コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


「承認」は力を与える

「承認」は力を与える
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Language: English

「いつも大変なお客様のところに、通い続けてくれてありがとう。
お前が一生懸命やっていることが、本当に嬉しいんや。
お前をあの病院の営業担当に選んで、本当に良かった」

承認の大きな力

前職の製薬会社で、私が最初に担当した施設。それは、過去にある経緯があったことで、取引先としてまったく相手にされない時期が約10年近く続いていた病院でした。

中途で入社した私は、社内で「誰もが担当したくない病院」と言われていたその病院の営業担当にアサインされました。もちろんお客様には相手にされず、結果も出せず、焦りと不安が募るばかりの日々を過ごしていました。

担当して、約1年が経った頃です。上司から会議室に呼び出されました。

いったい何を言われるのだろうか? 自分なりにはがんばったものの、この1年、まったく成果が出ていない。できていない理由を細かく聞かれて、責め立てられるのではないか? 担当交代になるのであれば、それはそれで楽になるかもしれないな。

そんなことばかりが私の頭の中を巡りました。

しかし、上司の口から出たのは、想像もしていなかった言葉でした。上司は部屋に入ってくると、私の目の前に座り、真っすぐに私の目を見て、冒頭の言葉を伝えてくれたのです。

その言葉を聞いて、それまで心の中にあった不安は一気に吹き飛びました。そして、「この人と一緒に働けて本当に幸せだな。絶対に成果を出して、上司に喜んでもらう。そして共に勝利の盃を交わすぞ」と強い決意をしました。

自分を見ていてくれて、信じてくれて、認めてくれている人がいる。

そのことが、私のネガティブな気持ちや諦めかけていた気持ちを奮い立たせたのです。

その後、私は失うものなど何もないと開き直り、それまで以上にお客様の元へ足繫く通い、様ざまな企画、交渉をしていきました。

その結果、多くの情報やチャンスを掴むことができ、10年間採用されなかった薬剤をその病院に採用してもらうことができたのです。

年間の売り上げは、数百万単位から一桁増えて数千万円となり、チームにも会社にも貢献できた経験を味わうことになりました。

上司と飲んだ勝利の盃のビールの美味しさは、今でも忘れられません。

役割と自分自身との同化

今振り返ると、冒頭の言葉をかけてもらう前の私は、営業としてお客様のところで成果を出せていない自分=自分の価値、と感じていました。役割と自分を同化させてしまい、自分を自分自身で否定している時期がありました。

どれだけ頑張ったとしても、相手にされない自分は価値がない、営業として人として役立たずだ、と感じていました。

そんな中、私の上司から伝えられたことは、私の存在そのものを承認してくれる言葉でした。

私自身を必要として、人として認めてくれている人がいる。それを知ることで、重たくのしかかっていたものから解放され、目に見えるものが一気に変わりました。

この経験を通じて、私は、「承認する」ことは「力を与えること」なのだと身をもって経験したのです。

誰しも「ヒト」として認めてほしい

コーチングをしていると、多くのクライアントから、こんな声をよく耳にします。

  • 上司から今まで褒められたことがない
  • まともに目を見て挨拶をされたことがない
  • 上司に認めてもらっているのかどうかは、そのことに関して上司と話したことがないから分からない
  • 上司は、自分の代わりなんていくらでもいると思っているはずだ

そこで、普段、上司からはどんな言葉をかけられることが多いのかと尋ねてみると、課題や進捗に関することばかりだといいます。

  • 課題に対して、どこまで進んでいるのか?
  • なぜ、このような結果になっているのか?
  • どうやって成果を出していくのか?

進捗や結果を確認したり、意識づけしたりすることの大切さは、彼らももちろん理解しています。

しかし、日々の活動やその人自身を認めてもらっているかどうか分からない状況で、進捗や成果の確認ばかりの会話が繰り返されることで、不安や不信感を感じている人も多いようです。

時には、「モノやコト」ばかりを評価するのではなく、「ヒト」として認めてほしいのではないでしょうか。

4つの承認

承認(acknowledgement)は、辞書によると「認めること」「『受けとった』という言明」「感謝」「礼状」「あいさつ」という意味があり、また「相手の存在に気づいていることを伝える」という語源があります。つまり、褒めることや賞賛ということではなく、「事実を事実として認めること」を指します。

コーチングには、4つの種類の承認があります。

存在承認...その人「そのもの」の存在に対して承認を与えること。

行動承認...行動や、行動の変化をよく観察して見逃さず、もしかしたら本人さえも気づいていない行動を指摘すること。

成果承認...何か成果を出した際に「目標を達成したね」「最後までやり遂げたね」と達成したことを認める承認。

成長承認...人が目標達成を目指す上で、現状どこにいるかをフィードバックする方法。

私が前職でお客様のところへ足繁く通えたのは、上司から存在承認と行動承認を伝えてもらい、私自身を信じてくれている、見てくれている、認めてくれているという信頼の元で仕事に向き合えたからだと感じています。

「承認」は力を与え、組織を変える

最近、私のあるクライアントAさんから嬉しい言葉を聞きました。

いつもよりも明るく、透き通った声で

「『承認』についてコーチングを通じて学び、部下に使ってみたところ、部下の行動が見違えるほど積極的になりました。今まで、部下のできていないことや進捗ばかりに目を向けて、質問という名の詰問をぶつけていたけれど、承認し、感謝の気持ちを伝えることを意識したら、部下が元気になってきたんです。その部下のチームは生産性があがり、成績も劇的に良くなってきました」と伝えてくれました。

その言葉をAさんから聞いた瞬間に、真剣な眼差しで私に向かって承認してくれた上司の顔が頭に浮かび、私自身にも力がみなぎってきたのです。「承認」の力を再認識できた瞬間でした。

最近、あなたは誰を承認し、力を与えましたか?


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