コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。
あなたの「やりたい」はなぜ実行されないのか
コピーしました コピーに失敗しました「分かっちゃいるけどやめられない」
「●●しようと思ってるけれど、なかなかできない」
これは、多くの方が日常的に感じたり、耳にする言葉かと思います。
「早起きしようと思っているけれど、なかなかできない」
「仕事を早く切り上げようと思っているけれど、なかなかできない」等の類です。
私たちが、コーチとしてクライアントと接する中でも、この言葉はよく聞きます。
クライアントのAさんは「部下の主体性を引き出し、部内で活発な議論が交わされるようになる」ことを目標にしていました。そのためには、「自分が話す量を減らして、部下の話に耳を傾けたい。」と言っていました。しかし、Aさんが直面していたのは、
「気づけば、自分がアドバイスしている」
という状況でした。
ハンドルを右に切ろうとしているのに、左に切らせるものが何かあったようです。
行動を阻害する要因とは
では、何が私たちの行動を阻害するのでしょうか。行動を阻害する要因は、ケースバイケースであり、種々考えられます。
- 「なぜ行動するのか」や「行動することの価値」について、実は腹落ちしていない。
- 「具体的に何をやるのか」を明確にしていないために、行動する意識が薄れてしまう。
- 行動の「優先順位づけ」ができておらず、行動するための時間を確保していない。
- 「行動しないことで得られる今の平穏を保ちたい」という慣性の力学が心理的に働き、無意識のうちに現状維持を選んでいる。等等
上記Aさんの場合は、「『具体的に何をやるのか』を明確にしていない」ということに気づきました。
では、どの程度具体化すると、人はその行動を起こしたくなるのでしょうか。
行動している場面をビジュアライズする
コーチングには、クライアントの行動を促進する手法の1つに「ビジュアライズ」というものがあります。
ビジュアライズとは、クライアントの目標とそこを目指すプロセスをより鮮明で具体的に していく手法です。コーチは、相手の中に目標についてのイメージを生み出すために、細部にわたって具体的な質問をします。目標のイメージが漠然としたモノクロの静止画だったとすると、質問を繰り返して画素数をあげていきます。カラフルで鮮明な画像に変換し、欲を言えば、視覚以外に聴覚・嗅覚等も感じ取れる動画に昇華させるように、クライアントと対話を繰り返します。
先ほどのAさんが「部下の話に耳を傾けている場面」をどのようにビジュアライズしたのかを、ご紹介します。
Aさん 部下Bの話を、ちゃんと聞かなきゃと思っているんですよ。
Bさんの話、どんな場所だと耳を傾けやすいでしょう?
Aさん 静かな場所の方が集中しやすいから、会議室かなぁ。
Aさんが話を聞くときの姿勢はどんなでしょうか?
Aさん 腕は組まない方が威圧感を与えないからいいだろうね。肘かけに置くかな。
聞く姿勢は、こんな感じですか?(Aさんの話から想像する姿勢を実践)
Aさん いや、こんな感じ。(Aさんなりの座り方を実践)
Aさんは目線をどこに向けて聞いているんですか?
Aさん Bの目かな。ただし、威圧感を与えないよう表情は柔らかくいかないとね。
Bさんの話に耳を傾けている間、Bさんはどのような様子でしょうか?
Aさん Bはシャイなので、言葉がスラスラとは出てこないかもな。
そのとき、Aさんはどういう気持ちになっているのですか?
Aさん もどかしさじゃないかな。でも、急かさないで聞くことに徹することが必要だろうな。
他に、話を聞けている状態を実現するために必要なことはありますか?
Aさん そもそも、作業を仕掛かっている状態で、その場に臨まないことも重要かな。心がモヤモヤしていると、そちらのざわつきに耳が傾いてしまいそうだ。
上記会話は一部のみの紹介ですが、Aさんとコーチは、部下Bさんの話に「耳を傾けている場面」を徹底的に具体化しました。
Aさんは、「耳を傾ける」ことの具体的な実践イメージが持てたことで、行動に取り掛かりやすくなったようで、その後実行に移すことができました。コーチとの対話が予行演習としても機能していたようです。
イメージを具体化する方法には、自分一人で考えたり、ノートに向き合ったりする等の手段もあります。しかし、他者と対話して質問に答えることにより、自分が曖昧にしか認識できていなかったことや、死角になっていたことを言語化できるようになります。
あなたのなかなか達成されない行動を促進するために、誰と話をしてみますか。
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