コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


一人で考える、一緒に考える

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同じ本を繰り返し読むのが好きではない。

そんな私が小学生の時に、ページを捲るワクワクを感じ続けながら繰り返し読んだ本がある。それが「ねえ、どれが いい?」という絵本。この絵本だけは、飽きることなく何度も読んだ。

この絵本は、「もしもだよ」という言葉で始まり、「ねぇ、どれが いい?」と、とんでもない選択肢の中から、好んでは選びたくない「何か」を選ばされる。

「もしもだよ、
ゾウにお風呂のお湯を飲まれちゃうのと、
ワシにご飯を食べられちゃうのと、
ブタに服を着られちゃうのと、
カバにベッドを取られちゃうとしたら、
ねえ、どれが いい?」

という具合だ。

「どれも全部嫌だ!」

と思いながらも、

「どれがマシかな?一つ選ぶとしたらどれがいいかな?」

と、頭は勝手に考え始める。そして、

「ゾウにお風呂のお湯を飲まれちゃうのがいいかな?
お湯は減るけど、ゾウに会えるのは嬉しいし」

と、小学生なりに考えて選ぶ。

答えに正解はなく、次のページを捲るとまた、新しい選択肢で問いかけられる。

不思議なことに、毎日のように読んでいると、同じ選択肢であっても徐々に選ぶものが変わってくる。読むたびに「ねぇ どれが いい?」と問われるので、毎回、どれがいいだろうか?と改めて考える。

「やっぱりゾウかな?
いや、待てよ、ゾウに全部お湯飲まれちゃったらどうする?
そしたらお風呂に入れなくなるから困るな。
じゃあブタの方がいいかも。
洋服はどうせ一回に一着しか着られないよね。
ブタに自分の服を着られても他の服を選べばいいもんね」

自分の中での問いがどんどん変わっていくのだ。そして、問いによって、何を選ぶかも変わっていく。

友だちと一緒に読むと、更に、選択は変わる。

友だちと一緒に絵本を開き、わずかなシンキングタイムを取った後、一斉に

「これだ!」

と選択肢を指差す。すると、みな思い思いに選ぶので意見が食い違う。自分としては考えに考え抜いて

「絶対ブタが良い!」

と選んでいるが、友だちの一人は

「ワシが良い!」

と言う、また別の友だちは

「カバが良い」

と言う。

「ブタに洋服着られたら、洋服が破れちゃわない? でもカバにベッドを取られても、お父さんと一緒に寝られるからいいよ」

などと、それを選んだ理由を聞くと、

「なるほど、それもいいかも」

と、思考の幅が広がり、新しい解釈が生まれ、選んだものへの確信がゆらいでくる。

ある時などは、一人の友だちが、絵本にはない選択肢を出してきた。

「イヌにランドセルを取られるのはどう?」

なんと、友だちが自分で創りだした、新たな選択肢だ。

「どれがいい?」

と聞かれているのだから、絵本の中からしか選べないとばかり思っていた私は、突然「イヌとランドセル」を提示されて、ガーンと頭を殴られたような気持になった。他の子も同じだったのか、一瞬の静寂があった。そして、今度は全員が次から次へと、絵本の枠を超えて自由に選択肢を考え始めた。

「ランドセルはイヌよりサルの方が似合いそうじゃない?」
「イヌにジュースを飲まれるのはどお?」
「イヌはジュース飲まないよ!」
「もし飲んだとしたらどうだろう?」

ああでもない、こうでもないと言い合いながら、次々に新しい選択肢が出てきて、それを選んだらどんなことになってしまうのか、ケラケラ笑いながら想像する時間が本当に楽しかった。

* * *

コーチという仕事をするようになって、この遊びを時々思い返す。

絵本を捲りながら自分の中でしている問いや、その時々の価値観、解釈が、「何を選ぶか」に大きく影響していたと思う。

自問自答で様々な角度で考えることで思考が深まり、選ぶものはその都度、変わっていった。

一方、誰かと対話をすると、新たな価値観や解釈が生まれ、思考の幅が広がっていったのだと思う。そこにも、新たな選択肢が生まれた。

私たちは大人になるにつれ、これまでの経験・知識から物事を考え判断することが多くなる。自問自答しながら思考を深めると共に、時にはそれを脇に置いて、誰かと対話することで得られる可能性にも目を向けてみるのも良いのではないだろうか。

一人で考えると思考は深まる。
誰かと一緒に考えると可能性が広がる。

ねえ、どれがいい?

著者: ジョン バーニンガム
翻訳: まつかわ まゆみ
出版社: 評論社


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