コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


あなたの「正しい」は本当に「正しい」のか?

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今月、トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認めるという宣言を行ったことで、当地をはじめ、世界中でたいへんな騒ぎになっています。

アメリカは世界のリーダーと言われ、またそれを自認していますが、その信頼はここにきて大きく揺らいできています。「アメリカ・ファースト」という言葉に象徴される自国第一主義が、世界の国々に不安と懸念を与えているからです。

なにもアメリカだけではありません。今年は、世界中でさまざまな対立が拡大した一年でした。

対立の背景にあるもの

国のレベルであっても、個人のレベルであっても、「対立」の起こる背景には、双方の「自分が正しい」という認識が横たわっています。

  • これは「絶対に正しいこと」だから、良い結果を生むに決まっている
  • これは「正しいこと」なので、周囲にとっても、有益なはずだ
  • これを理解せず、受け入れないなんて、相手がどうかしている

仕事柄、企業のエグゼクティブとお話しする機会が多くありますが、そういう場でも、こうした話をよく聞きます。

  • 社長として、リーダーとして、部下に「正しいこと」を教えてあげているのに、どうして部下が反論してくるのか理解できない
  • 上司は、どうしてこんな簡単な「正しいこと」が理解できないのだろう

読者のみなさんにも、思い当たる節はないでしょうか?

人は、物事をいったん「正しい」と思ってしまうと、そこから抜け出したり、他のアイディアを受け入れにくくなったりするものです。そして、「正しいこと」の押し売りが始まり、周囲にそれを受け入れるよう迫る傾向があります。その結果、不要な周囲とのコンフリクトや緊張が引き起こされる可能性が高まります。

実は、これは私自身の経験でもあります。前職のコンサルティング業界において、常に自分の信じる「正しいこと」を探し、それを掲げつつ、クライアントや同僚に主張・説得していたことがありました。それこそが自分の価値であり、あるべき姿勢だと信じていました。

しかし、それを続けていくうちに、多様な視点を受け入れることができず、変化に応じて学び続けることが難しくなっていきました。その結果、クライアントへの提案が型にはまった硬直的な内容となり、目の前のタスクをこなしているだけのような感覚に陥っていきました。

最終的に、仕事に対する情熱がだんだんと冷めていき、そんな自分に疑問を抱くようにもなりました。

その後、コーチングに出会い、学び、コーチングを受ける経験を重ねていくにつれ、それまでの自らの視点の低さ、ものの見方や考え方の偏りに気づいていったのです。自分自身と正対し、より深く自分を知るプロセスを経て、ようやく自分自身が信じていた正しいことの意味を自問自答できるようになりました。

「正しいこと」を押し通すことで、何が得られるのか

先日、在米日系子会社のトップを務めているあるクライアント様から、「本社主導の駐在員に関する人事異動に強く抗議した」という話を聞きました。

「本社は、現場の事情にも疎く、短絡的にこの異動を押し通そうとしています。でもそれは、異動を命じられた駐在員のキャリア的にも、組織全体へのビジネスインパクトとしても、まったく理にかなっていないんです。」

その方は、いかに自分の考えが「正しく」、本社が間違っているのかを、懇々と私に訴えてきました。

そこで私は、次のような問いを投げかけながら、その方と一緒に「正しさ」について考えていきました。

  • その「正しいこと」は、「唯一絶対」なのだろうか
  • それを「正しい」と考える価値観や見方は、どういったものなのだろうか
  • 「正しいこと」を押し通すことによって、何が得られるのだろうか
  • 「正しいこと」を主張しているとき、相手の目にはどう映っているだろうか
  • それは、自分の望む理想の姿なのだろうか

しばらく考えたのち、その方の口からは、

「自分の基準や価値観で、すべてを判断しているだけなのかもしれない。」

「少なくとも、相手に対する配慮を怠った態度・行動は、今後、控えるべきだと思った」

という言葉が出てきました。

多様な価値の存在と、変化し続ける社会

世の中はますます多様化し、変化のスピードも増し、価値観もどんどん変わっていく時代です。ある時期に「正しい」とされたことも、しばらくすると「正しくない」ことになる可能性があります。たとえば、日本では長年にわたり、終身雇用を前提とした経営を「是」とするコンセンサスがありました。しかし現在では、才能ある人材を世界中から中途採用することが当たり前になってきています。

さまざまな変化の中で、リーダーや経営者は、最適な選択や意思決定を瞬時に、かつ、連続的に行っていく必要に迫られています。

したがって、過去の成功体験は、決して現在も通用する「正しいこと」とは限りません。常に新しいことを柔軟に学び、より良い手を打ち続けられる能力を高めることが求められています。

そうした能力を高めるためには、何が必要か?

一つのヒントが「対話」であると私は考えます。

対話を通して、お互いが考える「正しいこと」を知り、気づき、そこから新しい価値を生み出し続けていくこと、さらに、周囲にそれを促していくことが、リーダーには必要ではないでしょうか。

継続的な成長を続けている企業には、経営者やリーダーたちが常に「対話」している風土があります。

「対話」は、相手や周囲の人と共に新たなものを創造していくために不可欠なものであり、新たなアイディアや成長の芽を継続的に生み出していくことにつながります。

皆さんも、自分の中にある「正しいこと」と、相手の中の「正しいこと」との間で、「対話」による化学反応を起こしてみませんか? 今まで見えなかったものが見えてくるかもしれません。


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