時は、相手が口にする「挑戦」「価値」「重要」といった言葉は、どんな意味なのか、なかなか簡単に理解できるものではありません。

そこで、相手の「記号」を解読する必要性が生まれます。

解読するには、相手に関心を持つ

エニグマ解読成功の主役は、アランと仲間たちだけではなく、通信傍受を担当した女性職員でもあると思います。

彼女は「毎日暗号を傍受していたので、名前も顔も知らないドイツ軍の暗号発信者を恋人のように感じ始めていた」と話していました。その彼女が、相手にガールフレンドがいるかどうか興味を持たなければ、CILLYの繰り返しに気づかなかったでしょうし、エニグマの解読は成功までにもっと時間がかかったかもしれません。

コミュニケーションにおいても、日頃相手をどれだけ観察し、相手の発する言葉にどれだけ関心を持って耳を傾けているかによって、集められる「記号」の量と解読の勝算がかなり違ってきます。「記号」=「認識」の対応関係をたくさん知っていればいるほど、相手の話もより理解できるのです。

言葉そのもの以外に、私たちが無意識に発信している「記号」はたくさんあります。表情もそうですが、話の前後関係、語尾、タイミング、声のトーン、身につけている服やアクセサリー、行動パターン、書面の場合は文字の大きさやフォント、色、改行の場所、絵文字、紙の質感、ファイルの形式など。その人が表現しているもの全てが「記号」になるとも言えるでしょう。

ヒントは「繰り返し」にある

とは言っても、私たちの脳のキャパシティは限られているので、全ての「記号」に目を向けることは難しいでしょう。アランの暗号計算機が計算スピードに追いつかなかったように、外国語学習の初期の頃や、まだよく知らない相手との対話は、まさに理解すべき「記号」が溢れていて、どこから着手したらいいか見当がつかなくなります。

アランの場合助けになったのは、毎日「繰り返し」使われていた暗号でした。

コーチングの対話の中でも、相手を理解するためには「繰り返し」現れる「記号」がよく助けてくれます。ある大手企業の営業所長Aさんに、初めてコーチしたの時の話です。営業先に向かう車の中から電話をしていたAさんに、いくつか質問をして話を聞いていく中で、Aさんから何度も「『Aさんがコーチング・プログラムをやって本当によかった』と部下に言ってもらいたい」という発言が繰り返されていました。

その「記号」の「繰り返し」をキャッチした私は、

「Aさんはとても部下思いですね」とフィードバックしました。すると、しばし沈黙が続いた後、「今まで言われたことがないです。今言われて思い出したけど、僕の小さい頃ね・・・」と、子ども時代のエピソードを話してくれました。この話をした後のAさんは、二回目以降も私に色々なことを本音で話してくれるようになり、毎回のコーチングは対話が深まる時間になりました。

無意識的に繰り返された「記号」には、相手にとって何か大事な意味が込められています。その「記号」を関心をもってキャッチし、「記号」=「認識」の対応関係を理解して初めて、対話の土台が作られるのではないでしょうか。

さあ、みなさんは、誰と対話を深めたいですか?
今からすぐ彼・彼女が発信する「記号」に目を向けましょう。


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