コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


シロクマにもペンギンにもコーチが必要

シロクマにもペンギンにもコーチが必要
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心に残る一枚の絵

わたしは絵が大好きである。描くのが好きだし鑑賞するのももちろん大好きだ。

日本美術においては、特に江戸後期から明治初期まで個性豊かな画家たちがいて、光琳の装飾感覚、色使い、北斎の『富嶽三十六景』、暁斎の遊び心溢れる動物画、いくら観ても飽きないのである。

しかし、近代になるどうも素直に好きなれない作品が多い。青木繁の『海の幸』は不気味だし、萬鉄五郎の『裸体美人』はどうみても美人ではない。そんな日本の近代美術を敬遠しているわたしを変えた、一枚の絵がある。

それは、山口蓬春の『望郷』である。

山口蓬春の『望郷』はこちら
(山口蓬春記念館のウェブサイト

青空と日食、氷の大地に黒い穴が開き、その穴の近くに大きなシロクマがドカーンと座っている。シロクマは日食を見上げるのではなく、空の違う方向を眺めている。また、口元には、寂しげな微笑みが浮かんでいるようだ。そして、シロクマの遠い後ろには、小さなペンギンが2羽。彼らもシロクマと同じ方向を眺めているように見える。

この絵を見た瞬間に、わたしの心にドスンと大きく鈍い衝撃があった。そして、その情景は目に焼き付いて、忘れられないものとなった。

「これって日本画なの? 本当は今時の人が描いたイラストじゃないの?」
「なんで北極のシロクマと南極のペンギンがいっしょにいるの?」
「日食なのに、だれも見てないじゃないの!」
「望郷って、だれがどこの故郷を思いはせているの? 北極? 南極? それとも地球?」

突っ込みどころが満載である。

この絵はシンプルな色彩にもかかわらず、複雑で鮮やかな世界観を示しているような気がして、見れば見るほど、心惹かれていく。そして、眺めているうちに、このシロクマは、もしかしたら蓬春の自画像かもしれないとふと思った。

伝統と闘い続けた蓬春

仕事柄、アジア各地に旅していた蓬春。旅の途中では、予想もしないさまざまなものや人(ペンギン)に出会っただろう。彼は、戸惑いながらも、故郷を心にしまい、常に新しい日本画の創造を模索し、走り続けた。やがて「蓬春モダニズム」という、現代的で洗練された画風を作り上げ、名誉を手に入れながらも、ずっといろんな見えないものと戦っていた。

「その孤独なシロクマ(蓬春)に、もしコーチがついていたら、もっと早く目指す場所にたどり着いたかもしれない」と、心からそう思った。

蓬春よ、その絵を書いたあなたの気持ち、すごく分かるかもしれない。

迷えるシロクマだったわたし

わたしは、中国の出身である。18年前に日本にやってきた。当時は、スマートフォンもなく、ネット通販も一般的なものではなかった。日本で進学したり、就職したりするために、いろんな法律を調べなくてはならなかった。

会社では、「日本人と同じ評価をされていないのでは」と被害妄想を抱えながらも、上司に相談できない自分がいた。同じような大地と空でも空気は違うのだと、戸惑いでいっぱいだった。当時のわたしは、まるで南極に迷い込んだ一匹のシロクマのように、いつまでもオロオロしていた。

迷ったりぶつかったりしながら、それでもここで頑張ろうと決めてから、わたしは少しずつ逞しくなっていった。

当時、勤めていた海外子会社の責任者まで上り詰め、末端の社員の作業効率を最大化するために、膨大なシステムと評価制度をつくり上げた。その職場では、彼らと会話するどころか、笑顔一つ見せることがなかった。いつの間にか社員の離職率が上がり、「増員 ⇔ 離職」という負のスパイラルからなかなか抜け出せなくなった。それは資本主義経済の限界なのか、それとも自分の限界なのか。孤独なシロクマは、長い間、そんな自問をしていた。

コーチングとの出会い

4年前、わたしはコーチングに出会った。「最後まで聞く」、「相手のために質問する」、「アクノレッジする」という、これまでの自分がとってきたコミュニケーションとはまったく異なるコミュニケーション手法に驚いた。常に have to (しなければならないこと) を目標にしていた自分にとって、want to(やりたいこと)を大事にしていいという発想は斬新で、新鮮だった。コーチングを学んだり、コーチングを受けたりしているうちに、わたしの心は軽くなり、新しい目標を追いかけるエネルギーが自然と湧いてきた。また、コーチからの質問によって、「自分がだれであり、どこにいるか、何をやりたいか」ということがはっきりしてきた。やがて、いままでしゃべったことのない人たちにも、興味や関心がわいてきて、自分から声を掛けられるようになった。

誰にでもコーチが必要

ビル・ゲイツが「すべての人にコーチは必要だ」と話していたように、このグローバル社会に生きるシロクマとペンギンたちには、きっとコーチが必要なのだ。

改めてこの絵をみて、想像を膨らませてみた。

シロクマの隣にコーチがいて、二人で楽しく会話している。こんな声が聞こえてくる。

「きみが南極で一番やりたいことは?」
「ぼくはずっと前からペンギンとしゃべってみたかったんだ。どうすればいいんだろう」
「ペンギンとしゃべれるようになったら、きみは次に何をする?」
「南極の、いちばんうまい鮭を捕りたいんだ。」
「その一番うまい鮭はどこにあるんだろう」


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