コーチングカフェ

コーチが、日々のコーチングの体験や、周囲の人との関わりを通じて学んだことや感じたことについて綴ったコラムです。


「信頼関係」からすべては始まる

「信頼関係」からすべては始まる
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Yさんとは、一緒に仕事をしたくない。Sさんと仕事がしたい。

中国で日系企業の支店マネジメントをしていた時に、突如、中国人の部下Aさんから言われたフィードバックです。

思いがけない一言に、その瞬間、色々な感情が私の中を駆け巡りました。

言い返したいことも、多々ありました。

しかし、意を決した表情をしている部下を目の前に、気持ちを落ち着けて声を振り絞りました。

「どうして、Sさんとなら一緒に仕事をしたいのか?」と。

「Sさんは、私のことを理解してくれている。Yさんは私を理解してくれていない。それは、言語の問題ではない」

それが、彼の返事でした。

「一緒に仕事をしたくない」のはなぜか?

脳に大きな衝撃を受けたような感覚を引きずりながら、私は、Sさんの所に向かっていました。肩を落とす私に、Sさんは淡々と聞きました。

「Yさんは、中国のことをどれくらい理解していますか?」
「スタッフ一人ひとりが、どんなキャリアを築きたいか、知っていますか?」
「彼らが職場で何をしたいか、知っていますか?」

Sさんに問われながら、自分の中に、次々と問いが浮かんできました。

「部下の価値観や考え方を、どれくらい理解出来ていただろうか?」
「彼らはマネジャーである私に何を求めているのだろうか?」
「私は、彼らのことを知ろうと努力していただろうか?」

組織の「結果の質」に必要なものは何か?

MIT(マサチューセッツ工科大学)の元教授 ダニエル・キム氏が提唱する「組織の成功循環モデル」というものがあります。

組織が成果を上げ、成功に向かうプロセスを明らかにしたもので、組織における「結果の質」を高めるには、最初のステップとして組織を構成する人の「関係の質」を高める必要がある、という考え方です。

メンバーの相互理解や信頼関係による「関係の質」が高まると、対話の中での気づきや発見が見つかりやすくなり、「思考の質」が高まります。「思考の質」が高まると、自発的な行動が生まれて「行動の質」が高まります。「行動の質」が高まると、成果が結びつきやすく「結果の質」が高まります。

ダニエル・キム「組織の成功循環モデル」

Sさんが指摘したのは、正に、私と部下の「関係の質」についてでした。

Sさんと話した後、私はすぐに、中国の歴史や文化の勉強と並行して、全員で話す場を作ること、部下と個別に話す時間を定期的に作ることを決めました。

  • 家族は元気?
  • 今、何に集中して取り組んでいるの?
  • 最近誰とよく話をしているの?
  • 最近嬉しいことはあった?
  • これからどんなことにチャレンジしたい?
  • 私にリクエストとか協力してほしいことはある?

一人ひとりと個別で話しを重ねるごとに、その人生観や仕事との向き合い方、何に時間を取られているのかなど、それぞれのストーリーを知るようになっていきました。

「関係の質」から生まれたもの

部下一人ひとりとの時間をもつようになってからしばらく経った頃のことです。

ある部下が「クライアントB社を担当したい」と申し出てきました。B社は、クライアント企業の中でも、とりわけ失敗が許されない重要顧客の一つで、彼の仕事の進め方や経験から「時期尚早」と、あえて任せていなかったクライアントです。

それまでの私だったら、彼の申し出に「まだ早い」と、一蹴していたでしょう。

しかし、これまでのキャリアやプライベート、この会社で実現したいこと、今後のキャリアは何を目指しているのかなど、一対一の個別面談で聞いてきたことが、頭の中を駆け巡りました。

そして、彼の希望を叶えたい、彼のチャレンジを応援したい、という気持ちが芽生えていくのを感じていました。

「少し考えさせてほしい」

そう答えながら、彼の人生のストーリーを一緒に作り、共に成長していくために、私も一歩踏み込もう、と心の中で決断している私がいました。

「君にB社を任せるよ」

そう伝えた時の彼の表情を忘れることができません。

その後、彼とはクライアントに価値を提供するために、何が出来るのかを共に考え行動していく日々が続きました。

彼はその後、クライアントから信頼されるパートナーとして認められるまでに成長しました。その成長によって、対応可能な業務の幅が広がり、組織全体としても良い影響が出てきました。

「関係の質」を高める一歩とは?

「あなたは部下のことについて知っていますか?」

コーチとなり、クライアントのみなさんにこの質問をすると、たいていの人は「知っている」と即答します。

もちろん、趣味や家族関係、職歴など、ある程度の情報については知っているかもしれません。また、仕事における能力についても、それなりに理解しているでしょう。

しかし、それ以上のこととなるとどうでしょうか。たとえば、次のような情報をあなたはどれだけ持っているでしょうか。

  • 彼(彼女)は、どのような価値観を持っているのか?
  • 彼(彼女)の強みはなにか?
  • 彼(彼女)は、あなたに、何を期待しているのか?
  • 彼(彼女)は、今どういう状態にいるのか?
  • 彼(彼女)は、どのような助けを必要としているのか?
  • 彼(彼女)は、今、何を学ぶ必要があるのか?
  • 現在、その人のスキルは上がっているのか?
  • 必要なタスクを持っているのか?
  • 上司には何を望んでいるのか?

相手に関心を持ち、相手に耳を傾け、目には見えないことを知ることで、今までの関りに変化が生じるかもしれません。

あなたは、周囲にいる人をどれくらい知っていますか?


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